男の子はスーツがお好き
「────ってなわけで、じゃーん!」
「「おー」」
そして夜。例によって『大暴れ』を約束したカグラさんと別れた後、アレやコレやと訓練場で一人【真説:王鍵を謡う契鎧】のポテンシャル確認を終えて。
定刻に待ち合わせた鍵樹攻略Bチームの面々へ堂々の『真説』お披露目を敢行すれば、まあわかりやすく反応してくれたのは予想通りのショウレンだった。
「身体合一型とは、また予想を飛び越えましたね……」
「しかし、特級武装を二つも呑まれたのは大丈夫ですか?」
然らば、俺の左手に在る刻印を見て感心と心配が一つずつ。
レンの素直な感想も美味しかったが……時間をかけて把握したコイツの全体像を見せびらかすには、ショウの質問こそ望んだもの。
ゆえに、いまだ高度をキープしているテンションで以って不敵に笑い────
「「おおっ……!」」
次いでの反応も、誠に心地よいもの。
やはり一息に色を塗るように、一息に波が肌を呑み込むようにザァっと音を立てて。装備を失い裸だった俺の手を『見慣れた姿』が一瞬で覆うにあたり、お披露目ショーを熱心に見てくれる兄弟二人は揃って興奮の声を上げた。
そう、昂ぶりの声。なぜなら然り────男の子なら誰しも一度は見て胸を熱くしたことのあるであろう、アレを思い出さざるを得ない光景だもんなぁ?
微細な粒子が流動して瞬く間に外装を構築する、機械的でありながら生物的でもある独特の視覚的快感を存分に内包した着装シーン。
完全に『科学ヒーローのナノテクスーツ』の挙動である。
「とまあ、このように」
グッ、グッと握っては開く両手に違和感はナシ。顕れた黒銀の手套は見紛うことなき失われたはずの【神楔ノ閃手】のソレであり、ならば勿論『もしや』と二人が目を向けた足元……先より形を取っていた【神楔ノ閃脚】も同様。
「元の装備も能力化したから、マジで問題は一切ナシだ」
プラス、耐久値の概念が存在しない語手武装と融合したことで整備の必要性も失っている。今のように出し入れ自由な機能に関しては俺に限って今更メリットではないが、オマケ機能を手に入れた上で戦力低下が皆無なのは実に僥倖だ。
────で、この手套と深靴を含む『鎧』の自由自在な着装機能に関しては、オマケでは収まらないヤバい点が挨拶代わりにまず一つ。
「コレ、装備じゃなくて能力扱いなんだよね」
ザァっと、左手の手套の末端から肩まで……つまり『鎧』に『服』こと【蒼天六花・白雲】の袖を呑み込ませながら、勿体ぶって言う。
然らば、それだけでも即座にヤベー事実を察することは容易だろう。ショウもレンも感心と興奮から一転、揃って「うわぁ……」と軽く引いた顔を見せた。
装備ではなく、能力。それ即ち装備枠を占有しないということで────
「重ね着可能。全身着装しても、下に着てる装備の効果諸々は全部が活きる」
そんな、とびきりの無法が成立してしまうということで。
勿論のこと制限はある。装備を丸ごと呑んだゆえのことだろう、手套と深靴部分に限ってはノーコスト……まあ、半分ノーコストでの常時運用が可能だが、他部位の顕現に関しては時間制で結構なMP消費を要求される。
大体MID数値換算で10あたり一秒ってところ。Lv.1のステータス白紙状態よりプレイヤーが備えている基礎MPも含めて計算するのであれば、全身着装なら限界時間は『10秒+MID×0.1』程度といった具合になるわけだ。
つまり鍵樹外における俺の完全体『表』で言えば、装備補正込み総MID:700なので八十秒程度がMP全快状態からの限界着装持続時間。
《鏡天眼通》を始めとした魔力馬鹿食い問題児に親しんでいる俺としてはギリ可愛いものと思ってしまうが、普通にドデカいコスト要求だ。
なお性能が性能なので燃費が悪いどころか、コレでも費用対効果で言えば抜群の高燃費。自在着装も重ね着可能もオマケ程度の機能でしかないゆえに、コイツが備えるメインの権能たちを披露すれば更なるドン引きを呼ぶことだろう──……と、
兄弟ばかりと言葉を交わしているが、観客は当然のこと二人のみに非ず。
新しく玩具を買い与えられたチビっ子の如くノリにノっている俺の傍ら、微笑ましさ半分の呆れ半分といった様子で見守っているソラさん然り。
いつものように、ニコニコほわほわと俺を眺めている聖女様然り。
そして、
「………………全身」
常のように、表情薄く、言葉なく気配を鎮めていた【双拳】殿も然り……けれども、そんな彼が声を上げた瞬間。俺は内心でニヤつきを抑えられなかった。
そうだよな? そうだろうとも。
「全身着装、とやらは……どんな…………」
その小さな目は見ようによって厳つくも〝つぶら〟にも映るが、今に限っては間違いなく後者。上がり症を押し込めるための硬い雰囲気を貫通して、思わずといった具合で声を上げたゲンさんからオーラが漏れ出している。
なんのオーラかってそんなもの────誤魔化しきれないほどに溢れ出る『ヒーローオタク』としての好奇心、および知識欲の具現に他ならないだろう。
我が国の『戦隊モノ』から始まり、光の巨人やらバイク乗りまで幅広く文字通りのなんでもござれ。海外のスーパーヒーローコミックは勿論のこと、果ては日本の古い漫画の中で活躍するスーパーな戦士たちまで彼の〝憧れ〟は膨大無限。
魂の分け身こと魂依器の冠する【夢追ノ魂願】などという素晴らしいネーミングが示す通り、ゲンさんの筋金入りのヒーロー好きは有名な話だ。
然らば、
「………………」
彼が俺へ、期待に満ちた目を向けてくるのは自然なこと。東陣営きっての萌えキャラ武人殿は今日も今日とて微笑ましかった。
「……へへへ、それは実戦で見せましょ────ぃてっ」
あまりに微笑ましいものだから、悪乗りしてザラザラと『鎧』を手套部分から伸ばしたり引っ込めたりしつつ勿体ぶって揶揄っていたら天罰を喰らった。
無論、天からの罰ではなく天使からの罰である。
「……もうっ、はしゃぎ過ぎですよ」
「ごめんなさい」
そんなこんな、脇腹を勢いよく突っついてきたソラさんから追加で可愛らしい睨みを頂戴して……ま、あんまり戯れに興じていても時間が勿体ないのはそう。
「んじゃ失礼、お待たせしました────」
鍵樹迷宮八十六層最奥より、続く八十七層への転移門へと歩を向ける。然して、大はしゃぎのガキに当てられ楽しげな空気の面々も後に続く……が、
今日に限っては出番がなさそうだなと、各々で察した顔をしていた。
「本日の攻略を、始めようか!」
どこぞの子供が自慢の玩具で、自重なしの大暴れに洒落込もうとしていたから。
鉄の男も平和の象徴も大好きだよ。
別に男の子に限らず好きだよね。