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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第六節
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並行案件

 ……とまあ、一つのことだけ張り切っていれば良いのなら楽なのだが。


 人生そう単純じゃないからこそ張り合いがあるのであって、いくつもの予定に追い回され悩む常があるからこそ、ふと差し込む『楽』が光り輝いて見えるのだ。



「────おかえり」



「知ってるか。それは『客』が言う台詞じゃないんだよ」



 なんて悟ったようなことを思う男十八歳、夜十時前。


 ノリとテンションのみで生み出したガチャ景品の海を捌く地獄の……と言うには、和気藹々ひたすら楽しいだけだった一時間弱の追加交流を終えた後。


 月曜日あすの学校に備えて一足早くログアウトしていたソラさんに続き、パーティの面々はサラッと解散。然して我が家クランホームへ帰って来た俺を迎え入れたのは一人。


 それ即ち────


「お、か、え、り」


「……はいはい、ただいまただいま」


 俺が転移してくるや否やソファを離れ、とてとて突っ込んできた水色少女。


 なんというか最早、当然の如く。いっそ堂々『なにが不思議か』と言う顔で常識をこそ非常識扱いする、つい最近に発生した・・・・自称妹様ことリィナであった。


「何階まで行った?」


「六十」


「凄い。けど、予想通り」


 情け容赦ナシの鳩尾頭突きも、純魔ビルドゆえの低筋力値ゆえ衝撃は微。


 関係が変わって以降。基本的に取り留めなく言いたいことだけ言うようになったマイペースな会話運びにも、徐々にだが慣れてきたところ。


 でもって、


「夜更かしは美貌の天敵だぞアイドル様」


「……まだ十時にもなってない。それは子供扱いし過ぎ」


「恥じらいもなく男に体当たりしてくるチビッ子を子供扱いして何が悪い」


 この近過ぎる距離感にも、少なからずの諦観が積み上がってきたところだ。


 正面から躊躇いもなく全力ハグをかましてくる華奢な腕を容易く解き、そのもの小動物を摘まむようにヒョイとシャツの首根っこを片手で捉えて場所移動。


 当然のこと、リィナは不満気な顔でジトッと俺を睨んでいたが────


「十分だけだぞ」


「一時間」


「初手から六倍要求とは交渉上手な妹様だな」


 ポイと元居たところ……俺の愛用品こと白いロングソファの端に放り投げ、その隣へ腰を下ろしてやれば瞬間決着。瞬きより速く機嫌を直した死ぬほど扱いに困るが死ぬほど扱いやすい妹分は、当然の権利とばかり俺の膝を頭で占領した。


「……なーに?」


「いや別に。……ってか、なーに・・・してんだ貴様は俺の台詞だが」


 彼女がアルカディアを始めた当時……つまり三年あるいは四年前のリィナもとい【天羽 理奈】そのまま・・・・の姿とあらば、アバター外見は真に十三歳か十四歳。


 それこそ、普通に子供と言って差し支えない歳の姿。


 しかしそれにしたって『顔ちっせ』と流石のアイドルスペックを真上から観察していると、そちらも甚だ超ちっさい手の細指に頬をつつかれた。


 こんなところ、仮にミナリナのファンに見られた日には世界から抹消されて然るべしという理解はあるのだが……────我ながら、なんともはや。


「そっちは? どこまで行ったんよ」


「五十五層」


「なんだ。のんびりしてんじゃねぇの随分と」


「二週間もあるから、ね」


「学生兼業に言わせれば、二週間は大して余裕ないんだよなぁ……」


「私はアイドル兼業、だよ」


「それは勝てねぇわ。生言ってすいませんした」


「……一時間?」


「三千歩譲って二十分だな」


 三泊四日のアレやコレやを経て今に至り、清々しいまでに馴染んでしまった。



 ────や、可愛いとは思ってるさ。そりゃね。


 容姿云々、アイドル云々は置いといてだ。俺は元々リィナのことを『メッチャいい子』だと思っていたわけで、それが今や『妹を自称する困った存在』と変わり果てたところで……そりゃ、ね。死ぬほど懐かれて悪い気はしないさ。


 ただまあ、そうやって全部を曝け出して死ぬほど素直に懐き倒してくるからこそ、もうすっかり()()()()()()()()()()()のだから仕方ない。


 あぁ、コイツもうなんか普通に可愛がっても問題ねぇな、と。


 俺のことを『男』ではなく完璧に『兄』として見てるのガチだわ、と────流石に、まだまだリィナが真に求める〝家族〟のレベルで接するのは無理だけれど。


 とにもかくにも……。


「……頭」


「一秒な」


「それ、触って終わり。ちゃんと撫でて。妹への愛を込めて」


「っは、妹ポイントを貯めてから出直してこい」


 もう完全に自覚したが、俺って完膚なきまでにチョロいんだよ。


 純粋な好意を示されると反射で好意を返してしまうのは、果たして長所か悪癖かってところ────……現状の立場を考えれば、完全に後者か。


 要反省案件だな。




 しかし、まあ、この関係・・・・


 思うところや考えるべき部分や反省点は山盛りなれど、リィナ側ばかりでなく俺にとっても明確なメリットと成り得る特記事項が一つだけあったりする。


 それがなにかと言えば、要点はリィナが『女子』であるという点。


 もっと詳しく言えば、リィナ自身が『ほぼ確実に俺と恋愛云々の線で繋がることのないであろう歳の近い女子』であるという点────更に、加えて、重ねれば、



 『兄』の味方をしてくれる『妹』という、超絶頼もしい異性であるという点。



 さぁ、といったところで茶番はそこそこに始めようか。


「してリィナさんや。イベント中に話した()()()()()()()だけども……」


「一時間」


「わかったよハイハイわかりましたよ。むしろ俺が請う立場っすね了解よろしく」


 目指せ鍵樹百層に連なって、俺にとっての目下……まあ、そう。目下最重要事項の一つと言っても過言ではないかもしれない近々の〝案件〟について。


「なでなで」


「それに関しては妹ポイントを貯めていただいてだな」


「……それ、どうやったら貯まるの」


「日々を真面目に生きるとか」


「お兄さんは妹を真面目に甘やかすべき」


「真面目に甘やかすとは……?」


 かぞくの体で恥は蹴飛ばし、相談もとい作戦会議を。






何の話なのかはすぐ分かるよ。

現時点で察した人は《無見ノ瞳憬ヘイズ・オキュラス》使ってるでしょカナタに返してきなさい。

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― 新着の感想 ―
あぁ、あれっすか せんせ〜!何となくわかったけどカナタくんの居場所がわからないから返却できませ〜ん!
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 カナタさんに返してきたいのですが、何処にいるか分かりません。
普通の兄妹は膝枕なんてしないのよ それはそうとあんだけハルと暴れ回って経験値稼いでるなら、そろそろ第4形態が来るか?
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