flying step
とまあ、いろんな意味でオフモードな駄妹の様子は置いといてだ。
「うーん…………暫く掛かりそうだな、こりゃ」
一人きりの独り言ではないが、今度は気持ち強めな呆れおよび諦め感が言葉として無意識に滲み出た。何についての所感かといえば……。
「…………もう、使いこなしてるようにしか見えない、よ?」
むくりと起き上がってペタン座り。可愛さ散布に余念がないリィナの真っ逆さまな顔を見ながら、運用訓練を続けているスキルについて。
《無垢ナル戯王》────俺こと【曲芸師】の屋台骨とでも言うべき《極致の奇術師》から進化を遂げた、どうにも小難しいスキルのことについてだ。
我が身は現在空中、足元には何もナシ。つまりは虚空に立っているわけだが、それに関しては既存の《タラリア・レコード》が備える力ゆえ関係ない。
新たな力って言うのは、この上下真っ逆さまを維持しているアレ。
つまるところ……──
「や、運用に関しては問題ないんだ。掛かりそうってのは、感覚的な慣れの話」
「慣れ」
「そう、慣れ」
「………………空中で頭が乱回転してるのは、いつものこと、では?」
「うるさい。上下の概念が無くなるのは流石に俺も未経験なんだよ」
スイッチ式で常時ON・OFF切り替え可能なアクティブパッシブ。
『足場の任命権』────それが《無垢ナル戯王》の獲得した新能力一つ目にして、付き合い方を模索途中の小難しいネタだ。
簡単な話、俺が足を着けたモノが俺にとっての〝下〟になるってなスキル。《タラリア・レコード》の空中歩行を併用してしまえば『虚空』さえも能力適用範囲に含まれることが示す通り、基本的に例外は存在しない。
固定されていないモノ……例えば適当に放り投げた小石すらも、目掛けて飛んで足を着ければソレが地上に取って代わる。グッバイ物理法則も甚だしいな。
……んで、リィナに言った通り。
「ハハ、慣れる気がしねぇ超気持ち悪い。ウケる」
「……お兄さんの挙動こそ、益々もって気持ち悪いけど」
「なんてこと言うんだ貴様」
問題となっているのは、運用に際して生じる特大の違和感。つまるところ、体感で重力の方向がコロコロ変わることで頭がバグるってな部分だ。
────とはいえ、現時点でも既に特大の強みってか悪用方は見つけているゆえ死蔵する気は更々ない。これまで和解を要してきた問題児スキル各位と比べりゃ性能自体は素直もいいとこなので、気楽に付き合っていくとしよう。
自滅確定強化効果こと元《極致の奇術師》に関しても諸々アップデートされたゆえ、ポリシー重点の封印は解除して今後は気軽に頼れそうであるからして……。
「────そんなことより」
「いや『そんなこと』じゃないんだよ。今この瞬間のメインは特訓なんだよ」
と、関心があるのかないのか早々に飽きた様子でリィナが話題をぶん投げた。んで、ちみっこはグロッキーから完全に回復したのか立ち上がり、
「感想がまだ。ちゃんと『兄』の務めを果たして」
「えぇ……なにその努力義務、初耳なんだけど」
薄い胸を張りつつ、見せびらかすのは紅に輝くアクセサリー。
学生制服ライクなシャツ&スカートに魔法使い的ローブコーデ。ここ最近で一段と見慣れた姿ではあるが、先程ワンポイントが追加されたところだ。
ローブ部分の留め具に取って代わった【小紅兎の胸飾】────他でもない、此処【螺旋の紅塔】の踏破者報酬である。
……前と、その前。つまりソラやニアを連れてきた時についてもだが、
「あー、かわいいかわいい似合ってる」
「超適当なのも嫌いじゃない。好き」
「無敵ヤメロって言ってんだよ」
それでいいのか元踏破不能ダンジョンと思わないでもない。しかしまあ、貰えるもんはありがたく貰っとこうってなわけで……ほら、アレだ。
流れに任せただけではあるが、タイミング的にも丁度良かったし。
「そんな気は全くなかったんだけども、それもう誕プレってことにしとくか」
「……、…………? ………………ぇっ」
というのも────
「今月の二十二日、だろ?」
「……そう、だけど」
────まあ、そういうわけで。
「……いいの?」
「いいも悪いも、流れで言ってるだけだし……。繰り返すが、そんな気なかったとも言ってるし。これは照れ隠しとかじゃなくてマジな話だし」
おかしな関係になりはしたが、かといって早々に記念日だの何だのを大切にし始めるのも痒い。そう思い、事実スルーするつもりでいた。
いやスルーまではいかないが、俺の方から積極的に触れるつもりはなかった。
だから、重ねて照れ隠しの冗談などではなく。
「ついでな、ついで。『兄』から『妹』へなんて、そんなもんでいいだろ」
断じて、そういうことなのである────と、
「……なんだこんにゃろう珍しい顔しやがって。スクショ取るぞコラ」
「ふふっ……お兄さんだけのモノにして、ね」
「お前さぁ、なんか時たま言い方がさぁ、狙ってる感あって腹立つというかさぁ」
俺の実感情云々は知らんとばかり、事実だけ見る自称妹は至極ご満悦である。
デフォルトメイクのダウナー感を消し去り、年相応……いや残すところ十日ちょいで同い年になってしまう訳だが、仮想世界での外見に相応しいという意味で。
「んふ、ふ……」
「やーめろ引っ張るな重力上下反転してんだっての」
素直に可愛らしい笑みを浮かべて、じゃれついてくるリィナを躱す。
躱しつつ、並行起動していた諸々をオフにして────
「ほれ、出るぞ。……ついでのついでに空中散歩でもして帰るか?」
一応、ほんのり程度、吝かではない内心を伝えるようにクシャリ頭を一撫で。
……と、それについては、
「お兄さん」
「なんだよ」
「お手本みたいなツンデレが凄く凄くて風邪ひきそう」
「ひいてろ馬鹿め」
サービスが過ぎたかもしれないと、反省しておくものとする。
ミナリナ生誕祭は11/22。
それはそれとして、この兄妹(???)かわいい好き。