そこ退け魔人、王威が通る 其ノ参
いいか木偶の坊もとい土偶の坊、とくと見よ。ふんぞり返った巨躯に刻め。
この世界における……ゲームの名のもとに『ダメージ計算式』という神の算術が存在する遍く世界における、ほぼほぼ絶対不動の確たる真理。
数少ない例外。たとえば『武器を持てぬがゆえに武器を凌駕する肉体』を、気の遠くなる努力の果てに勝ち取った【双拳】などの極めて稀な存在を除いて────
基本ヒトは、武器を握り締めた方が強ぇってことを。
「土塊バターッ!!!」
踏み切り一歩、撫で斬り一閃。
白金の刃が放つ燦然とした輝きは飾りではなく、抜群の切れ味を示す威の体現。『序説』時代と変わらぬ圧倒的な質量も併せ、仮想世界有数の超硬鉱物こと【黒竜鱗岩】をも容易く砕き斬る大剣に掛かれば〝土〟の身体など素通り同然。
剣で敵を捉えてなお《天歩》の推力を毛ほども損なうことなく宙を翔け抜け、制動そこそこに切り返しで虚空を踏み振り返れば……──土色一面。
首筋をズッパリいかれたのが甚く不愉快だったのか、迷路構築モーションと思しき地団駄を中断して苛立たしげに伸ばされた手が目前へ迫っていた。
巨体に見合った、のっそり緩慢な動作。
けれども巨体であるがゆえに、これ系のボスエネミー連中は圧倒的なスケール差を以ってプレイヤーの俊足と小回りに平気な顔で追い付いてくるのが常だ。
────しかし残念、自覚を以って大いなるモノへ宣言させていただく。
「遅ッッッッッッッッッッせぇ!!!」
目の前にいる小さな羽虫は、速度において『常』ではないと。
記憶完了、ルート構築、エンジン再燃────連続点火。
無尽《天歩》の超速機動。身に纏う鎧でもって大気を打ち鳴らし、引っ提げた大剣を小枝の如く縦横自在に従えて、挑み掛かるは小さな巨体。
頭の天辺から爪先まで瞬き一歩で手が届くんだ。最早なんの違和感もなく空を地にして駆ける俺に、ほぼほぼ『スケール』差なんてものは作用しない。
手を躱すまま、斬る。
『──、────、────』
翔けゆくまま、斬る。
『──────、──』
気の向くまま身体の赴くまま……。全身くまなく、容赦ナシの滅多斬り。
遂に間断なく馬鹿げた連射が始まった〝罰〟の礫が文字通り何の意味も成さないのだから、翻弄されるままの魔人に俺の蹂躙劇を止める術はない。
そうして────十秒フラット。
『ッ────────────────────!!!』
順調な爆速ガチ切れ沸騰も、まあ短気とは言えず当然のことであろう。
殊更の威圧および衝撃の波濤。察するに『お仕置きフェーズ』移行に際して避けられない演出的なアレなのだろう、至近を飛び回っていた俺の身体を絡め取った〝圧〟によって張り飛ばされるように【土ノ魔人】との距離を離されてしまう。
然して強制後退、からの着地。ズシャァと制動しつつ顔を上げれば……。
「ッハ。オーケー、始めようぜ」
【土ノ魔人 ロゥドノディン】────巨躯そのままに形を遷し、土塊人形から土塊騎士人形へと変貌した大いなるモノが、忌々しい羽虫を睥睨していた。
土一色とは思えぬほどの硬度を強制的に読み取らせてくる、全体の馬鹿情報圧。
はて如何なる内部機構が在るのやら。頭部に顕れた兜のバイザーから怒りの呼気を見せ付けるが如く、真っ白な蒸気が噴き出してるのも笑えるくらい恐ろしい。
そりゃ、震えるさ。人間だもの当然である。
如何に数秒前まで一方的なサンドバッグにしていた相手と言えども……夢の世界に溢れる〝強大〟を前に、身を震わさなかったことなどありはしない。
いわんや、それが、
「図らずも騎士型同士、バッチリ絵面が映えそうじゃねぇのよ‼︎」
期待に震える、武者震いだとしても。
さぁ、こっからが本番だ────重ね重ねて、出し惜しみはナシ。
「 顕 現 解 放 」
剣を床へ突き立て、言の葉を詠む。
起動鍵言の承認。然らば起こるは『担い手』と共に世界へ語る武装の顕現。
ザァっと手套深靴を除き主の身体を剥がれ離れた白金の鎧が光り輝く粒子に解け、後方にて双輪を描く。それは、そのものが〝威〟となる形ではなく。
「覆せ────」
主が往く道を切り拓くため、圧倒的な〝威〟を彼方より喚ぶ容。
「────《王威の纏鎧》ッ‼︎」
瞬間、輪の内に在る空間を砕き顕れ出でるは腕二本。精緻な彫刻の眩い白金の大腕、その姿は紛れもなく過去に挑み掛かった大壁の様相。
ヒトの身の丈を優に超える、かの【神楔の王剣】の腕。
そして、もう一つ。
畏れ多くも王に侍るが如く、俺の両脇後方に浮かび控える双腕の上方。一拍を置き虚空を割って顕れたのは、黄金に輝く光を双眸とする騎士兜。
【真説:王鍵を謡う契鎧】セカンドフェーズ、ひとつめ。
その名は『王道を拓く白金の双腕』並びに『王鍵を導く代眼の賢頭』。
……ってなわけで申し訳ないが、ここまでも、こっから先も。
「いくぜデカブツ。覚悟しやがれ」
今この場は俺たち主演やりたい放題の舞台として、手放す気など更々ナシだ。
全てのプレイヤーはコレと類を共にする語手武装に出逢える可能性が在る。
それが夢の仮想世界アルカディア。
※進化成長の方向性はプレイヤーそれぞれの歩む道程に激しく左右されます※
そりゃ多芸にもなるよね。担い手がアレだもの。