空を開いて、星を見る
────空が見えていた。
正確には、空の向こう側で天に代わっている大地が、見えていた。
「「…………………………」」
そして、瓦礫の只中。
仰向けに倒れるまま地上で見るより遥か遠い空を、ぼんやり見上げる目は四つ。
ガーネットが一対、灰色が一対。異なる輝きを以って共に世界を魅了する剣士が二人、世界が見たこともないような疲労困憊かつ気の抜けた表情を晒していた。
「………………通算、攻略時間…………二百五十時間、強……?」
「…………アーちゃん。私の悪口は、そこまでですよ」
「……まだ、なにも言ってない」
「〝まだ〟って言いましたね……どうせ私は、救いようがない方向音痴です……」
もう、完全に。完膚なきまでに親しんでしまったからこその、ともすれば喧嘩しているようにも見えるだろう軽率に感情を顕す言葉の投げ合い。
けれども誰しも、聞くだけではなく見て判断するのであれば────
「…………うい」
「なんでしょう……」
肩と肩が、触れ合う距離。
「もう、全部、許す……総合的には、楽しかった」
「………………では私も、小学生のような扱いを受けたことは水に流しましょう」
「……それは流さないで。諸々全部、忘れずに受け止めて反省して」
寄り添うように寝転ぶ様と、それぞれが疲れ切った顔の端に映す柔らかな笑みを考慮すれば……睦まじく微笑ましい、じゃれ合いにしか見えないだろう。
然して、終わってから今まで如何ほど時間が経ったことか。
第三回の二日目、昼。
前日に辿り着いていた〝扉〟の前にて目覚めた後────早朝午前四時から今へ至るまで、おおよそ八時間強の死闘と呼ぶにも生温い空前絶後の一幕を経て。
「………………立てる?」
「…………もう少々、暇が欲しいですね……」
動けなくなるなど、果たして互いに、いつ以来のことかも思い出せない。
身体を満たすのは、それなりに主張が強い幻感疲労。久方ぶりの感覚を味わいながら、どこか満足げな『最強』と『至高』は寄り添うままに。
「「……………………………………ふふ」」
互いの瞳へ相手の瞳を映し合い、それぞれ笑みを零してから再び空を仰ぐ。
「なら、もう少し……────〝名前〟でも考えながら、のんびりしましょう」
「賛成です。それはもう、ゆるりと……」
斯くして地の底、果ての果て。
最奥に座す〝主〟を失くし、形を維持できず崩落した大迷宮────および、内に抱いた迷宮ごと地の下へ伏して巨大な深淵と化した大山の中央にて。
二つの剣冠は、そのまま暫く。
力の抜けた声音を交わしながら、空を染める大地を見上げていた。
といったところで息抜きメインの平和な第五節、これにて了といたします。
勿論、夜にもう一本更新するぞ。