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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第六節

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あっちこっち曲芸師


 ────暇は、ない。そう、どこにも転がってないのだ。


「……………………なんだコレ、大人気か?」


 そりゃもう最近は、殊更に。



 帰宅後即就寝ログイン、からの即起床スポーン。大学生を遂行した後に在る夕食までの微妙な空き時間は、おおよそ八割強の確率でアルカディア行きとなるのが常。


 然らば今日も八割に身を浸らせ、現実に在る機械仕掛けの寝台より仮想世界のクランホームに在る自室ベッドへ意識を移し、おはようからの十秒フラット。


 寝起きのルーティンを終えるや否や、ピロロロロンと連なったのはメッセージ着信の報せ五連打。ゲームにログインした瞬間に個人チャットが飛んでくるなど完全なるネト充の具現、それ自体は素直に光栄かつ喜ばしいことなのだが……。



【タイガー☆ラッキー】:よう暇か? ちょっと顔貸せや


【Natsume】:今アンタ時間ある? ちょっと顔貸しなさいよ


【囲炉裏】:ハル、悪いが少し時間を取ってくれ。返事は早い方が好ましい


【Iris】:今日の夕食は皆で鍋。18:00に集合、遅れないように


【Sayaka】:ハル様。大事な、お話がございます。もしよろしければ────



 ……とまあ、そんな具合に。


 若干一件なんとも気の抜ける食いしん坊は置いとくとして、残る四件の『早々に顔を出せ』的なアレがクワドラプルブッキングで俺を攻め立てる。


 八月末から九月にかけての『四柱戦争』&『トライアングル・デュオ』&『緑繋攻略』といった流れで一段と知り合いが爆増して以降、なんやかんやと知人友人から声を掛けられる機会が多くなって久しい今日この頃。


 ちょっとした会話だけではなくお誘い・・・も数を増しており、心嬉しくはあるのだが……身体が一つしかなく申し訳ねぇってな場面も増えているのが困りもの。


「えー、ぁー……とー…………」


 にしても、今日の渋滞具合は酷い方。トラ吉&なっちゃん先輩の猫科二名が、駄々被りの文面で偶発的仲良しになっているのを笑っているどころではない。


 したらば、とりあえず順に消化していくしかないってことで────



 ◇◆◇◆◇



「────恥を捨てて単刀直入に行く。相談に乗ってくれ」


「なんの?」


 ってなことで、まず足を運んだのは東の円卓。つまり相手は、


「……………………………………………………………………女子について・・・・・・だ」


「オーケーわかった。真正面から俺にソレを切り出したって部分に対して、お前が処理に苦心したであろう葛藤諸々は理解する。笑わねぇから決死の顔やめろ」


 ちょいちょい駄弁りはするものの、わざわざ俺を呼び出したりなんてのは珍しい寄りに位置する一人。ブロンド侍こと同陣営の先輩序列持ち【無双】の囲炉裏。


 初っ端の言葉通り、少ない文字数で明快なる用件を堂々白状したイケメンに苦笑一つ。俺もまた言葉通り揶揄いの選択肢を脳から追い出し、真摯に構えて見せた。


 諸々の事情的に、現在の俺は世界有数の『人様の恋愛事情に対して舐めた態度を取れない野郎』であるからして……とまあ、


 そんな反応も、それはそれで、やりづらさがあるのだろう。


「…………突然すまん。君に恋愛コレ関係の話題を振っていいものか、悩んだんだが」


「だから、いいっての。話聞くぜ友よ。頼りにしてくれとは言えねぇけどもさ」


 なんて、稀少も稀少な態度で以って軽く頭を下げてみせた囲炉裏に苦笑二つ目。


 男子ノリで背中でも張り飛ばしてやろうかと一瞬考えたが、後が怖過ぎるのでガチの刹那で細切れバットエンド択を棄却しつつ────


「ただ、悪い。ちょっと今、予定が渋滞しててだな……」


「いや、平気だ。早い方がと急かしたのは返事についてと書いただろう。相談に関しては改めて後日…………すまないが、ある程度しっかり時間を取って頼みたい」


「あぁ、まあ、そういうことなら全然」


「…………………………」


「どうしたよ大丈夫かマジ気にすんなって。なんかあったのか?」


「いや…………ない。いや、……うん、ない。が、少々……──」


「ぁオーケーもういい喋んな。わかった、大分わかったから。()()()()()()()()()()()()()、多分だけど俺も経験あるわかる類の奴だから、安心しろ(?)」


 と、いったところで。


 珍しいどころではない酷く弱々しい様を晒してくれた親友に関しては……。


「………………ハル」


「なんすか」


「助かる。すまない。ありがとう……」


「おい本気でヤメろ。それ以上しおらしさを見せんな気色悪い」


 そんな具合で、一旦保留にするものとする。



 ◇◆◇◆◇



「んじゃいくぜ。とくと見よ……────変ッッッッッッッ身!!!」


「うぉっほあああ!? ガチやんけズルいで自分えぇ加減にしとけよ!!!」


 とまあ、間に挟んで速攻消化したトラ案件。


 同陣営序列持ちのショウレンから話を聞いたのだろう。俺が昨日披露した語手武装蹂躙劇云々で好奇心に殺されたねこ野郎とは、適当に馬鹿やって解散がトラ吉。


 例によってイスティア初心者エリアの猪平原に馬鹿一号を呼び付け、パパっと完全着装フルアーマメントを魅せ付けた後さっさとお帰りいただいた。


 はい次。



 ◇◆◇◆◇



【Iris】:今日の夕食は皆で鍋。18:00に集合、遅れないように


【Haru】:メインの具材は肉か魚か、そこが問題だ


【Iris】:両方で


【Haru】:可決


 はい次



 ◇◆◇◆◇



「────ふーん……攻めか守りかの単純二択。ま、予想通りね」


「どっちも有用アリだよなー」


 然して、珍しく深刻そうな気配を漂わせていた囲炉裏案件を先発、その後にパパっと秒で終わらせられると判断したトラを挟み、イスティアから鍵樹街への移動時間の合間で同居人アーシェとの日常会話……と、タスクを順調に乗り継ぎ四件目。


 いつもの如く高所が子猫フェイバリットらしい【糸巻】様に拝謁するため木登り一歩・・。文字通りのロケットジャンプで地上数百メートルの枝に飛び乗り、今に至り俺の挙動に一切の驚きも何も向けなくなった先輩の横に腰掛け臨むは情報交換。


 なにかと言えば昨日のこと。同じタイミングかつ異なるルートを辿った果てとして九十層を攻略するに至り、それぞれが取得した報酬スキルについての話だ。


「ちな、進んで戻ってで何度か【土ノ魔人ダオ】を攻略して検証したんだけど」


「さっすが勤勉お猫様────ぁ痛てっ」


「結論。報酬スキルは『全問完答』か『全問無視』を、()()()()()()()()()()()()()()()()()で付与されるっぽいわね。ギミック無視で倒したらスキルが消えて、もっかいギミック解いて倒したら再取得……つまり、両取りは無理な仕様らしいわ」


「へぇ、そりゃ残念。……それはそれとして今デコピンしましたよね?」


「されて然る発言をしてないか、アンタの『記憶』に聞いてみなさいな」


 じゃれ合い戯れはさて置いて、彼女が確定させた情報は普通に貴重。


 第六十層から十層刻みで登場する『魔人』共通のギミック、迷路を全て解き明かし進むことで手に入る《魔人の寵愛》……──こちらは防御型のスキルで、あらゆる属性攻撃に対するプレイヤーの耐性値を引き上げてくれるという代物。


 同類の効果を持つモノとして《四辺の加護》というダンジョン攻略報酬スキルが存在するが、効果の幅も量も揃って《魔人の寵愛》が上回る。


 そして勿論のこと常時発動型パッシブだ。更に二つの効果は喧嘩せずに重複して働くため、あればあるだけ嬉しい類の耐久底上げスキルとして重宝されることだろう。


 反して迷路ギミックの一切を無視しつつ、正面から魔人を張り倒して歩む果てに手中へ下る《四柱継抱》……──こちらは完全攻撃型。プレイヤーが行う全ての属性攻撃に関して、相手の耐性値を一定割合無視する効果を付与する代物だ。


 ゲームを齧ったことのある者なら『割合無視』という単語に即反応するだろうが、言わずもがなの強効果に他ならない。そんなガツンとダメージが増えるほどの効果量ではないにしろ、取れるもんなら思考停止で取っといた方が良い類のヤツ。


 魔法士は元より、鍵樹武装のカスタマイズ云々で近接戦士も属性攻撃手段の確保が容易になった今日この頃である。これも当然のこと常時発動型パッシブであるからして、どうあっても腐らないスキルなんてものが弱いわけないわなってな感じ……と。


 その顔は、なんのアレかな先輩殿。


「…………アンタの相棒が、手にしちゃいけない類の────」


「そこまでだ。考えない方がいい」



 ってな具合で、なっちゃん先輩との情報交換もサクッと遂行。然らば最後、なんとなく一番アレコレ長引きそうな気配を醸していた五件目────



【Sayaka】:ハル様。大事な、お話がございます。

 もしよろしければ二人きりで、少々お時間をいただけないでしょうか。



 聖女様の元へ、向かってみるとしましょうかね。






わっちゃわちゃ。いいぞ。

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― 新着の感想 ―
頑張っていろりん
2025/08/30 09:18 しおりすぐ無くす読書好き
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 周回はゆるされなかったかぁ、そーかー
耐性貫通が弱いゲームとかそうそうありませんからね 赤いのに正面から向き合ってた囲炉裏がこんなに弱るとかマジでなにがあった? ハルに聞いちゃうあたり赤いのとの関係に気づいたうえでそれでも告白してきた剛…
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