side:Team.C
────二刀の演舞が閃を曳き、地揺れを以って幕引きが伝う。
然して、大広間に散逸するは姿を散らした階層主の残滓が緑光。都合五十一度目ともなれば、いい加減に見慣れてきた鍵樹特有の討伐エフェクトの最中にて。
「んまっ、この面子なら余裕綽々だよねぇ」
「ひぇー……戦力過多ぁ…………」
「キミも大概だよリンネ。あまり守護騎士の株を奪われたら困るな」
場を賑やかすのは、その身に秘めた戦力とは裏腹に可憐な声音が二つ、三つ。
「……五人でも良さそう」
そして四人目、追加の一つ。
お気楽、軽々、緊張感ゼロな前三つとは異なり、一人だけ仄かに気が乗らない様子で……けれども、仕事はしっかり果たしている少女に、
「君が抜けたら、自動的に役立たずが発生して四人になるんだが? ……どうせアイツのところも六人満員で空きはないんだ、我慢してくれ」
「むぅ……」
機嫌取りの声を掛けるのは、流麗に鞘へ二刀を納めた侍こと臨時小隊長。
「おい貴様。聞こえてないと思ってるのか誰が役立たずになるって?」
「内緒話をしたつもりはないし、俺は事実しか言っていない」
「はい喧嘩。こんにゃろ今日という今日は乙女の扱いを心得させてや────んにゃぁぁあぁ゛あ゛あ゛ッッッそれ卑怯マジ下りて来いコラぁあッ!!!」
さらっと生み出した氷の高台にて小みっこ完全耐性を得る囲炉裏と、涼しい顔で見下す彼に激昂するままピョンピョンと無為なアクションに励むミィナ。
「はは……」
然らば、そんな賑やかなパーティを最も普通寄りな感性で眺め楽しみつつも困っているマルⅡ。……総じて戦闘においては相性抜群バランス最高峰と言って差し支えない仕上がりのパーティだが、内に居ながらの傍観者としては問題が一つ。
若干二名による惚気で、気苦労はするかもしれないなと────
「ふふ……しかし、流石に十層刻みの階層主でもなければ苦戦はしなさそうだね。この分なら二週間とは言わず、一週間もあれば余裕で登り切れるかな?」
「その十層刻みでマジヤバなのが出て来なければーって感じですかねぇ?」
「マジヤバ程度ならなんとでもなる。吹き飛ばして早く登ろう」
「うわリィナちゃん先輩かっこよ。いやぁ、やーっぱCチーム安定しますよねぇ」
なにかと苦労人気質の【変幻自在】が密かに覚悟を決めているのを他所に。侍と魔法使いの戯れを微笑ましそうに眺めつつ、他の女性陣は腰を下ろして談笑中。
節目節目で休める時に身体もとい頭を休めておくのは仮想世界の鉄則。ゆえに如何な序列持ちとて、コンディションを良好に保つためセオリーを疎かにはしない。
つまり自然、お喋りは誰に咎められることもなく盛り上がるものだろう。
マルⅡとて、こんな時まで先輩方を相手にワーワー楽しげに喋りまくっている相方を諫めたりはしない。斯くして性格も権能も騒々しい【音鎧】先導で攻略クールタイムの交流会は和やかに時を進めていき……──
「────これ。純粋に攻略時間の合計で競争したら、一等賞はどこだろうね」
と、物々しい『素顔の見えない常時全身甲冑』という見た目に反して親しみやすく会話好き。綺麗で清楚感に満ち溢れた声音と併せて、そんなギャップも世のファンを魅了して止まない【騎士】アイカが話題を出した折にて。
「ぁ、それは間違いなくハルさんとこのBチームですね」
「お兄さんのところが断トツだと思う」
「それはハルソラんとこでしょー……!」
「へ? ぁ、そ、そう……」
なんて、アイカが思わず甲冑越しでも察せられる程度に驚いた様子を見せたのも仕方のないことだろう。皆、思わず反射的にといった具合で食い気味に『断定』を返したものだから。距離の離れているミィナまでセットで。
傍で見ていたマルⅡも薄く笑みを浮かべているが、それは圧に押されたアイカへの同情や相方プラス双翼の即答に対する苦笑いでもない。
仮に会話へ混じっていたのなら、自分も間違いなく相乗りしていただろうという確信を持ったのが自分で可笑しかったからだ。
「って、そっか。アイカ先輩は最近……というか、結構前の『白座』攻略戦以降でハルさんソラちゃんタッグのガチバトルとか見る機会なかったですっけ」
「そう、だね。【曲芸師】……ハル君のアーカイブ動画は暇な時に見て楽しませてもらってるけど、パートナーで派手に共闘しているシーンは記憶にないかな」
「ですよねぇ。まずソラちゃんが登場する動画自体が激レアですし」
とあらば、世の知る『ハルソラ』が本気で共闘連携を披露した映像は、やはり例の対【白座のツァルクアルヴ】攻略戦が最終となるわけだ。
先日の『緑繋』攻略では、残念ながら二人の合流時に片方が既に満身創痍だったゆえに────今の二人が本気で手を取り合えば、どうなるかを世界は知らない。
知っているのは例えば……縁を紡ぐ機会に恵まれた後、良好な友人関係を以って時折『遊ぶ』ことのあるリンネとマルⅡに【大虎】を加えた三人組。
そして例えば、なにかと特訓やら修行やら戯れやらで『じゃれ合う』ことのある東陣営の序列持ち各位。おそらくは、それくらいなのだろうと。
「そしたらもうほんと、お楽しみにーですねぇ。ハルさん確か鍵樹攻略は全部録画してクラアカに動画上げるって言ってましたから、見れますよ今のハルソラを」
然して、本人だけでなくペア推しのリンネが見せるのは邪悪な顔────もとい、推しの輝きを語るオタク特有の乙女ならざるアレな微笑み。
そんなモノを向けられたアイカは、やや引きつつも興味が勝ったようで。
「……そんなに、ヤバいの?」
「ヤバい。マジヤバどころの話じゃない」
傍らでリンネの言葉に首を振って同意を示していたリィナに問いを流せば、少女の口から返されたのは即座の断言。そして、後に続いた言葉には……。
「────今の二人には、今の【剣聖】でも勝てないから」
「────────…………それ、は……確かに」
たとえ、巨獣の突進でさえ微動だにしない【騎士】でさえも。
「ウルトラ、ヤバいね……?」
語彙を少々おかしくしつつ、ひどく素直に慄いていた。
然らば明日。
レベル以外は本気のハルソラ、二本立て。