戦場過ぎれば只の人
「────んじゃ、おつかれまた明日ー」
目標期限まで時間を半分ほども残して、現在進捗九十層。
最早ほぼほぼ攻略ペースを気にする必要性はないというか、期限に焦るべきラインは容易く超過済みというかであるため解散実行も和やかなものだ。
攻略速度を除けば初めから、のんびりパーティだった気がしないでもないが。
ともあれ挨拶を口々にログアウト、あるいは鍵樹迷宮から退場していくメンバー各員を見送って。和やか賑々しい雰囲気が去った大広間にて……。
「どした?」
「……ど、どうもしません」
傍ら。袖を摘まんできた相棒を振り向きポンと頭に手を落とせば、顔を背け内心とは相反するのであろう言葉を返してくる流れが予想通り過ぎて笑ってしまった。
ははと思わず零した笑声に対する抗議は、軽く手の甲を抓られるだけ。
まあ、わかっているさ。察しているとも。
「今日は大人しかったなーソラさん」
「…………いつも、騒がしいつもりは、ないんですけど」
「うーん」
「ぇっ、な、なんですか……! うーんって……!」
俺の中では満点好奇心その他を要因として割かし『賑やか側』に寄っている、なんてソラのイメージ云々の話は一旦さて置いておき。
重ねて、わからいでか。
「よしよし」
「……っ、…………、…………………………………………………………」
置いた手を動かし控え目に頭を撫でれば……ソラは初め驚いた顔をして、次に怒ったような顔をして、しかし即座に迷うような顔に転がり、かと思えば怒ったフリへと舵を切り、されども結局は────ふにゃっと、崩れた顔を、
「っ……!」
「ぃてっ」
見られないよう、可愛らしい頭突きを以って、俺の肩に埋めてしまった。
わかってるよ。今日一日はしゃぎ倒していた俺のアレっぷりに、パートナーとして恥ずかしい思いをしてたとかソレなコレではないってことは。
わかってるとも。単に最初から……──昨日のことを、気にしているだけだと。
「………………………………………………楽しかったですか?」
なんかこう、ひたすら何を言うか迷った挙句に絞り出したかのような言葉。
そんで再び笑みを釣られてしまった俺を、顔を上げて見ずとも気配で察知したのだろう。お叱りPart.2は頭グリグリの刑だった。
かわいい。
「楽しませることには成功したと思う」
とまあ、相棒惚気は置いといて。
「……ズルい返しですね」
今や親友にして恋敵である妖精様の誕生日、つまりは昨日のことを意識していた天使様は、そのものズルい返しをした俺へ不満気……──
とは、ほんのり違う色を含む声音を渡してきた。
読解は俺の仕事にして今この瞬間の至上命題。たとえ正解に辿り着ける確率が小数点以下だとしても、頭を回さないわけにはいかないのが悩ましい。
然して、気まずいようで落ち着いた沈黙を三十秒ほど泳いだ末。
「ソラの誕生日も、死ぬほど悩ませていただくよ」
「………………レンさんの言葉を借りますけど」
やはりズルい返しをせざるを得なかった俺に、
「逮捕された方が、いいと思います」
ソラは顔を見せないまま。
怒ったフリを続ける声音でもって、ひどく甘い裁定を下して伝えた。
心に揺られる等身大。
キリ良くしたかったので短め。夜に追加入ります。