チームアップ
なにはともあれ、議題は明白だ。
頂点二人が先んじて到達した鍵樹第百層へ俺らも早いとこ辿り着き、待ち受ける〝扉〟の先へと攻略の歩を進めようぜってな話。
途上にて幕切れとなった『緑繋』へと繋がるかもしれない道……その正否を確かめるためにも、とにかく求められた六人を揃える必要がある。
加えて仮に扉の先が『緑繋』攻略第二幕へ続いていたとして、流石に初回一発クリアなんて妄想じみた楽観視は誰もしちゃいない。
挑戦を重ねて、最善を模索して勝利を掴む。そのための選択肢を増やすためにも、まずはプレイヤーの頂点たる序列持ちを百層へ揃えようという思惑だ。
それゆえの、組分け。
三十を六で割って、ちょうど五組。キリよく、なおかつ戦力バランスの取れた考え得る限り最高の六人編成を形成することで、迅速な木登りを遂行する。
シンプルかつ理に適った作戦だ。単独それぞれ好き勝手でも馬鹿戦果を叩き出す『序列持ち』という駒を束ねれば、如何な鍵樹迷宮とて攻略は安定するだろう。
少なくとも……なんだっけ? 基底樹路とかなんとからしい、百層までは。
と、いうことで。
「僭越ながら私の方で……アイリスとゴルドウの意見も交えた上で、組分けの雛形を用意させていただきました。異議や意見等ございましたら、お願いいたします」
そこまでの話は、イベント以前の段階で共有を終えている。なので予め組分けの案を用意しておくという旨にも当然のこと納得済み。
南陣営ひいてはプレイヤー全体の参謀と称して差し支えない【侍女】様を思考の柱に、他でもない【剣ノ女王】と【総大将】も意見を交えたのならば抱くのは信頼ばかり。俺も周囲の友人知人たち同様、身構えることもなく進行を見守っていた。
そうさ、万が一にも悪いことにはなりゃしないという安堵と信頼と油断を以って、宙へ展開したウィンドウに表示される『雛形』とやらを拝見したよ。
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team A:【総大将】【女傑】【足長】【群狼】【雲隠】【Kanata】
B:【曲芸師】【双拳】【玉法】【鏡法】【剣法】【Sora】
C:【無双】【左翼】【右翼】【騎士】【音鎧】【変幻自在】
D:【糸巻】【熱視線】【不死】【全自動】【剛断】【旅人】
E:【大虎】【銀幕】【重戦車】【城主】【詩人】【散溢】
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「………………………………んぇ……?」
内容を理解して頭がフリーズするまで、四秒フラットってなところだったかな。
「並びに関しましては、ほぼ意味のない順となっておりますので気になさらず」
うん、まあ、それは別にどうでもいいんだけども。
「唯一、先頭に名前を置かせていただいた方は形式上パーティーリーダーとして選定しておりますので、そのように心得ていただけると幸いです」
そこについては異議ってか言いたいこともあるが、まあそれも些事として。
「一緒……」
片隣から耳が拾った、嬉しそうな囁きもヨシとして。
「お前さんは俺の希望で預からせてもらった。アーカイブの映像やらで暴れっぷりはバッチリ把握しちゃいるが、自分の眼でも成長を見ときたくてな」
「ぁ、は、はい。頑張りますっ……!」
もう片隣、肩を叩いたゴッサンにやる気を示している元気な声もヨシとして……いや、その、なんだ。本当に、こう、文句があるわけではないのだが────
「……………………なんとなく、察してはいたが」
「おっと貴様なんだその不満そうな顔は。可愛い可愛いミィナちゃんと一緒じゃ気に入らないというのかね戦争かな? どう思うよリィナちゃん!」
「はぁ……」
「ねぇやめて? なんでリィナちゃんまで不満そうなの、あたし泣くよ」
「えぇ……リーダー……えぇ、ウチ…………? 嘘でしょ……なんで…………」
「妥当だな」
「妥当だね」
「うふふ……頑張ってね、未来の大隊指揮官候補さん?」
「なっちゃん頑張れ応援してるぞー! サクッと登って冒険に行こう!!!」
「えぇ………………」
「なんで俺なん。ユニのが適任ちゃうんけ」
「え、それどっから出た評価? 俺とか一番リーダー向いてないと思うけど」
「まあ、ユニ君は案外ノリで突っ走って好き勝手やるタイプだからねぇ」
「適役ですよトラさん。身内の欲目は抜きに北陣営きっての〝将〟ですよ」
「なんやねんヤメロや照れるやんけ。持ち上げても笑顔くらいしか出ぇへんぞ」
「……………………………………んぅ……」
「………………おい、寝てんぞ一人。このパーティ大丈夫かよ」
わいわいがやがや、空気は円満。
それぞれ皆さん各々の組分けに不満や異議はなさそうで、実に結構────となれば自然、人の目というものは浮いた雰囲気に集まるモノで……。
「────ハル様」
「………………………………………………は、はい」
無遠慮なソレではないといえど、しかしバッチリガッツリ注目を浴びているのを俺が自覚する最中。甘い香りと共に近付いた気配から、名を呼ばれる。
目を向ければ、傍らに立っているのは聖女様。
まるで恋する乙女のように甘やかな表情で、逢瀬を許された淑女のように夢に焦がれた表情で、煌めくエメラルドの瞳が映すのは────ただ一人のみ。
「ご一緒できるなんて、夢のようです。どうぞよろしく、お願いいたしますね」
「え、ぇえっ……と………………」
彼女の両脇へ、目を向ける。
北陣営序列三位【玉法】様の左右におわすは、当然のこと連なる四位【鏡法】と五位【剣法】の御二方。それぞれショウさんとレンさんは俺の味方、そんな以前の出会い時に確定している救いに縋った俺へ返されたのは……。
「……申し訳ない。レン共々、諸々の努力はしますので」
「どうぞ呑み込んで、ご一緒していただければと……」
なんと無慈悲な、諦めの顔二つ。
「あぁ……────おべっ……!?」
そして、追撃は後方より。唐突に肩へ筋肉が降ってきたかと思えば、グイっと後ろへ引かれて耳元で囁くは迫真のオッサンボイス。
「……お前さん、聖女の嬢ちゃんにアプローチされて参ってんだろ?」
「何故それを知ってい────またアーシェか……‼︎」
「まあ男として色々あるだろうが、アレで悪い娘じゃねぇんだ。将来的に遠征だなんだって機会があれば世話んなることもあるだろ、この機会に知り合っとけ」
「………………」
「知らねぇ仲で親しくされるから困惑してんだろ? じゃ、いっそ困惑しなくて済む程度に仲良くなっちまえ。幸い、ストッパー役は両脇に揃ってることだしよ」
「…………………………」
ハイ出ました、筋肉に似合わぬ理詰め大将ムーブ。そんな風に「アンタがそう言うなら」と思わざるを得ない説得までされちゃ……仕方ない、のかなぁ、と。
まあ、端から俺だけ異議申し立てに挙手ってのは選択肢になかったけどさ。
「ソラもいるんだ。いざって時は守ってもらえよ色男」
「ハイ余計な一言。えぇい離せ筋肉ッ!!!」
カッカッカと振り払うまでもなく愉快軽快に笑いながらゴッサンが身を引き、果たして場の状況は退路を断たれた上で振り出しへ戻ってしまった。
俺同様に困っていると思しきパートナー様と視線を交えつつ、健気に……そりゃもう、健気としか称せないニコニコふわふわほわほわな微笑へ向き直る。
いいだろう。熱意的に八割方一方的とはいえ謎に文通だってしてるんだ、そういう意味では別に知らん仲というわけでもない。だからこそ『怖い』ってのは呑み込んで勇気を出さねば、おそらく俺は永遠に彼女を苦手なままだろう。
然らば、おそらくはゴッサンの差し金が作用した組分けだろうと望むところ。
「よ、よろしく……」
心強い味方が三人もいるんだ、魔性の聖女が何するものぞ。
向こうで相変わらず瞑想しているゲンさんだって貫禄的には頼もしい(?)のだから臆す必要など笑止千万(???)だぜ掛かってこいや!!!
「お願い、します」
わざわざ後から振り返らずとも、自分が困惑のまま変なテンションでヤケクソになっていることには気付いている。だがしかし、結局なるようになるだろと多少ほんの僅かなりとも甘えた思考で差し出した手を────
「────ふふ……」
「…………………………………………か、」
まるで世界で一番に愛しい恋人のソレを抱えるようにして、柔らかで温かな両手で恭しく包み込まれた瞬間。……それはもう、呆気なく。
「過度の、ボディタッチは、ご容赦を、何卒………………」
俺の脳内は、近い未来への不安一色で見るも無残に埋め尽くされた。
ソラさんは隣で困ってるしニアちゃんも西の席で困ってる。
アーシェは玉座にて迫真の無表情。
そして私は『恋愛中の男に横から言い寄る悪女』は個人的にあまり好きではありませんが、聖女様のことは大好きです。覚悟しろ。