常も嵐も賑々しく
────人には誰しも、得手不得手というものがある。
勉強、運動、仕事、遊戯、隔てなく。世に成す事象は一切の例外なく、人それぞれ必ずそのどちらかに分類されると言っても間違いではないだろう。
然して、俺は常々こう考えている。
得意、不得意。
上手、下手。
どちらに転がろうと遍くは個性。確かな順位付けがされてしまう非情な現実なれど……『できる自分』も『できない自分』も、等しく愛してこそ幸せなりと。
胸を張ろうぜ、モノは考えようだ。
そう、たとえ他人より絶望的に劣っている部分があったとしても、
「────おッラぁい!!!!!」
ヒュッ! ドッ! ガコーンッッッ!!!!!
「ぶはッ……!」
「……ふ、ぐっ」
「っ、お、惜し……ふっ、……!」
「あっははははは!!!」
それならそれで、景気よく笑ってくれる友達を探せばいいじゃないと。
「……………………………………………………………………」
全然よくねぇ。なに笑ってんだギャグじゃねぇぞ、いい加減にしろ。
といったところで、週末土曜日。
愉快な仲間たちこと大学グループもとい専属サポートチームの四人を引き連れ、やって来たのは先日のリクエストに応えたアミューズメント施設。
その一画ボウリング場のワンレーンにて。迫真のガーター三連打を披露せしめた俺に贈られるのは、実に賑々しく惜しみのない笑顔笑声の四重奏。
「ふ、ふへっ……! あーもう、マジ。マジ俊樹、ナイス情報共有っ……!」
斯くして、お手本のような大爆笑。腹を抱えて笑う翔子と、
「く、くく…………さ、流石になぁ……! コレは独り占めNGだわと思っ……!」
同じく腹を抱えながら、グループ内ぶっちぎりの点数も併せて筆頭弱者を愉快そうに見つめる俊樹もとい野郎仲間と、
「んっ、ふ……弱点、意外と多いの、いいと思う、よ」
零れる笑みを眼鏡クイクイで誤魔化しつつも、全く誤魔化せていない美稀と、
「ん゛っ……ん……! ────希、君っ!」
「なんすか」
「大丈夫、だよ!!! 君は! そのままでいよう、ねっ!!!」
「『ねっ』じゃないんだわ」
フォローをしているつもりなのか否か、今日も今日とて荒ぶっている楓さん。
────……プラス、一名。
「………………ソ──」
「ん゛んっ……」
「──…………陽さん」
「はふっ……──はい。なんでしょうか希さん」
「いやもう笑ってるから。堪えられてないから。この仕打ち忘れんからな揃いも揃って覚えてろよ俺を怒らせたら一体どうなるのか将来的に知らしめてやる」
「だ、だって……! そんなこと言われましてもっ……!」
お姉さん方に取り囲まれ厳重に守護されている、四谷もとい夏目の御令嬢。
仮想世界でも現実世界でも天使の如く実に可愛らしい、なおかつ現実においては華奢な外見通りの身体スペックな陽お嬢────ソラさんにも普通にスコア負けしているという事実が、最早これ以上ないというほどに俺のプライドを苛んでいた。
マジどうなってんだ俺の壊滅的なボウリングセンスはよ。
「なんで『将来的に』なん?」
「あれじゃね。仕返しっても特にパッと思い付かないんだろコイツ」
「希君って、そもそも怒れるの?」
「そのままでいよう、ねっ!!!!!」
そんでマジどうなってんだよ。俺の周りの愉快極まる仲間たち率はよ。
重ねて、週末土曜────
つまるところ、鍵樹迷宮第百層踏破を果たした木曜から数えて翌々日の昼過ぎ。
「んの舐めやがって見とけよ激しい怒りからの覚醒は王道展、開ッ────‼︎」
ヒュッ! ドッ! ガコーンッッッッッ!!!!!!!
「なんでッ!!!」
「「「「「なんでって言われても……!」」」」」
今日も今日とて有難いことに、青春は途絶えず俺に構ってくれていた。
それでは、五章第七節。
五章、第七節。いざ覚悟を決めて、臨みましょう。