side:Team.D
◇【土ノ魔人】の試練を克服しました◇
◇第九十層の攻略を確認しました◇
・報酬が贈与されます────【緑宝ノ盟珠】を獲得しました。
◇称号を獲得しました◇
・『秘匿賢護』
◇スキルを獲得しました◇
・《魔人の寵愛》
「────……ま、こんなもんよね。答えのわかったギミックボスなんて」
階層全体を揺らすかのような、しかしどこか穏やかさを感じる深くも緩やかな震動。それを足の裏で受け止めつつ、ポツリ呟くは真白の子猫。
身体にもステータスにも傷一つなく、吐息に関しても乱れはない。
そうして地揺れと緑光、とりあえずの最後と思しき魔人が残した残滓の中で、煌めく白雪の〝糸〟が宙を舞うまま溶けて霧散した。
完勝、もとい完答。
幾重ものフェーズに分かれた【土ノ魔人】の謎かけを解き明かした果て────
「やー、やっぱあったな四属性お利口攻略の特別報酬」
「まあ、そこはね。裏攻略だけに報酬アリとか流石にないと思ってたよ」
「ふふ……皆、お疲れ様」
「働いてたの、ナツメと雛世さんだけだけどね」
「テト君ねぇちょっとボクも頑張ったんだけども!?」
「好き勝手に動く手足はリーダー的にプラマイゼロかなって」
「ひどぃっ!!!」
集った六人の色は様々なれど、緊張感が存在しないという点では他組同様。
それぞれが階層攻略達成を祝福するファンファーレを適当に聞き流し、交わされる言葉はどれもこれも一応は激しい攻略行動の直後とは思えぬものばかり。
つまるところ────
「なッッッッッちゃん!!!!! テト君が酷いんだよボクに優しくないっ‼︎」
「ぅ゛っ────あぁ、ハイ……」
僅かでも張り詰めているのは、仰ぐはずの先輩方を引き連れる子猫だけ。
先輩への敬意を欠かさないため『意外と礼儀正しい』ものと知られる【糸巻】ことナツメは、基本なにをされても忘れぬ過去の恩と天秤に掛けて許してしまう。
イラっときたら縊ろうとするなど生意気な後輩限定。それは例えば現実では致命傷となるであろう急所狙いの突進絞首への反応とて、苦笑い一つが精々だ。
ゆえに、容赦ナシに飛び付いてきた若草色を顔を引き攣らせながら許容しつつ。
「お疲れ様でし────」
目を向けたのは〝火〟を除く魔人攻略にて、例外なく働き詰めにさせてしまった他陣営の大先輩。労いと感謝の言葉を丁寧に口から並べようとしたナツメを、
「うん?」
「……、…………」
ニコリ。
同性でも見惚れざるを得ない艶やかな微笑で以って【熱視線】が封殺する。
「………………おつかれ、さま。今回も助かったわ、雛世……………………さん」
「うふふ、どういたしまして。────可愛いわね、ナツメちゃん」
理由は、コレ。南陣営における『大規模部隊指揮官候補育成プログラム』に則り、文字通り可愛い後輩のため笑顔で一肌脱いでいるだけである。
「あんまり可愛がってくれるなよ雛。南の大事な司令塔三号なんだ」
「それもまた成長の糧じゃない?」
「お前は純粋に面白がってるだけだろ腹黒眼鏡」
「ぁー、もう、るっさぃ……!」
なんて、オーリンとフジそれぞれ同陣営の大先輩に対するタメ口もソレ。
賢い。頭の回転が速く、思考も柔軟。度胸も備え滅多なことでは冷静さを失わず、また『感応』という特異な能力を発現したとて納得のいく他者への理解力および共感能力の高さ……甚だ指揮官適性の高いナツメ唯一の弱点。
他者への敬意が過ぎる、つまりは根っこの部分が『良い子』過ぎるがために、迅速かつ怜悧かつ有無を言わさぬ〝命令〟が苦手という点を克服するための策。
敬語禁止は、彼女に大きな期待を掛ける女王が下した指令である。
「ふふ……呼び捨てにしてくれても大丈夫、だからね?」
「それは勘弁してく──……れる、かしら」
別に、横柄な態度を取れというわけではない。彼女が礼儀正しく心地良い人間だということは既に皆が知っているのだから、気にせず。
まずは言葉遣いという至極わかりやすく意識もしやすい振る舞いの形を以って、合理的に遠慮なく『信頼を手渡す』練習をしなさいという意味合い。
やや難航しているものの、初めに比べれば随分と進歩したモノ────
「あぁっ、もう誰も彼も生暖かい目やめて! 戦果確認するわよ各自報告‼︎」
基本、許してしまう。即ち、たまには普通に怒る。
天性の指揮能力のみならず、天性の弄られ能力をも併せ持つ子猫は……。
「本当に可愛いわね、この子」
「やらないぞ。イスティアに賢将追加とか四柱が完全に終わる」
「どこかの王子様とも相性バッチリだもんねぇ。他陣営とは思えない連携練度」
「……まあ、普通に相性良いよねナツメと先輩は。性格的にも」
「なっちゃんハー君お気に入りだもんねー!!!!!」
今日も今日とて、後輩を愛でる優しい先輩方に囲まれながら。
「っだからぁッ! なんで事あるごとにアイツの名前が出てくんのよ!!!」
実際のところ満更でもなさそうな顔で、わーわー元気に怒っていた。
なっ好き供給。
わーわーというよりニャーニャー。