予定の次の予定
さて、そんな感じで挑戦者に関する過程は一旦ヨシってな具合だろう。
六枠目と思しきNPCについても、四陣営それぞれプラス誰かしらのパートナーという推測と併せて後で確認を重ねれば良い話だ。
ってなわけで、実質的な各陣営トップを集めた会議は次の問題へ。
「今のペースだと、満ちるまで二ヶ月近くは掛かりそう」
「年明けのタイミングかぁ」
「ぁー、ってぇと……」
「みんな予定もあるやろし、もっと後ろにズレそやねぇ」
然らばアーシェが端的に告げ、ゴッサンが顎を擦り、エンラ氏が腕を組み天井を見上げ、ジンさんが普段通り至極はんなりと笑み零す。
なんの話かといえば、第百層の床部に描かれた扉。そこに記されたゲージの話。
六つの挑戦枠を記す、プレイヤーのカラーカーソルと同形の印と同じく。何かしらの進捗を示すのだろう光を宿す、外周部の模様についてだ。
これも後で試せば済む話だが、おそらく挑戦枠の詳細を解き明かして印を六つ光らせたとて扉は開かない可能性が高いだろう。
あるいは開いたとて、なんらかの条件未達という体で『扉の先』に進行不具合や如何ともしがたい不利が待ち受ける可能性が極めて高い。
なので、十中八九ゲージが満ちるまで機を待つ必要がある。つまりはその『待ち』の期間が今から数えて二ヶ月弱に亘りそうだと、アーシェは言ったわけだ。
「────ま、いいんじゃねぇか。ささっと百層踏破を終えて、枠の方だけだが謎も解き明かせた分、覚悟と準備を重ねる期間が早めに手に入ったと思えば」
「はい。間に次の『星空イベント』や『四柱戦争』も挟むことですし、新たなチームアップや連携の確認習熟、打ち合わせに費やせる時間は思うほどありません」
勿論、十分な休息に割く時間も必要ですから────と、父の言葉に乗って進行を継ぎ補足を足しながら娘さんが言う。
……言いつつ、その目が俺の方を向いた。
「また改めて、序列持ち全員が集まれる時と場で議論に上げる予定ではありますが……今いる方々にも、確定枠は伝えておこうと思います」
「………………」
でもって、続く言葉で意味が確定。
いやまあ、予想しないでもなかったが────
「まずアイリス。次にハル様。そしてソラ様の並びは動かないでしょう」
当然、そうなるよなといったところ。
今に至って俺自身の個人戦闘能力が『序列持ち』内でも……なんというかこう、かなり上の方であるという自覚はある。これまでの戦果も鑑みて、流石に。
それに加えて俺の存在が『パーティプレイにおける【剣ノ女王】のスペックを最大限に引き上げる支援効果アイテム』に成り得る以上は確定枠扱いも然りだろう。
アーシェが持つ【狐幸ノ影纏布】は指定した限定対象者が同戦場に存在する場合に、序列称号『剣ノ女王』の強化効果《ひとりの勇者》の発動制限を撤廃する。
つまり実質、ソロ以外で本気を出すには俺の存在が不可欠ということだ。
で、俺が択に入るということは……──アーシェに対する俺と全く同様の理由から、俺に対するソラという形が不可避に成り立つ。
正直なところ単体スペックだけで見ても俺以上の確定枠ではあると思うが、プラス俺とセットなら互いの戦力が爆上がりする点で完膚なきまでの択ナシ。
とまあ、それを理解しているゆえに……。
「了解っす」
先輩たちを押し退ける畏れ多さはあるものの、俺とて既に一端の序列持ち。
頷き返すのに、躊躇いは無かった。
「……北と西の人選に関しては、もう暫く考える。改めての場で決を取ることになるかもしれないから、一応それぞれでも考えておいて」
俺の首肯を見て取り、口を開くは再びアーシェ。
然して、お姫様の通達に各々『了解』の意を口にする仲間たちの輪内にて。
「NPCについても同じ。これに関しては、すぐにでも諸々の確認をしておく──……ハル、それもちょっと手伝ってほしい」
「うん?」
「六枠目がNPCという推測が当たっていたとして、更に条件があるかもしれない。例えば……プレイヤーと絆を結んでいる者、限定とか」
「あぁー……」
と、ヘレナさんに続いて俺個人へ向けられる言葉に耳を傾け納得一つ。そういや、かなり稀有な例なんだっけか『NPCとのフレンド登録』って。
そういうことなら確かに、かの賑やか極まる双盾騎士様────ケンディ殿の名をリストに刻んでいる俺が協力するのが早いだろう。
「そっちも了解だ。いつでも」
「ん、よろしく」
といったところで。
いつもの無表情……よりか、多少なり判別の効く微笑を浮かべながら、
「…………………………」
「………………」
俺をジッと見るアーシェと視線を交わすこと、一秒、二秒、三秒。
「…………………………………………」
「………………………………」
斯くして────
流石にそろそろ、我慢の限界とばかり。
ツカツカツカと足早に直進してきた【剣ノ女王】様は、ガッと俺の腹を、
もとい……──腹に回されている細っこい腕を鷲掴みにした。
「────いつまで抱き着いているつもりかしら?」
「────無限に?」
斯くして斯くして、始まるは十人目 vs お姫様の睨み合い。
元々は百層攻略達成の報告から、流れで場に呼ばれたのは囲炉裏だけ。その隣へ勝手に引っ付いてきたのが赤色なら……そのまた隣へ勝手について来て、到着と同時に分離し俺へ突撃かましてきたのが青色である。
もう、ずっとである。
真面目な会議が始まる前から、始まって以降とて、片時も離れずである。
ならば、何故ずっとスルーし続けていたのかといえば、そんなもの。
言っても聞かないのが理解っていたがゆえ諦めていただけのこと。
「放して。兄分補給は妹の権利」
最早なんの躊躇いもなくヤベーことを口からぶっ放し始めたリィナに、一部例外を除いた場の全員から惜しみない苦笑いが向けられ、
「時と場所と場合を弁えて。普通『妹』は公衆の面前かつ真面目な雰囲気の中でベタベタと『兄』に甘えたりしない。いい加減にしなさいズルい」
迫真の無表情でグイグイと────しかし力ずくの無理矢理は気が引けるのか、あくまで自主的に解放させようとしながら言葉を連ねるアーシェに対して、
「どうせ気にする人、ここにはいない」
退かぬ自称妹は我儘を貫き、勝手に『気にしない人たち』に分類された周囲は苦笑いを通り越して呆れ諦め生暖かな視線へシフト。
「………………」
そんな面々を、俺は無の心で順に見回していき────
「…………そ、──それでは、とりあえず、以上としまして。予定を調整した後また連絡をさせていただきますので、各自お待ちください、ませ」
最後に目が合ったヘレナさんの知的極まるモノクルが、ずり落ちて見えたのは……まあ、目の錯覚か気のせいということにしておいて。
これにて解散とあらば、次の予定は決まっている。
「ほいっと」
「「────ぁっ」」
『姫』と『妹』の板挟みより刹那の脱出。俺は次々と交わした視線の中で、群を抜いた呆れ色に瞳を染めていた一人へスタスタ歩み寄り……。
「よう囲炉裏、ちょい付き合え」
「藪から棒に……────いや、わかった。いいだろう」
我が友を、駄弁りに誘った。
そんな最中ずっっっっっと隣でニコニコお師匠様かわいい。