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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第六節
912/977

10/31

 ────序列持ち組分けからの怒涛攻略が開始されて、早一週間が経過した。


 時は十月末。現代に至り晩秋とは名ばかり、時たま春かと思うような陽気が顔を出すゆえ『本当に冬は来るのか?』と首を傾げてしまう狂った気候の最中。


『んではでは、あと二時間ほどで解散すると思いますのでー』


「はいよ、了解」


 押し寄せる寒暖の波とてなんのその。これも【Arcadiaアルカディア】の体調キープ謎技術が成せる業か、あるいはそれによって維持されているバイト戦士ボディの耐久力か。


 今日も今日とて元気が取り得の俺は、自室にて準備作業・・・・に励んでいた。


 日曜日、時刻は午後四時手前。然らば二時間後と言えば午後六時……『客人』たちの来訪は、ちょうど日が落ち切った頃合いとなるだろう。


 四季消滅してね? と思わざるを得ない昨今の日本、けれども日の長さだけは大して変化を感じない────と、それも事実か思い込みか微妙な適当思考を供に。


「んー………………ま、素人にしちゃ上等だろ」


 連絡手との通話を終えたスマホを片手に、眺め批評を下すは自作の一品。


 菓子作りが常の趣味とはいえ、流石にコレ・・に関してはガチ製作など数える程度しか記憶にないため少々の不安があったが……まあ、重ねて。


 素人の成果としては十分、頑張りが評価されるであろう出来じゃないかねと。


 然らば、時間と手間を掛けて完成させたブツは大事に冷蔵庫で眠らせて────


「さて、やるか」


 こっからは第二ラウンド、制限時間は二時間ちょい。


 予め仕込みは終えてあるゆえ残りは火入れや仕上げだけだが、量が量だけに割かし気張らねば間に合わないだろうってなわけでエンジン再点火。


 せっかく日曜という貴重な攻略時間の大塊を半分オフにしてもらったんだ。堂々完璧を遂行せねばパーティメンバーの厚意にも顔向けできないというもの。


 そしたらまずは、ガル……が、ガルブツぃ…………──


 もとい、ロールキャベツの鍋から相手取っていくとしようか。



 ◇◆◇◆◇



「────んたーのもーう!」


「いつも元気だね君は」


「元気だけが取り柄ですので!!!」


取り柄の集合体・・・・・・・みたいな人が一体なにを言ってんだか」


 呼び鈴、からの玄関にて一幕。午後六時も半ばまで分針が回ったところで訪ねてきた客人たちの先頭は、まあ予想通り亜麻色髪の美人さん。


 出会ってから数ヶ月。もはや完全に近しい友人として打ち解けた三枝さんこと『画家兼アイドル声優兼イラストレーターArchiver(アーカイバー)』様のご尊顔だった。


 そして、その後ろに続くのは────


「ぃよっす!」


「よっ、いらっしゃい」


 ブラウンメッシュの入った洒落乙黒髪の高身長超絶イケメン。年季の入ったライダージャケットが死ぬほど似合っている彼の名は【倉掛くらかけ 隼人はやと】殿。


 誰かと言えば、先日できたばかりの新たな友人……もとい、同志に他ならない。



 つまるところの、ハヤガケ氏。三枝さんの従兄さんおにいさんだ。



「いや、なに。メッチャいい匂いする。料理プロ級ってマジだったんかハル君」


「それは言い過ぎだし、玄関から匂いだけで判断されましても」


 現実リアルで顔を合わせるのは、これで二度目。


 『緑繋』攻略第一幕を終えた後のクールタイム期間で三枝さんに引き合わせてもらい、それからはちょいちょい連絡を取ったりで交流を深め今へ至る。


 若干コミュニケーション能力に難アリ気配を醸していた仮想世界むこうとは違い、現実世界こっちのハヤガケ氏もとい『はやっさん』は割かし陽のステータス寄り。


 結構グイグイ来るタイプなのだが……同志としての意識もあり、こっちでも仲良くなるまでは秒ってか瞬。いつかタンデムバイクで旅行でも行こうぜと誘われており、断固として公共交通機関を所望すると言ったらアッハッハと笑っていた。


 諸々の武勇伝バカばなしを従妹様に聞かされている俺としては、笑いごとじゃねぇんだよ。



 ────とまあ、親愛なる速度狂は置いといて。



「どしたよ縮こまって。────ほらどうぞ、入った入った」


「おっじゃましまーす!」


「ひよに同じーく」


 三枝さんの後ろの、はやっさんの更に後ろ。こちらは当社比ほんのり大人しめ……というか、緊張でもしているのか謎に気配を消している本日の主役・・・・・


『ぁはい。お邪魔しまーす』


 藍色娘こと、リリアニア・ヴルーベリ嬢。


 俺の部屋に上げたことは数えるほどしかないものの、四谷宿舎自体には割と頻繁に訪れている三枝さん。そして俺の部屋どころか四谷宿舎自体が初見のアウェイだというのに怯む気配もなく威風堂々のはやっさん。


 そしてそんな二人と比べ、俺の部屋へ入ることなど遥かに慣れ切っているはずのラスト一名。挙動不審にまごまごしながら玄関前、俺の傍で足を止めるニア。



 ま、わかってるさ。


 後ほど皆で声を揃えて言うことになるだろうが、その前にってなことだろう。求められているものは容易に読み取れたし、俺も端からそのつもりだったから。


 然らば、タイミングを図る必要もなく二人きりにされてしまったのでね。



「────誕生日、おめでとう」



 祝いの言葉を躊躇う必要は、一切もナシ。


 本日は十月三十一日。記念すべき、ニアの二十回目の誕生日であるがゆえに。


 日本人なら多くが『大人感』を強く覚えるであろう歳を迎えた彼女は、サラッと……しかし、俺なりに少なからず祝福を籠めたつもりで口にした挨拶を受けて。


「……っ!」


 ニマっと緩んだ顔を誤魔化すように。


 極めて低威力の体当たりを見舞いつつ部屋へ上がり、パタパタと逃げていった。






ということで、ニアちゃん生誕祭は10/31です。

心に刻め【藍玉の妖精ミルマリナス】同好会の志よ。

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― 新着の感想 ―
誕おめー
2025/08/13 08:35 しおりすぐ無くす読書好き
ニアちゃんおたおめ〜!! このメンバーでのやりとりも楽しみ!
ニアちゃんお誕生日おめでとーーー ガルブツィって言ってる(言おうとしてる)ってことは作ってたのはシルニキなのかな?
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