過ぎ去ること光の如し
アルカディアに存在する『魔法』の源となる〝属性〟────火やら水やらといった自然に属する性質が、形ある姿として顕現したモノ。
それこそが大精霊。果てなく広がる神創の庭園に点在する秘された領域に在って、同じ力を持つプレイヤーを待ち受け試練と加護を与える力の化身たち。
そんな大いなる存在は、無数に存在するボスエネミーの中でもアレコレ特殊。
どこかの馬鹿野郎よろしく全くの無関係……というか、類する適性を持たないというのに単身渾身迫真のゴリ押しで攻略を遂げる、なんてのは想定の外。
火なら火、水なら水と、対応した属性魔法を用いたギミックの攻略が基本的に不可欠。それが道中の踏破でも大精霊本体の討伐でも求められる前提テーマ。
過去【氷守の大精霊 エペル】には申し訳のないことをしたものだが……その後に攻略した【水俄の大精霊 ラファン】は、多少なり作法に則ったと言えるだろう。
自らの魔を以って道を〝水〟で満たすことにより、導を起動する。
自らの魔を以って〝大いなる水〟を満たすことで、勝利への活路を開く。
まあ、そういった具合に。とにもかくにも『大精霊』という特別なボス攻略イベントでは、常として相応しい力を相応しく使う必要があるということだ。
さて、それでは、例えば。
領域名【輝照幻の球景】……乱反射および屈折する光の如く。秩序だった無秩序とでも言うべきか、前後左右上下が存在しない摩訶不思議な空間の最奥に座す主。
【光懍の大精霊 アポロ】────〝光〟を司るがゆえに周囲一帯一切の光明を統べ、取り込み、秘して、その名とは相反する完全な闇を生み出すことにより、謁見に訪れたプレイヤーから景色諸共に身を隠す……そんな相手に、
同じく〝光〟を携えた我らが天使が、どう立ち向かうのかといえば。
「──瞬きよ』っ、『疾く顕せ瞬きよ』────っ……準備、できました!」
「ッよし来たカウント‼︎ 3、2、1────ッ!」
完全な真っ暗闇。比喩なく何一つとして目に映らない、自分自身さえも目視することが叶わない真なる闇の只中にて。
姿の見えぬ相棒の声を聞きつつ、チカッと出掛かりで瞬いては迫り来る視認不能の脅威を蹴り散らしながら、タイミング合わせの指示を叫ぶ。
互いの存在を知らせる術は声音と共に振り撒く気配のみ。そんな異常シチュエーションを強要する戦闘を二十分近く続け、もう流石に慣れた頃合い────
「いき、ますっ!」
もう何度目か、我が相棒の『空間を埋め尽くす闇に対するアンサー』が瞬く。
……────いや、光り瞬くなんてレベルではなく。
「〝解放〟ッ‼︎」
俺のカウントダウンとソラの鍵言に合わせて、視界ゼロの異常戦場に立つ三人が同時に固く目を瞑った瞬間。眼球を覆う目蓋と、そのまた上から目を覆った腕をも貫く勢いで、勘違いではなく肌に圧を叩き付けるほどの激光が炸裂した。
放たれたのは《ファスト・ライト》────『周囲に在る者の目を眩ませる激しい光を放つ』という極々シンプルな効果の、光属性に類する初級魔法。
然して、魔法を放ったのはソラ本人ではなく魔剣。
────闇の中へ浮かべられていた、百余りの魔剣。
ソラの武器適性スキルツリー《魔剣ノ乙女》が内包してはいるものの、滅多に活用されることのないスキル、その名も《ロード・ブレット》の大変貴重な活躍劇。
秘める効果は至極単純、魔剣に発動待機状態の魔法を籠められるというもの。
つまり……────ただひたすら繰り返し紡がれた超短文詠唱を、籠めに籠められた魔剣たちが、百の激光を一息に解き放った結果がコレ。
一抹の光もない暗黒が、そのもの一閃にて断たれるが如く消し飛んで、
『────────────……』
許容量オーバー。
消化が追い付くはずもない一瞬にて馬鹿げた光量を喰らったせいで権能がバグり、蓄えた景色をぶち撒けるまま声鳴りを響かせる巨躯が存在を晒す。
頭部の代わりに据えられた光球。全身を覆う羽毛に立派な翼。
他の大精霊と共通する特徴を持つ他、その姿を称すとすれば〝蛇〟が妥当か。全長何十メートルに及ぶとも知れない、超長大かつ巨大な威容。
神々しくも、どこか生々しく、恐ろしい。
そんなモノが闇の中から顔を出したとあらば────
「アーシェッ‼︎」
「んっ」
こちらの対応は一択、歯を剥き得物を引っ提げて突っ込むのみ。
「「ッ────‼︎」」
交錯一歩。
閃を描いた翠と銀が、同様の工程を踏み散々に付けてきた傷をなぞる。
斯くしてビシリと走った亀裂目掛け、手向けるは終幕の一撃。
「────《神穿ノ弌塔》ッ!」
光の爆撃、からの剣塔一擲。
轟と奔った魔剣の巨塔が、遂に威躯の〝核〟を打ち砕いて────
◇【光懍の大精霊 アポロ】を討伐しました◇
「ふぃーっと………………ま、こんなもんか」
然らば、光と散った大精霊の残滓が降り注ぐ中。
「────…………あの、えぇ……? 流石に、可哀想なレベルというか……」
バキンと響音、俺の傍。割れた空間の裂け目から顔を出したのは非戦闘員が一名。
つまるところ定員一名快適約束異空間こと《星月ノ護手》に引き篭もり、戦闘中ずっと安心安全に運搬され続けていたニアちゃんの感想で以って。
一幕は、とりあえずのところ、容易く滞りなく締め括られて了と相成った。
所詮ハーフレイドボスだからね(感覚麻痺)
そんなもんよ(諸行無常)
面子がアレだもの(天下無双)
ニアちゃん可愛いですね(ニアかわ)