終宴のち戯れ
「────まず大前提、ソラも魔剣の一本一本を全て操作してるわけじゃない」
結局【炎ノ魔人】なんだか【炎ノ魔人 ヴォルキドゥン】なんだか、ついでに『秘匿忘楔』 is 何とか終始わけのわからなかったボスの討伐後。
攻略を終えた鍵樹第六十層の最奥にて戦果物色に興じながら、俺は当然の如くアレやコレやを問うてくるレンとショウに解説会を開いていた。
「【剣製の円環】……ってか【剣製の円環】に付属する魔法剣適性ツリースキルの仕様なんだけど、思考操作による魔剣念動って結構サポートが働くんだよ」
なお、本人は俺の隣で俺の代理解説を聞きつつ時たまコクコク頷く係。
いまだ交流値が足りていないため若干の人見知りを引き摺っているがゆえだが、とりあえず可愛いので全てヨシ。このパートナーが万事を引き受けようぞ。
「例えば、自動でアイツを狙えーとか。こんな感じの軌道をループしろーとか。お前とお前とお前たちはセットで親機のコイツに追従しろーとかさ」
「成程……個別のプログラムを、細かく設定できると?」
「そ。千本操ってるように見えて、実は先頭の一本しか直接操作してないみたいな 時もある。……いやまあ、それでもプログラム組み自体が高難度なんだけど」
「戦闘中に、ですもんね……。どの道、少なくとも僕には無理な芸当だ」
「右に同じく。俺にも想像すらできませんね」
と言って、ソラへと感嘆を向けるレンにショウも相乗り。兄弟二人からの視線を察知した我が相棒は、三秒耐えた後に堪らず顔を俯けていた。
かわいい。
と、なにはともあれ────
「ってことで、ね。俺がコイツで魔剣を取り込むと一時的に操作権を獲得できるんだけど、つってもソラみたいに複雑な操作なんて無理オブ無理なので」
転身体が纏う一張羅こと【白桜華織】の片側マント。その留め具としてあしらわれた【紅より赫き杓獄の種火】を指先でコツコツ叩き示しつつ。
「予め〝セット〟を組んでもらった『親機』を幾つか頂戴して、そりゃもう必死に思考操作を頑張った結果がアレってこと。だからまあ、つまり……」
ぶっちゃけ〝剣理下賜〟はソラさんメインで俺はオマケということ。俺メインの連携技は他に編み出してあるので、そっちも追々に披露するとしよう。
とかなんとか適当に締め括れば……。
「「大体わかりました。なにを言っているのかは、結局よくわかりませんが」」
「この仲良し兄弟め。大体わかってねぇじゃねえか」
親しみが滲み始めた、戯れ一幕。
ソラは見たとこ〝もうちょい〟くらいだが……向こうの敬語はともかく、ラフに言葉を交わす内に俺とショウ&レンは順調に接し方が砕けてきた。
然らば二人とも端々で序列持ちっぽさは醸すものの、常識人味が強く驚かされている。序列持ち全員おかし面白プレイヤー説は撤回の必要があるやもしれない。
〝姉〟の方も現状は、淑やか笑顔を振り撒くだけの美人お姉さんだし────
「────ハル?」
「ぇっ、なにっ、ごめんなさい。今のは一般論的な視点でのアレであって」
「……えと、なんの話、してます?」
と、一般論的なアホ思考にジャストで差し込まれた呼び掛けにビビって顔を向ければ、俺を見る琥珀色は戸惑ったようにパチクリ瞬き。
しまった、どうやら以心伝心お叱り案件ではなかったらしい。
自然、戸惑いから疑いへ移行したソラさんより『またなにか変なことを考えていましたね』みたいなジト目を頂戴。変なことってかなんというかだが詳しく白状する必要はあるまいと視線を逸らして口笛を吹けば、ペシッと膝を叩かれた。
生暖かい視線を四人分ほど感じたが、第六感拡張子は起動していないゆえ気のせいだろう。……などと、アホ思考を連鎖させていると、
「もうっ……カード、ありましたよ!」
「お、マジ? サンキュ」
ペシッと第二撃。
今度は戦闘直後で気の抜けきった頬に戦利品が押し付けられた。
鍵樹武装、即ち大当たり。先程から会話を嗜みつつ皆でワイワイなにをしているかといえば、十層ごと恒例となりつつあるガチャ全力ぶっぱの仕分け作業である。
勿論のこと犯人は俺であり、ついでに皆を手伝わせているわけではない。
計十層攻略でキリ良く『んじゃ本日は解散おつかれ』となった後。じゃあガチャるかと俺が盛大に散財した結果を、興味から各々見物しているだけの話だ。
主に会話を振ってくれる兄弟の他、ゲンさんもサヤカさんも去る気配はなく。
馬鹿をやるタイミングを誤って引き留めてしまったかと最初は思ったものだが……それぞれ楽しそうにしているので、気を遣う必要はないのだろう。
ほんと、このパーティは平和が極まっている。
「おめでとうございます」
「〝物〟は如何でした?」
で、おそらく興味を以っての居残りなのだから当然のこと。アタリが出たとあらば関心が向くのも然り、兄弟に祝われ問われつつカードを検めれば……。
「……おっと? なにやら見覚えが」
「ぁ、やっぱりそうですよね?」
洒落たデザインの枠内に描かれていたのは、割と真新しい記憶の物と極めて近しい『大剣』の絵。それに加えて名前が、こう……。
「【至竜大剣 エルヴァド】……笑えるレベルで直球のネーミングだな」
とくれば、どこの誰モチーフの鍵樹武装かなど言うまでもないことだろう。
ふむ、成程。
「んー…………──『武装化』」
少しばかり迷った後、適当に五百連ほど回したガチャ品の海から腰を上げつつ鍵言を唱える。さすれば一歩二歩とソラたちから離れる俺の手中、初回顕現時限定の緑光が集う特殊演出が実行され────次の瞬間。
「ふぇっ……!?」
「おぉ」
「これはこれは」
「まぁ」
「…………デカいな」
ズドンと、轟響。
なんか嫌な予感がしたので仲間たちから距離を取ったのだが、その安全行動は果たして大正解。呼び掛けに応えて顕れたのは一振りの怪物武装だった。
「え、サイズ感これで合ってる???」
おおよそヒト用とは言えないレベル、馬鹿馬鹿しいまでに極大な両刃剣。
カテゴリ的には『特大剣』に分類される代物だろうが、そんな最大級に類する棚からも確実に逸脱したサイズ感。竜鱗を思わせる剣腹の紋様、剣身の両側根元部分の刃が潰され鈍器のようになっているなど、目の向く部分は他にもあるが……。
なにを置いても、その体積および質量。
過去の【序説:永朽を謡う楔片】どころではない、四メートルはあるぞコレ。
「したら、せぇの────ぁ無理ですねハイそうですよね」
エネミーとしての竜人よろしく鈍色に輝く極大剣。その柄を両手で掴み持ち上げようとしてみるも、わかっちゃいたがSTR:200程度じゃビクともしない。
おそらくはコイツ限定……というか、危険物限定の初回顕現設定か否か。
手の中ではなく床に寝るように顕れてくれたから良いものの、もしこれが普通に手中へ現れたなら多くの場合に悲劇が生まれたことだろう。
鍵樹武装の『武装化』に際しては重量反映猶予時間が発生するが、それは初期も初期の《クイックチェンジ》に等しい僅か一瞬のみであるゆえ。
サイズに驚き呆けている間に、腕が抜けるか手がペシャンコどちらかだ。
「ったく、どんなバケモンが使うのを想定した怪物なんだか……」
「「「…………………………」」」
────して、なにかね君たち。そんな目で俺を見てくれるなと。
〝想起〟および武器適性スキルの能力フル活用。出したり消したりしながらゴゥンゴゥンと極大剣を振り回していると、まさしくバケモンを見るような目を我が相棒ソラさん並びにショウ&レンから向けられていた。
知ってる。今に至って蒙昧な無自覚系主人公みたいなことは言うまいよ。
なおゲンさんは『やるな』とでも言うように瞑目しながら頷いており、サヤカさんはキラキラした微笑を湛えるまま熱っぽく俺を見つめている。
重ねて、無限に頼もしくも平和なパーティだ。
この調子で明日以降の攻略も、張り切ってガンガン参ろうぜ。
Q.そんな重そうなのインベントリに入れて平気なの?
A.鍵樹攻略時に使えない武装は全部クランルームに置いてあるので平気だった。
【巨人の手斧】と【愚螺火鎚】が空けたスペースにギリ納まったらしいですよ。
以下現時点の主人公ステータス鍵樹Ver
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◇Status / Restarted◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:61
STR(筋力):100
AGI(敏捷):160
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+120)
MID(精神):300(+180)
LUC(幸運):50
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◇Status / Trance / Restarted◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:61
STR(筋力):200
AGI(敏捷):200(+40)
DEX(器用):10
VIT(頑強):0(+60)
MID(精神):200(+130)
LUC(幸運):0
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解放済み武装は以下【緑宝ノ盟珠】使用順通り。
一層:【真白の星剣】
十層:【藍心秘める紅玉の兎簪】
二十層:【蒼天を夢見る地誓星】
三十層:【蒼天六花・白雲】
四十層:【神楔ノ閃手】【神楔ノ閃脚】
五十層:【仮説:王道を謡う楔鎧】【白桜華織】
六十層:まだ選んでないよ。
どうして四十&五十層で二つ解放してるのかはアルカディアンなら察せる。
【紅より赫き杓獄の種火】に関してはアレ【白桜華織】の付属品だから例外。
比較用通常Ver
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◇Status◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+200)
MID(精神):350(+350)
LUC(幸運):300
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◇Status / Trance◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):0(+100)
AGI(敏捷):0(+250)
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):1250(+250)
LUC(幸運):0
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