炎宴に踊る蒼天の星 其ノ壱
「────《天歩》」
有言実行。燃え盛る巨躯の魔人が甲高い地鳴りの如き咆哮を上げ散らして闖入者歓迎の構えを取ると同時、俺の身体は空を翔け奴の目前へ。
然らば、襲い来るのは『だろうよ』としか言えない強烈……を通り越して激烈なまでに肌を灼く熱波。如何な超人アバターとて近付くだけで身的被害は免れないであろう轟炎の身体と対面しながら────無視。
「〝百────」
炎熱環境スリップダメージ? 残念ながら、そんなもの。
「────重〟ァッ‼︎」
ありとあらゆる支援効果を内包する究極無法の加護、北の〝巴〟が三種の法器より齎される個人用祝福結界《三律祝宿結界》のカバー範囲だ。
荒れ狂う炎。空間に散るどころか、空間を満たす火の粉。そして轟風すら巻き起こす灼熱の熱波。それら全てを鎮めて俺を護るはアバターに付随する純白の燐光。
つまり、十メートルを超える炎の塊へ拳を突っ込むのも問題はナシ。
躊躇なく撃ち放った右拳はスキルによって百の拳打を宿し、山羊の如き捻じ曲がった双角を生やす凶悪な【炎ノ魔人】の面を狙い違わず────
『────────ッ』
「おっと?」
予想と異なり、しっかりバッチリと殴り飛ばした。
意外や意外。完全にヒトの容を取っているとはいえ、見た目そのまま炎の塊たる身体は下手すりゃ物理無効で擦り抜ける可能性まであると思っ《天歩》再点火。
「《連なる巨塔》ッ────」
確かな〝手応え〟を右手に残すまま、拳撃に打たれて僅かに仰け反った魔人の眼前より即時退避。さすれば着弾するのは、背中を追ってきた相棒の魔剣。
そして、
「────《千剣の一つ》ッ!」
砂の巨塔三連を叩き込まれ盛大に揺らいだ【炎ノ魔人】の目前、撚り上げた千砂の魔剣に光輝を宿し俺以上の情け容赦なしムーブを実行するはパートナー様。
『──────、──、────』
全着弾。これといった動きを見せなかったのは、果たして俺の爆速初手ぶっぱより続く衝撃による必然か、あるいは何らかの〝意図〟を擁するものか。
天秤は既に揺れ動いている。
ならば俺と同じく〝巴〟の加護を身に宿し、加えて自前の無法強化を施し、更には揃って解放済みの【蒼天を夢見る地誓星】による共闘時ステータス補正など諸々を重ねたソラのアバターは、スペック的に言えば完全体と大差ない。
それが開幕全力を以って、真正面から必殺を叩き込んだとあらば────
「あぁ、完全に物質化してんなアレ……」
地響きを上げて、巨躯が背より倒れ伏すのも可笑しなことではないだろう。
成程、ほんのりとは理解した。
《天歩》の再々点火。〝寄り道〟をしつつ向かうのは……。
「っと、そんな感じらしいっすよ」
「「まだなんとも言えないですね……」」
一幕を観察していた仲間の下。当然のように宙から攫われて俺の腕に大人しく収まったソラさんを下ろしつつ、一言を零せば返ってきたのは二重の一言。
「あれだけの攻め手を正面から喰らっておいて、ダメージは極僅か。物魔両刀の魔剣でも減りは芳しく見えなかった……大人しく全て受け止めたのも不気味だ」
「物理判定は通ってましたね。ただ、ハルの拳撃もソラさんの魔剣も直撃していなかったのが不可解だ。どれもこれも、本体に接触する直前で空間に着弾していた」
そして連なる、ショウおよびレンの正確な考察。
どれもこれも俺とソラが揃って思考に浮かべた事実だが、しっかりと一連の流れを目で追い欠片も要点を見落とさなかったのは流石の一言だ────と、
再びの、地響きが伝う。
「ハル」
「あぁ」
巨躯の頭上、表示されたHPバーは七本。
専用の大ゲージではないということはオーバーレイド級まではいかないのだろうが、それでも厄介そうな手合いということは疑いようもないだろう。
なんせアイツ、先の怒涛の連撃を全てモロに喰らっておいてゲージ一本目がミリ削れるくらいのダメージしか負っていない。本体の炎に触れる手前の空間に俺の拳やソラの魔剣が着弾したこと含め、確実に何かしらのギミックが働いている。
なんかこう……『どっこらせ』とでも言わんばかり、ゆったり遅々とした動作で起き上がっているのもショウの言葉がまさしくで不気味。
さぁ、どうすっかねと────それを決めるのも、今の俺に預けられた役目だ。
「……サヤカさんは、そのまま結界維持の柱を継続。近付いた感じコレがないと近接戦は無理っぽいんで、絶やさず死守で頼みます」
「はい、わかりました」
「ショウはサヤカさんのガード重点、もしもの時は差し込み頼む」
「了解です」
「レン、とりあえず効く攻撃を探りたい。フォローはするから前に上がってくれ」
「了解です」
「ゲンさん」
「あぁ、任せろ」
「まだなんも言ってねっす。とりあえず後方からガン殴りで頼みます、そのまた後ろがヤバいと思ったらショウと一緒に守りへ入ってください」
「任せろ」
斯くして、頭を回して言葉を紡ぐ。
幸い各々から返されたのは素直な了ばかりであったが……────
「…………」
「な、なんですか……?」
「いや、どうかなぁ……って」
「……もうっ、今のリーダーはハルですよ!」
仕方ないじゃん、隣に俺が知る中でトップクラスの『指揮官』様がいるんだからさ。そりゃ不安にもなって視線を送っちまうってなもんよ。
なんかあれば言ってくれな。もう遠慮なくズバッと。
はてさて、といったところで……──よう、随分と重い腰だったじゃねぇの?
地響きが止み、見上げれば睥睨する魔人の巨躯。割と無様にぶっ飛ばされたのは既に忘れたのか、あるいは戯れを以って矮小なヒトを嘲笑っているのか。
わからないが……ゆえに、わかるまで。
「んじゃ、本格的に戦ってこうか!」
端から端までド突き回して、確かめてみるとしよう。
Q.聖女様たちの加護がない一般人はどうすればいいの?
A.普通に耐火装備を着て耐火ポーションも飲んで頑張ってください。
序列持ち級のスペックが基本バグってるゆえ悲しいほど出番がないだけで、便利なアイテム等の外付け後付け対抗策は千差万別あるんだよ。