Ready to
然らば次は三次会────なんて事態は発生しない程度に、我らがBチームは比較的に穏やかで冷静かつ性格の落ち着いたメンバーが揃っていた。
なんとも言い難い方向でフリーダムな聖女様は特別枠ってか特異枠として、ぶっちゃけ普通に俺が一番〝落ち着きのないキャラ〟であるという珍しい状況。
あくの強いキャラ立ちがデフォな序列持ちに囲まれる日常においては、マジで貴重な経験。……別に今更のこと真っ当な常識人を気取るわけではなく、単純に『戦闘中テンションが上がる』程度のアレは天上において個性薄弱というだけだ。
そもそも、そんなもん戦闘をメインの遊戯とするプレイヤーであれば大なり小なり同類だしな。ノリとテンションが作用する仕様も相まって、ではあるが──
ともあれ、話がまとまった後の流れは皆一様にお利口さん。
景気付けに一層くらい攻略いっとく? みたいな後先考えぬ大学生の如き展開にはならず、明日からの始動に備えて各員ゆっくり休みましょうと相成った。
────ってことで、明日。ってか、今日。
目覚め、次いで目覚め。
スムーズな解散からの即就寝を経て、からのバッチリ健康的な八時間睡眠。目覚ましに起こされ朝食を済ませ、諸々の準備を終えて行き着く先は罪なき二度寝。
現実で起きて寝て仮想世界で再び起床。なんともアレなサイクルだが、現実の身体は夢の箱舟が備える謎機能が好調に保ってくれるゆえ無問題だろう。
そんなこんなで……。
「ぃよ、っと!」
コンディションに関しては文句ナシ。平均より四回転ほど多く回った末に自室にて着地を決めれば、ルーティン判定は迫真の絶好調────そして、
「っし、行くか」
コンコンと、約束した時刻ピッタリに響くノックの音。
なんかいつもいつとて部屋に訪ねられる側だなと今更ながら思いつつ。扉の向こうで待つ相棒と『おはよう』を交わすため、俺はドアノブへと手を伸ばした。
◇◆◇◆◇
「────そしたら改めまして、今日から頑張って行きましょーぅおー」
「……ハル、ちゃんと寝ました?」
鍵樹迷宮第五十層、攻略完了状態の最奥大広間にて。
集合時間に違わず集まった面々の只中。あまり騒がしいチームではないゆえ、テンションぶち上げで進行するのも如何なものかと緩い音頭を取れば即ツッコミ。
二人きりの時は今に至って基本ほわんほわんしているが、他人のいる場合なおかつ真面目な目的を見据えている状況においてソラは決まってソラさんである。
「「よろしくお願いします」」
「ふふ……ドキドキしますね」
斯くして、パートナー様からは疑いの目を向けられたが各員の反応は穏やか良好。貫禄ある腕組み姿で延々なんと答えを返したものか迷った挙句に、機を逸して首肯だけに留めることになったのであろうゲンさんも含めて、な。
完全に俺だけを瞳に映すまま『ドキドキする』とか宣った聖女様は置いておく。
と、本当に戯れは一旦さて置いて────
「皆、ボス討伐後のアレコレは終わってます? 大丈夫?」
確認するのは、とりあえずの重要事項。
第五十層のボスエネミー【地蝕の人魚 プリムヴァーレ】の討伐を完了した後、セーブポイントとなる階層攻略完了後の最奥地点にて進捗を留めておく。
と、事前に打ち合わせた約束を皆が果たしていたゆえの恙無い合流。
当然『進む』か『戻る』かの転移門も健在なので、前者に揃って飛び込めば攻略開始と相成る……が、スキル解放やら何やらを終えていない者がパーティに混じっているとエラーを吐いて転移が実行されない事故防止の親切仕様だ。
なので、一応の確認。
「「大丈夫です」」
「はい、終えております」
「……あぁ、俺も問題ない」
然して返ってきたのは揃って肯定の声。オーケー、誠に結構────で、わざわざ確認しといて『自分まだです』などと間抜けは流石に晒さない。
つまるところ、
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◇Status / Restarted◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:51
STR(筋力):60
AGI(敏捷):100
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+50)
MID(精神):300(+150)
LUC(幸運):50
◇Skill◇
・全能ノ叶腕
《十撫弦ノ御指》
《拳嵐儛濤》
《ルミナ・レイガスト》
《エクスチェンジ・インプロード》
《貪欲ノ葛篭》
・水魔法適性
《アクア》
《フラッド》
《カレントハーケン》
《メイルストロム》
《千遍万禍》
《水属性付与》
・Active
《リフレクト・エクスプロード》
《フラッシュ・トラベラー》
《影葉》
《鏡天眼通》
《アルテラ=ノーティス》New!
・Passive
《白竜ノ加護》
《英傑ノ縁環》
《煌兎ノ王》
《アテンティブ・リミット》
《超重技峨》
《剛魔双纏》
《タラリア・レコード》
《流星疾駆》⇒《弌軌到星》Up!
《極致の奇術師》
《危極転鸞》
《戒征不倒》
《星月ノ護手》
《魔を統べる者》
《リジェクト・センテンス》
《影滲越斃》
《水精霊の祝福》
《四辺の加護》
◇Arts◇
【結式一刀流】
《飛水》
《打鉄》
《天雪》
《枯炎》
《重光》
《七星》
《鋒雷》
口伝:《結風》
【四凮一刀流】
《颯》
《涓》
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五十層の攻略によって遂にスキル全てを取り返し、俺のアバターもレベルとステータスを除いては機能復元を終えているというわけで。
昨日イベントを終えたタイミングで新規取得&進化成長した各一つずつを加えて、出力が完全体と比べ心許ない部分へ目を瞑れば完調と言って差し支えない。
新たなスキルも割かし素直な性能である上、流石に貧弱が過ぎた肉体性能も相変わらずMID偏重ながら近接戦とて一応こなせるラインに調整済みだ。
少なくとも、同行者たちに無様は晒さず済む程度には動けるだろう。
────全員それぞれ準備ヨシ、ならばこれよりは踏み出すのみ。
然らばヘレナさんか、アーシェか、あるいはゴッサンか。誰かしらの意図によって選出されてしまった以上は、リーダーとして振る舞わねばなるまい。
と、いったところで、
「そしたら、陣形諸々については打ち合わせ通り。前衛はソラがメインの俺が遊撃サポート、御三方には最後方から支援を徹底していただく形で……──」
相棒と視線を交わして、了を受け取る。
北の〝巴〟へ目を向けて、首肯を三つ受け取る。
そして最後。
「ゲンさんはサヤカさんたちの護衛を張りつつ────後衛、頼みます」
「任せろ」
空手道着を纏う武人様より、頼もしい応を頂戴した。
パーティリーダーこと俺の采配……というわけでもない、昨夜に皆で取り決めた各員の役割配置へ今更に異議など挙がるはずもなく。
「オーケー。んじゃまあ、気張って参りましょう!」
六人、揃って踏み込むは『進む』の転移門。
それではいざ一気果敢の心持ちで、怒涛の鍵樹攻略を始めようか。
今日と明日は昼夜二本立て。