炎宴に踊る蒼天の星 其ノ参
足元へ、揺れが伝う。
「さて、そうしましたら推定DPSチェックは俺の相棒に任せておきまして」
肌へと、揺れが伝う。
「初っ端がコレってなると、一から十まで面倒臭そうな厄介ボスの気配がヒシヒシなんで……改めての開幕Take.2も、とにかく速攻重点ってことでよろしいか?」
《地轟百塔》────砂剣の巨塔×百の乱舞による広範囲大群エネミー殲滅あるいは対大型エネミー塵殺用の技にて、天使が描くは地獄絵図。
然らば、来たる衝撃を〝鏡〟が逸らし降る炎雨を〝剣〟が掃う。
まるで鼓動の如く連打される先と同様の盛大な爆炎衝撃波……即ち、規定ダメージ達成の報せを早鐘を打つ鼓動の如く撒き散らし続ける【炎ノ魔人】を見て、その化物を相手が不動とはいえボッコボコにしている魔の剣塔を見て。
「…………………………は、はい。もう、なんでも……」
「お任せします、としか……」
兄弟のリアクションは、いよいよもって諦観へと至っていた。
さもありなん。これについては終始ニコニコを継続しているサヤカさんが少々ズレているのであって、我が相棒のメチャクチャっぷりを正しく脳髄に叩き込まれたならば誰だって大なり小なりこうなるものだ。
そっから先は順応の道。名高き序列持ちならば容易だろう。
「オーケー、そしたら最初に打ち合わせたアレコレは維持で。ゲンさん、あのデカブツがどんな感じになってもとにかく滅多打ちにしてやってください」
と、慄きつつも指示を飛ばすまでもなく、しっかりバッチリ自分たちの仕事は確実に果たし続けている先輩方は置いておくべしだ。
なぜって、ほら。
「っ……《終幕》!」
恙無く、爆速で、終わったみたいだからさ。
「滅多打ち……平気か?」
とくれば、常であれば口下手となるゲンさんの極まって端的な言葉も迅速な意思疎通言語に姿を変える。意味など読み取る側が上手いこと読めばいいだけの話。
つまるところ『後方から好き勝手に滅多打ち、もとい火力支援をバカスカ滅多撃ちにして前衛の邪魔にならないのか』という確認の問いには────
「問題ねっす。ゲンさんの援護は俺が読んで、その俺をソラが読むんで」
生意気と笑みをセットで返せば、彼もまた「そうか」と不器用に笑った。これもまた、一体なにを言っているのやらと兄弟に首を傾げられて然りだが、
「問題ないよな?」
是非を求める声を掛ければ、振り返った相棒はパチパチと大きな琥珀色を瞬かせた後に言葉なく再び前を向く……肝心の答えに関しては、振り向く直前に頬へ浮かんだ『知りません』とでも言いたげに気恥ずかしげな表情が全てだろう。
以心伝心は此処に健在。然らば即興連携なんでもござれだ。
────と、いったところで。
主の指揮に従い虚空へ溶けた百塔の奥。俺たちの瞳に映ったのは、砂塵の暴威を一身に受け続けた【炎ノ魔人】だったもの。
それは、領域へと踏み込んだ折に見た光景。広間中央にて揺れ動く小さな種火は……しかし最初とは少しだけ異なる様子で、どこか楽しげに踊っていた。
まるで、改めて今一度、誘うように。
「ゲンさん」
ならば是非もなし。差し伸べられた手に返すのは────
「任せろ」
固く握り込まれた、拳骨のみ。
斯くして、迸った空間を軋ませるまでの威力を、全て。
『──────────────ィヒッ……!』
成った姿は、体高おおよそ二メートル強。
随分と身体を縮めた上で、随分な表情を見せ付けてくれた【炎ノ魔人】……──改め【炎ノ魔人 ヴォルキドゥン】が、突き出した片手にて握り潰した瞬間。
「上等だコラ」
笑みと共に無意識で零していた俺の呟きを合図に、戦端は真に開かれた。
然して、一番槍も二番槍も俺ではなく、
「ヌゥンッ……‼︎」
右、からの左。繰り出す双拳は掲げる名を以って力を示すが如く、ぶち抜かれた空間の絶叫をも砕き潰しながら可視化されるまでの威力が宙を翔けた。
さすれば唸る拳の目標こと到達地点。いまだ気味の悪い薄ら笑いを浮かべるまま余裕綽々で立っているヴォルキドゥンの下へ────……
「────────いや、アホかテメェ」
嘲笑い返す観測者は、一歩を以って魔人の頭上へと浮かんだ俺。そして【双拳】の第二撃を追い越すまま、敵の目前に在って助走の最中たるこの身に続き、
「東陣営のセンパイ舐めてんじゃねぇぞ」
殺到するは、次撃より連なる無数の轟砲。なに驚いた顔してんだ『通常攻撃』だぞソレ。いくらでも好き放題しっちゃかめっちゃか連射できるに決まってんだろ。
『ィヒ、ヒッ……────────』
刹那、散炎と飛翔。
軽薄かつ気味の悪い薄ら笑いは絶えず。しかし十を超え二十を超え百を目指す拳砲の波濤は、流石に両手を使っても受け止めきれなかったようで、
「《水属性付与》」
『────、』
然して彼方。大広間の壁まで並んで仲良く駆け抜けた俺たちは、片や轟音を上げ散らし壁面へ叩き付けられた者、その眼前にて別なる拳を輝かせる者に別たれた。
左腕着装【仮説:王道を謡う楔鎧】────更にレッツ弾丸限界装填ッ!
「づァ────────ッらアィ!!!」
《拳嵐儛濤》左腕収束三百発一斉射プラス《水属性付与》プラス技術およびスキルによる推力諸々全部乗せ。磔にされた瞬間の追撃、避けられるはずもなく。
左拳が顔面を強かに打ち抜き、意図不明なニヤケ面を歪ませたところで、
「〝鋒撃〟」
右腕追撃、鳩尾へ突き立つは【真白の星剣】の鋒。
然らば、離脱。
「《剣の円環》────」
天秤の、再傾。
「────《神穿ノ弌塔》ッ‼︎」
【炎ノ魔人 ヴォルキドゥン】の胸を穿った真白の星剣。もとい、釘の頭を、
世界の悲鳴が如き劈音を引き連れて飛来した、全長三十メートルを優に超える極大剣塔。そんな埒外の質量が一切の慈悲と容赦を磨り潰すままに、打ち込んだ。
おはようの挨拶。
安心してください、相手のターンも一応あります。