わるだくみ
斯くして、諸々アレコレお話を終えたのは暫く後。
「────それでは稀人さまァッ‼︎ 我が身の役立つ戦場ございますれば何時如何なる時とて名を喚んでくださいますこと、このケンディ盾を磨いて待ち侘──」
「うん。はい。頼りにしてるよ」
「望外の光栄ッッッ!!! 失礼いたします────ッ!!!!!」
来た時と同様の転移光……プレイヤーの用いるソレとは僅かながら輝きの異なる気がしないでもない青光に包まれ、帰っていった〝嵐〟を皮切りに。
「はは、強烈だな……──したら姫さん、俺も失礼するぜ」
「ん。また連絡する」
「お二人さんも、またな」
「おつかれさんでーす」
「ぁ、おっ、お疲れ様です!」
やはり圧倒されてのことだろう。
ほんのり引き攣り気味ではあるが愉快そうな笑みを浮かべつつ……俺たちにヒラリ手を振り、ジンさんが自然と掲げた掌に拳をぶつけて去るエンラ氏。
「ほな俺も。またなんかあったら呼んだってな」
「ん。また連絡する」
「お二人さんも……──っと、ハル君。ソラちゃんもやけど」
「「はい?」」
「サヤちゃんたちと仲良うしてくれて、おおきになぁ。あの子ら喜んどったよ」
「へ? あぁ、いえいえ。こちらこそ楽しく世話になったもので、全然」
「しっかり知り合うたことやし、またえぇ時に『遠征』にも一緒したってな。バッチリ計画しての日跨ぎ旅行も、星空イベントとはまた違う楽しみがあるさかい」
「それは是非とも」
そして綺麗に流れへ乗るまま。いつもの如く北の保護者めいて大らかな雰囲気を振り撒きつつ、もう完全に『いい人』なだけの笑顔を残して去ったジンさん。
大人組が離脱して、残るは三人。
んで、こういった場合は常として真っ先に声を上げる────
「……それじゃ」
「ちょい待ちアーシェ、話がある」
多忙を極める姫様を、俺は予定通りに呼び止めた。
余裕の顕れか、あるいは余裕のフリか。〝個人戦〟では至極メチャクチャな勢いで迫ってくる癖に、こういった場面では他二人に譲ることの多い女王様を。
然らば、
「ん」
たったのそれだけで、フリも誤魔化しも取り繕いもナシ。ほんのり無表情を崩して嬉しそうな顔を見せる彼女のそれだけで、俺も簡単に胸中をやられつつ。
「こっから、コレに関しては二ヶ月ちょい保留ってことは」
と、フロアの床を踵で叩き示しつつ。
「流石に『暇』は、できるよな? お忙しい【剣ノ女王】様にも」
「……? そう、ね。十二月の半ばから、また別件で忙しくはなるけれど」
「四柱戦争は俺もだから承知してる」
なんて、隣から相棒の視線を頂戴しつつ。
────用件に関しては実際のとこ、相棒が大いに関係することだから、
「そしたら悪い、どこかで少し時間を作ってくれ。北が言う『遠征』ほどじゃないけども……ちょっと、こう、遠出に付き合ってほしい」
「…………?」
「…………」
目の前でアーシェを誘うことに関しては、どうかお許しいただきたい。
どういう立場でいればいいのやら、困っているような。唐突に自分を置いてけぼりにするパートナーに、ほんのりむくれているような。
どうとでも取れる微妙な顔で俺を見つめていらっしゃるところ悪いが……。
重ねて、
「ほら、ソラさん言ってただろ。『アイリスさんとも冒険してみたいです』って」
「……へぁっ? ぇ、わたっ、へっ?」
俺がどうこうという話ではなく────いや、最終的には俺がどうこうという話に帰結するものではあるのだが、場当たり的に見れば主役はそっち。
……というアレコレをネタバラシするのは、もう少し先になる予定なので。
今は俺の『唐突な思い付き』に、申し訳ないが驚き戸惑っていただくとして。
「……ふふ、そうなの?」
「ち、ちがっ…………わ、ないですけどっ……──ぇ、なん、急にっ……!」
気のせいでなければ、俺に呼び止められたことに増して嬉しそうな顔をする姫が一人。そんで、唐突に過去の内緒話を暴露した俺を可愛く睨む天使が一人。
────板挟みはいつものこと。最早この程度で怯んじゃいられない。
「んじゃ、乗り気なら予定くれ。こっちでアレコレ計画させてもらうから」
「ん。わかった」
「私はわかってないですっ……! ハル、また何か悪だくみしてますねっ!?」
「『また』……?」
「日頃の行い」
「日頃から悪だくみはしてないよ???」
遅ればせながら、
そりゃもう、大変、誠に、遅ればせながら。
俺の脚は、今に至り止まる択なく、もう既に歩み出しているから。
まあとりあえずおでかけってことで一つ。




