そこ退け魔人、王威が通る 其ノ弐
頭頂を打った渾身によって轟音と共に巨躯が沈み、膝を折った【土ノ魔人】が自前の迷路を磨り潰しながらフロア全体に激震を撒き散らす。
手応えは満点。しかし此処へ至るまでに相手取った各種魔人の例に漏れることなく、現状ギミックボスとしての体でヒトを見下ろしている奴に威力は届かない。
けれども。
『──、──────ッ』
響くは、見下ろしていたはずのヒトを見上げる土巨人の咆哮。
〝火〟も〝水〟も〝風〟も明らかに『性格』というものを持ち合わせていたが、どうやら基本四属性を司る魔人の中で最も短気なのは〝土〟だったらしい。
おそらく、いまだ不正解を重ねる猶予は残っている。だがそれはそれとして、怒りを露わに土塊の喉を震わせた【土ノ魔人】の身体が再び粟立った。
試しの儀に蹴りを入れる、不埒者への罰則────その予兆を他所に。
「んー……ま、要らぬ心配か。オーケー」
俺は迫真のレッツ余所見。
ボス部屋の端。押し寄せる迷路の巨壁や流れ弾の追尾土塊などの脅威を、剣やら拳やら鏡やらで危なげなく処理している仲間たちを確認していた。
然らば、一瞬後。
先に続き再び殺到した制裁の土塊弾頭が、鎧に触れる傍から弾けていく。
いくら喰らおうとも、被害はゼロ。勿論のことノーダメージ……──まあ実際のところ、一つたりとも被弾している事実が無いのだから当然である。
【真説:王鍵を謡う契鎧】の〝基礎性能〟その壱────被撃転換。
「《天歩》」
有言実行、目もくれず。四方八方より襲い来る弾頭数十発を一切無視して宙を翔け抜ければ、軌跡に残るは砕かれ散った無為の土跡。
ってわけで次弾は……ッ!
「そぅ、らァッ!!!」
『ッ──、』
豪速墜落踵墜とし。
またも顔面、再三の一方的なクリティカルヒット。轟く快音、衝撃……──
とまあ、常であれば数十回はHPを消し飛ばされているような攻撃の雨霰に晒されてなお、俺が無傷で土ノ魔人をド突き回せている理由はただ一つ。
「ッハ、いやはや────ぶッッッッッ壊れぇ!」
やはり再三の土弾を完全封殺する『被弾判定に与撃判定を重ねる』という完全着装時限定常時発動能力が齎す加護によるものだ。
つまるところ、簡単に言えば、
「オラオラどうした効かねぇ、なぁッ‼︎」
全身展開時、俺の身を包む王剣の鎧は、主に触れんと迫る一切合切の脅威に対して────例外なく全自動かつ一瞬の隙もなく、反撃判定を打ち返すのである。
斯くして何度目かのワンサイドアタック。何度目かの大震動および怒りの咆哮。
健気に撃ち出す礫を一つ残らず無効化されるまま、哀れな滅多打ちに遭い続ける【土ノ魔人】は迷路の再展開モーションすら取れない始末。
ここだけ見れば完全にゲームバランス崩壊の絵面だが……ま、そこは流石に『特別は許容しても完璧は生まない』アルカディア。
馬鹿げた完全着装の常発能力も当然のこと無敵ではないため、コイツが永遠に舐めプを続けるでもない限り完封勝利を勝ち取れるほどの無法ではない。
具体的に〝弱み〟を上げるとすれば、
「ッ────っは、ぁっぶね!」
反射の《天歩》起動回避、堪らず後退それは無理。
今のような馬鹿げた巨体のイヤイヤもとい乱雑な大振り……つまり俺が自身の力で真っ向から相殺できない類の、大規模大威力の攻撃に関しては普通に押し負けてダメージを喰らうってな点。鎧の代理迎撃能力は主のスペック依存なのだ。
即ち、強大なボスエネミーのガチ殴りをガン無視するのは流石に不可能。被撃転換で完膚なきまでに撃ち落とせるのは小粒が精々ってなとこ。
それでもウルトラぶっ壊れだけどな────と、さておき。
新モーションは引っ張り出せたが、しかし真なる激昂には程遠いらしい。
苛立ったような挙動は見せつつも、中断され続ける迷路展開の予備動作を愚直に繰り返そうとする魔人を眺め……申し訳ないが、重ねて、容赦はしない。
開戦から三十秒弱。既に結構なMPを鎧に喰われていることもあり、だらだら遊んでもいられない。それに加えて、ここまでは散々お披露目済みであるゆえに。
仲間たちにドヤ顔で『全開をご覧に入れよう』的なアレを宣った以上は……。
「オーケー。したらば……」
勿体ぶった出し惜しみなどする気は、サラサラ無いのである。
「来い────」
ならば、掲げるは左腕。
首元へ巻き付けた空の手を、勢いよく身体の外へ振り抜いた瞬間。
「────【廻り回輝する楔の霊剣】……‼︎」
真横へ伸ばした白金の鎧が手中。顕現するは、荘厳精緻な大剣が一振り。
懐かしきかな、その重み。新しきかな、その姿。思い出深い始まりの名を呼ぶと共に顕れた煌めきは、かつての刃無き鉄塊に非ず。
鎧の白金よりも、更に燦然とした輝きを放つ真白金。黄金と蒼銀の美しい線飾を刀身に宿す、芸術品のような両刃の大剣……それは正しく、かの王剣の様。
【真説:王鍵を謡う契鎧】の〝基礎性能〟その弐────回帰霊剣。
「さぁて……土遊びは、巻いてこうかッ!」
主に侍る騎士鎧……否。
主に宿る鎧騎士の忠臣は、その魂に『剣』を内包する。
【序説:永朽を謡う楔片】
【仮説:王道を謡う楔鎧】
【真説:王鍵を謡う契鎧】
このために『リ / Re』から始まったんだよ。
『ラ』はエモ味の犠牲になって生まれることなく死んだ。