基たる樹の頂にて 其ノ肆
戦闘要素の存在するゲームにおいて、厄介な〝ボス〟とは如何なるものか。
複雑な謎解き要素を抱えるモノ? あるいは環境やら何やらで不利を強いてくるモノ? はたまた魔王に対する聖剣のように持ち物検査を要するモノ?
多種多様千差万別。それこそゲームの数だけ、プレイヤーの数だけ答えがあることだろう────ってなわけで、俺とてソレに関する持論はある。
然して、俺が思う『こういうボスが一番つよい』栄えある一位は……。
ただ、ただ、単純に、数値的スペックが馬鹿過ぎるがゆえに、真正面からバッチバチのガン殴り合い超々長期戦を避けられないタイプ一択である。
「────《颯》ェアぃッ‼︎」
翔け抜け一歩、果たして閃を引いたのは幾度目のことか。
千切っても千切っても生えてくる……どころか、千切られた事実を無かったことにしているかの如く心底アホなノーモーション瞬間再生。
もういっそ迎撃に割くリソースが勿体ないと開始十分そこらから回避一択となった〝腕〟を掻い潜り、奔り届けた太刀が刃を以って銀を捌く。
然らば、渾身ヒットからの全力アウェイ────だがしかし。
『 』
開戦より四十分強。八割方HPを削り取られて完全にプレイヤーぶち転がしテンションへと染まり切っている擬神像は、簡単には逃がしちゃくれない。
戦いの最中で学習するのはプレイヤーだけではない、なんてのはアルカディアにおける一般常識。流石に一幕を跨いで覚えている例外は現状『色持ち』に限られるものの、一度の戦闘間であれば知性あるエネミーは〝敵〟を見て学ぶモノだ。
『音速を蹴飛ばして刃を振り翳す物騒な羽虫』なんかは最重要学習対象のソレだろう。ゆえに長々と死闘を繰り広げていれば俺の脚に対応した策……例えば、高速機動の軌道上に〝置き〟連打なんてものが敷設されるのも道理である。
一刀の余韻で翔け抜ける先に置かれた不可視かつ致死の力。掠りでもすれば十中八九、手なり足なり捥ぎ取られても不思議ではないが────
「ッハ……!」
掠らなきゃオーケー、踏み込み反転、空中ピンボールは十八番中の十八番。
でもって化物様が俺を学んでいる間に、俺も俺とて化物様の癖やら何やら行動パターンは全部まるっと『記憶』済みなんだよなぁっと‼︎
「《天歩》」
空間の歪み視認、および嫌な感じ察知。記憶完了、ルート構築、挙動設定、からの────推力最大点火にてアウェイ中断ヒットおかわり。
座標指定で放たれる不可視の〝力〟……俺含めて開幕より全回避を遂行しているため、いまだ正体不明の〝なにか〟を掻い潜り閃く型は七の太刀。
「《七……────星》ぃッ‼︎」
巨躯の首を中心に捉え、五芒星の辺を辿る瞬間七連撃。
『 』
手応えアリ。相も変わらず声も表情も何もない静かな暴力の化身だが、結局のところタネも仕掛けもナシで単純明快に馬鹿硬いという畜生性能に目を瞑れば……。
最早、脅威は感じない。
剣の二冠が記した最速記録を満たさない内に、底が見えてしまっていた。
怪物に輪を掛けてぶっ飛んだ耐久力、および攻撃力。基本的にボスに実装しちゃいけないやつと言われるHP回復能力。初見では俺の目を驚かせるほどの初速かつ、並の高速戦士では逃げ切れないであろう最高速を誇る伸縮自在無尽の背腕。
更には特殊能力の類を霧散させる掌に、不可視高速の座標攻撃。それは能力なのか否か、明確に精神を侵してくる圧や怖気などなどエトセトラ。どれもこれも、単体にて十分以上に脅威と成り得るパーツのてんこ盛りだった、それは間違いない。
つまるところ、俺が思う『こういうボスが一番つよい』云々に則ればコイツ……【隔世ノ擬神像】は間違いなく厄介な手合いだったはずなのだ。
けれども、だけれども、ただ一つの、とある性質────
最も至近にいるプレイヤーだけを執拗に狙い続けるという至極一途な敵愾心指向性を、他ならぬ【曲芸師】に確保されてしまったのが運の尽きである。
さて……『全部躱せば、絶対に負けない』って言葉を知ってるか?
俺こと【曲芸師】の座右の銘だ、覚えとけ。
「────《神穿ノ弌塔》ッ‼︎」
「────ぬぅアッ‼︎」
斯くして余裕綽々絶対回避盾の後方、安全圏より飛来するは〝剣〟と〝拳〟共に唸りを上げて空間を押し退ける特大の威。
『 』
根差す巨躯は、避けられず。
然らば当然のこと、着弾、轟音、そして激震────といったムーブが成立してしまった以上、最早この戦いは戦いに非ずと言っても差し支えないレベルだ。
本来であれば、オーバーレイド級エネミーのターゲットが単身に集中するなどド畜生を超えて生存不可を地で行くクソボス案件。如何な序列持ちとて苦労は避けられないだろうて、トラ吉たちがアレコレ言っていたのも頷ける。
しかしまあ、俺ならば。
某モグラモドキよろしく、馬鹿げた巨体で自由気ままに飛び回るだの、回避不能な拘束技だのといった手札でもない限り。
自惚れ抜きで、俺ならば。
「……っし。んじゃまあ、グダグダやってないで締めようか、ねぇッ!」
この程度、ちょいちょい反撃しつつ生き残るだけならイージーゲーム。
本気で俺を泣かせたくば【大財を隠せし土巨竜】の群れか【悉くを斃せし黒滲】でも連れて来いや────ってなわけで、
性懲りもなく殺到する〝腕〟やら〝力〟やらを、軽々あしらいつつ。
「『春の名に於いて現在を拓く』」
〝想起〟&解放【真白の星剣】────さあ相棒、長いようで短いようで普通に果てしなかった鍵樹攻略。フィニッシュは華々しく派手に行こうぜッ!
哀しいまでの相性ゲーム。
ノンストップ音速で飛び回る奴なんか考慮に入れて設計されてないです。
ちなみに単純な戦闘力を示すと実はモグラモドキ>>>擬神像。そも六人編成限定エリアでオーバーレイド級が出てくんのがおかしいって話だからね。
あれ意外と大したこと……って思った人は感覚が曲芸師ってるので注意しろ。
ついでにユニ君の上位互換発言云々は後で拾われるよ。