そこ退け魔人、王威が通る 其ノ壱
────古来より『人ならざるもの』ってやつは、人を試すのがお約束だ。
それが矮小な人間と比して超越的な存在であればあるほど、余裕綽々で小さき者の力やら知やら勇気やらを測ったりというのを、お茶目な暇潰しにしがちである。
つまり結論から言って、情報を統合するに、例の『魔人』とやらもソレだった。
鍵樹迷宮第六十層にて待ち受けた【炎ノ魔人】から始まり、次なる十層刻みこと七十層で相まみえた【水ノ魔人】も同じく。更に十層先の八十層で戦り合った【風ノ魔人】にしても、根本となる解法は全て共通のモノだったらしい。
他チームとの『あのボスしんどくなかった?』的な緩い近況報告もとい駄弁りを経て判明した魔人シリーズお揃いのギミックとは、ずばり〝迷路〟だ。
【炎ノ魔人】ならば不可視かつ身を灼く熱、【水ノ魔人】ならば広間を満たす洪水の中に在る激流、【風ノ魔人】ならば炎と同じく不可視かつ身を裂く刃風。
それら属性ごとのバリエーションはあれども、求めていたのは皆が同じ。どれもこれも初っ端は巨大な魔人の体躯の内から、正解のルートが示す『ぶん殴るべき場所』を探し出して正確に正答を積み上げていくというモノである。
そりゃ、全部無視して真正面から顔面をド突き回してりゃ〝お仕置き〟されるってなもんだろう。つまるところ【炎ノ魔人】⇒【炎ノ魔人 ヴォルキドゥン】といった具合に奴らの名前が変わるのは、そういうこと。
『はいダメやり直しー』を意味する、リセット機構だったわけだ。
つまり普通なら倒す想定ではない、でも諸々ぶっ飛んだ逸般人であれば倒せなくもなく更には想定をぶっ壊して倒せたら報酬も在るヨという、プレイヤーにとっては嬉しいサプライズ完備の半即死お仕置き持ちギミックボスなのである────
「──…………えと、ハル? 一応、聞きますけど……」
斯くして、辿り着きしは鍵樹迷宮第九十層。遂に百層が目前に見えてくるゴールを除いた最後の十層刻み地点、その最奥に在る扉を前に。
「迷路の攻略をする気は……」
「逆に、もうコンプリート以外の道なくない?」
問う相棒に、返す俺。
さすれば即座の答によって生まれるリアクションは相棒を含め一揃え。ここまで数時間ノンストップで八十七からの三階層を丸ごとプラス九十層の道中を、ほぼ単独で蹂躙してきた俺を見るパーティ員たちの目は皆一様に優しいモノだった。
まあ、優しく呆れ諦めているか優しく苦笑いを浮かべているか優しく硬い顔で腕組みしているか優しくニコニコほわっほわかという違いはあるが……。
「……もう、今日は、お好きにしてください」
実際問題、ういさんやアーシェの勿体ぶり方からして『ガチヤバ』と噂の百層を目前に、新たな特級ギアを手に入れた俺の完調は早々に手繰り寄せるべき。
ならば可能な限り実戦を重ねて新たな力を身体に慣らしておくべきで、ここまでの適度な大暴れもテンション先行の悪ふざけというわけではない。
と、当然のこと理解しているからだろう。
ほんのり言葉は辛辣であるものの、ソラさんは呆れ諦めつつ表情自体は優しげ寄り。仕方ない人ですねとでも言わんばかりの微笑みには母性すら宿っていた。
まだ十五歳で合ってるよね?
……なんて、戯れは口に出さず置いといて、
「おひとりで?」
「大丈夫ですか?」
最奥部。階層主の間へと続く扉に手を掛ければ、後方両隣の定位置に控えるショウとレンより念のため形だけの確認。然らば、そちらへの返答も勿論のこと、
「任せとけ────五分で捻る」
確信と自信を以っての、大言一つ。
そんな調子乗りまくりのヒト一名、そのアホ一名を見守るために足を踏み入れた仲間たちを迎え入れた大広間に、明かりが灯る。
フロア中央に在るのは、これまでの〝火〟〝水〟〝風〟と同じく。
宙に揺らぐ、魔人の素。
震動、放圧。小さな土塊が文字通り爆発するかのように体積を増し、瞬く間に顕れた巨大な脚が床を踏みしめ巨大な手が空を握り潰す。
ゴーレム……とは、少々言い難いヒトに近過ぎる繊細な形を描く巨躯。まさしく大地の巨人とでも言うべきソイツの名は────【土ノ魔人】。
さぁ、不遜ながらも、まず言葉で。
「ッハ。全開お披露目の相手に、不足ナシだな」
地ならしの脚撃と共に土の巨壁を迸らせ、例によって複雑怪奇な迷路を生み出さんとする魔人へ真正面から堂々と喧嘩を売る。
「鎧と成せ────」
然らば次いで、身を以って。
「【真説:王鍵を謡う契鎧】ッ‼︎」
いざ完全着装。
纏う白金により威を放ち、地を蹴り解き放つ一歩を以って武を知らしめる。
刹那。鎧に触れた傍から、まるで対する巨人に殴り飛ばされたかの如く爆ぜて四散する幾重もの大壁の向こう側。豪速そのまま膝で能面の鼻面を打ち抜かれた【土ノ魔人】が、開幕一撃もげるのではないかという勢いで首を仰け反らせた。
迷路なんか知らん、これまでの三体同様────
つまるところ【炎ノ魔人 ヴォルキドゥン】および【水ノ魔人 シェアラファン】並びに【風ノ魔人 ティゼロシェン】と同じく。
「そら。さっさと本気出させてやん、よッ!」
正体引き摺り出して、真っ向から伸してくれるわ!!!
『──、──────』
仰け反り、自らの迷路を踏み砕きながら反撃の仕草はナシ。けれども肌に伝わる何がしかの感情が空気を震わせノーモーションで〝罰〟が来る。
正答を無視して大いなるモノへ不遜にも蹴りを入れたヒトへの制裁。粟立つように沸き立った土塊の巨躯より一斉に放たれるは、礫と称すには大き過ぎる土塊。
なお激つよホーミング性能完備な模様────上等だコラ、掛かってこい。
目もくれてやんねぇけどなぁッ‼︎
「《天歩》ッ!」
挨拶代わりの膝打ちの反動。宙に浮いた身体で虚空を踏みしめ、全身の鎧を鳴らし第二歩突貫。殺到する罰則土塊は一切無視して、重ね握り込むは両の手。
そして、鎧に触れる傍から爆散して用を成さず塵と消える土塊を他所に。
「ど─────ッッッせぃ!!!」
情け容赦なし渾身のダブルスレッジハンマーを、魔人の頭頂へと贈り付けた。
まだ半分は本人性能なので活躍はここから。
言ってる意味わかんねぇな。