二次会
────それでは、具体的な活動計画については各グループで相談を。
と、組分けの後は百層目標到達期限などアレやコレや重要事項の取り決めを経て、四十余人で顔を突き合わせての一次会はヘレナさんの言葉で絞められた。
然らば、次なるは侍女様の言う通り……。
「………………えー、はい。それではその、偉大なる我らが侍女様参謀様ヘレナ様の采配ってなわけで、不肖【曲芸師】こと俺が音頭を取らせていただきます」
王城エルファリア内。即時生成型空間の談話室へと場所を移して、柔らかなソファに腰を下ろすは俺を含めて計六人。
当然のこと俺の隣へ納まったソラさんと、
「「よろしくお願いします」」
共に綺麗な栗色の長髪を、流しているのがショウさんで縛っているのがレンさん。それくらいしか確実に見分けられる要素がない双子のようなお二人と、
「………………」
ソラさんとは逆サイドの隣。瞑目しているゲンさんはいつも通りとして、
「ふふ……」
俺の正面にて、ほわほわニコニコふわふわ相も変わらず謎に幸せそうに俺だけを見つめている聖女様────いやほんと、どういう組み合わせなんだと。
ま、困惑を引き摺っていても仕方ないゆえ切り替えるしかない。
「それじゃ、時間も時間なんでサクッと進めましょう」
序列持ちとしては一番の若輩がリーダーなど云々……なんて、ご機嫌伺いの無駄な立ち回りは必要ないだろう。十人十色そりゃもう色鮮やかな個性に満ち溢れた者ばかりではあるが、今更『序列持ち』の人格面を疑う余地はない。
皆、絶対的にメチャクチャ〝面白い人〟たちであり、根本的にムチャクチャ〝いい人〟たちなのだ。そこはもう流石に、信頼を置いているがゆえに。
顔を見回せば周囲五人に異議はない模様。誠に結構だ。
「まずは一番大事な活動の時間合わせ。……なんだけども、これについては申しわけない、俺とソラに合わせてもらう形になるかもしれない」
チラと、隣の相棒へ追加で視線を送り瞳を映し合う────はいオーケー、然らばソラさんの了承も得たってなことで。
「土日ならほぼほぼフルタイムで攻略に充てられるけど、平日は午後……そうだな。確実に時間を合わせるなら夜七時以降に時間が限られます」
なんてのは、言わずもがな『学生』という身分を連想するに十分な情報。けれどもソラさんが特に悩まず俺へ判断を預けたように……。
「問題ない」
「問題ありません、お気になさらず」
「それでは可能なら平日は早めに夕食を済ますなりで、まとまった活動時間を確保するよう動くのが良さそうですね。────頼んだよショウ」
「はいはい。たまには手伝ってくれよ」
この通り。端的なゲンさんを始めとして、居並ぶ面々は一切なにも気にした風なく落ち着いて俺の言葉を受け入れてくれた。
無条件で周囲を浄化しそうな聖女スマイル継続中のサヤカさん含め、濫りに個人のプライベートへ踏み入ったりはしない。安心感すら覚えるほどに出来ている。
本当に、いい環境だ。
「────……と、そしたらまあ、そんな感じで」
「了解した」
「「了解しました」」
斯くして、最も大切な相談事の擦り合わせは数分程度で恙無く了。無理はなく、しかし最大効率で攻略時間を確保できるスケジュールを組み上げることができた。
平日は全員が早めに夕食を済ませ、現実時間の午後七時集合。その後は最長で十一時までの四時間……仮想時間換算で六時間を一日の攻略に充てる。
土日は朝九時集合からの十二時までの三時間で第一幕。昼休憩を挟み午後三時集合からの十時まで、適宜休憩を取りつつガッツリ攻略へ勤しむ運びだ。
急な用事や体調不良など、トラブルがあれば各員お互い様ってことで遠慮しない。その一点だけルールを決めて、基本的にはコレで大丈夫だろう。
百層到達の目標設定期限は二週間。そんだけあれば、なんとかなるはずだ。
「オーケー、そしたら次は………………次、は……なんだろうね?」
「ハル?」
勢い百割で進めてはきたが、別に頭が回っているわけでもない。予定合わせはバチッと決められたものの、恥ずかしながら次の議題がスッと上がってこなかった。
「「はは」」
お恥ずかしい。パートナー様に『え?』という横目を向けられるだけでなく、鏡と剣の御二方にも笑われてしまった────いや笑い方、お上品。
なんか三人合わせて育ちが良さそうだな……などと適当色に染まりかけた頭を振って、任命されてしまったリーダーの大役を全うするべく思考を回した。
そう、リーダー。
なんでか知らんが俺がパーティリーダーなんだ。ならば次の議題は……。
「……それぞれ、コレに言っときたいことあります?」
偉大な御先達を率いることになった若輩のリーダーとして、どう在るべきか。あくまで形式上だけとはいえ、意見を聞いとくに越したことはないだろう。
そう思い己を指差して問うてみれば────挙手。
意外にと言っていいものやら、即座に二つの手が挙げられた。然して、この場で俺を除き『二人揃って』とあらば誰と誰かは言うまでもなく。
「特に重要なことでもないのですが」
「少し、要望をいいですか?」
ショウさん、並びにレンさん。
言葉と共に向けられたのは、ロイヤルブルーの瞳が四つ。
「勿論。なんでもどうぞ」
そう返せば彼らは頷いて、
「「敬語、止めましょう」」
「…………ミナリナを見てるみたいだな」
息バッチリ、簡潔に『要望』を提示した。
「リーダー役ということもありますが、なにより勝手ながら俺たちの見慣れた【曲芸師】とギャップがあって少し接しづらい……とまでは言いませんけど」
「気安く振る舞ってくれた方が、嬉しいですね。アーカイブの映像の中で暴れ回る君に、僕たちは揃って楽しませてもらい好感を抱いたもので」
続けて、きっちり理由も提示。その内容はレンさんが締めに綴った『好感』という言葉に違わぬ感情ばかりが乗せられたもので、そうとあらば……。
「ぁー……わかった、了解。努力する」
「よろしくお願いします」
「名前も、呼び捨てで構いませんよ」
「んじゃ、そこは互いに。こっちもハルでよろしく」
こっちも、笑って受け入れるのがスマートってなもんだろう。
────ちなみに、
「……あれ、そっちの敬語は」
「俺たちの敬語は」
「ハルのパートナーさんと同じ類のモノですので、ご容赦を」
「へっ? ぁ、と……」
といった具合に、些細な反撃に関しては有無を言わさぬ完封を喰らった。ソラと同様の……つまりは元より、親しい間柄だろうと誰に対しても敬語固定で生きていらっしゃるということ。それならまあ仕方がない。
どうしてもタメ口で喋ってもらいたければ、それこそショウにとってのレン、レンにとってのショウ、あるいは二人にとってのサヤカさんと同じレベルまで近付かなければダメということだろう。それは大変な道程になりそうだ────
…………………………。
「………………」
さて。
そろそろ見ないフリも限界だな。
「ぇー……はい。サヤカさん、どうぞ」
「私も是非、呼び捨てに」
「俺、なんかこう高貴な雰囲気の女性を気安く呼び捨てにはできない星の下に生まれてきた男なので、敬語と併せて是非ご勘弁いただけないでしょうか」
「まあ、そんな…………────ふふ……。褒められてしまって喜べばいいのか、断られてしまって悲しめばいいのか、困ってしまいました」
双子(?)の話中にスイっと挙がった手の主へ顔を向ければ、完璧に予想通りの言葉がほわほわ飛び出して来たので迎撃の決め打ち。
嘘は言っていない。そんで反応も悪いものではなかったので、暫くは呼び捨てやら敬語抜き云々を求められることはないだろう。願わくば永遠たれ。
────と、いまだ浅い仲ということで主として『言いたいこと』を求めた三人から、それぞれ言葉を受け言葉を返したタイミングだった。
「ぉ、ゲンさん?」
これに関しては、失礼ながらハッキリ申し上げて意外や意外。
いつ如何なる時も瞑目瞑想を続け、ぶっちゃけそのまま寝てることさえある寡黙Lv.100の武人殿が、こういった場で手を上げることは実に珍しい。
ので、俺も驚きを隠せないまま目と声を向け〝なにか〟を促せば……。
「…………お前にというより、全員に言っておきたいことがある」
ゲンさん────東陣営現序列九位【双拳】殿は重々しく……実際のところは単に普段から喋らな過ぎて固まっているだけであろう口を、ぎこちなく動かして。
冒険の裏で体術修行に付き合ってもらって以降、俺のよく知るゲンさんは語る。
「……暫く行動を、共にするにあたって。攻略において足を引っ張る気は無いが、俺の口下手や不愛想が空気を引っ張ることもあるだろう」
そりゃもう、一生懸命────健気に、語る。
「俺の不徳は、周知の事実だが。けじめとして、最初に謝っておく。すまん」
斯くして、そんな周知の事実こと本人曰くの『不徳』を抱えるゲンさんが語り終えて……──俺を含め、それを聞かされた全員が浮かべるのは共通の感情。
即ち、微笑ましさ。
斯くして【双拳】────修行が趣味を公言する生粋の武人にして、極度の対人上がり症を鉄面皮にて必死に押し込める東陣営きっての萌えキャラ。
「そのままでいいっすよゲンさんは。頼りにしてます」
「あの、私も似たようなところあります。一緒に頑張りましょうっ……!」
「それを言ったら」
「うちの姉も別方向で大概なので……」
「まあ、二人してなんてことを……ゲンコツさん、慣れない集団行動で心労ありましたら遠慮なく仰ってくださいね。皆で支え合って参りましょう」
「……あぁ、すまん。よろしく頼む」
そんなゲンさんを、総出で迎え入れるようにして。まあとりあえず一応は。
まとまったかな『Bチーム』ってな具合で。
喋る気ないから黙ってるんじゃないんだよ。
喋ると空気を壊すと思って、頑張って気配を消してるんだよ。
かわいい。