全体攻撃被弾十割
────ん、で。
なんというか、まあ、俺が口にできる言葉は一つだけだ。
「えげつねぇな……」
そりゃあもう、いろんな意味で。
瞬く間に〝輝き〟で以って染め上げられた宴会場は、隅から隅まで少女の小さな掌の上。仮想世界特有の過剰演出か否か圧を伴って前髪を揺らす熱狂の最中、喧騒を貫き耳に届くは透明なチョコレートの如き澄んだ澄んだ甘い歌声。
動画なんかで拝見したゆえ知ってはいたけども、実際に聞くと驚きだ。
リィナこと【天羽 理奈】さん。ダウナークール系統かと思いきや『歌』に関してはメッッッッッッッッッッチャクチャ正統派かわいい全振りなんだよな、と。
「あぁ~……ひっさびさ生で聞いたなぁリィちゃんのエンジェルボイス。お耳とけるぅマジ天使ほんと卑怯あんなの勝てなくないですか声質ずッッッるぅ……」
と、元同業者目線なのか何なのか嫉妬めいた言葉を口にしつつも、それ大丈夫か人目のあるところで晒していいモノかと心配になるデレッデレな顔が一人。
「ぅぉわはぁ……マジなアイドルのガチ生ライブ…………えぇ、かわ……」
つい先程までの拗ねっ面はどこへやら。
今や口ポカンの呆け面。基本的に引き籠もりゆえ俺側なのだろう、初めて目にする本物のステージに圧倒されるまま目を真ん丸にして見入っている者が一人。
「……うん、いい曲じゃん。結構好き」
そんで、こっちは果たして何目線なのやら。ピンと立つ猫耳を幻視する様子で真剣に『音』を聞きながら、肯定的な批評を独り言ちる子猫様が一匹もとい一人。
観客総勢百余名……その程度、トップアイドル様にとって毛ほどのプレッシャーにもならないのだろう。堂々と舞台に立ち、唄を奏で、舞いを踏み、まさしく『魅力』という言葉の具現たる笑顔をリィナが全開で振り撒いた結果がコレ。
同性の三名さえ秒で篭絡されてしまうのであれば……まあ、ね。野郎どもなど、それこそ文字通り瞬殺も止む無し。さもありなん然るべきだ。
仕方なかろうて。半分意地で平坦に心を固定して視線を向けている俺さえ、若干なんというかこう心拍数が不本意なことになっている有様なのだから。
……いや、まあ、アレだよ。
俺の場合は、ちょっとこう特殊というか、ぶっちゃけた話────
「…………………………………………こっち見過ぎだろアイツ」
ふとした時に、どころではなく基本バッチバチにぶつかる視線。最早ガッツリ特別扱いを隠そうともしない、完全なる狙い撃ちである。
無理だよ。
無理だって。
正真正銘のアイドル様だもんよアレ。そりゃ可愛いって。
直近で『兄』だの『妹』だの沸いたことを言い出して、ただでさえキャラが狂いまくったところへ特大のギャップをぶち込まれたら、そりゃダメだって。
そんなん頭おかしくなるって────
「つくづく、お前は女難続きだな」
「ハッキリ言葉にされると正直クるものがあるから勘弁してくれ……」
おそらく野郎どもがステージに夢中になったことで料理供給の手が空いたのだろう。いつのまにやら、忙しなく働いていた我らが筆頭シェフが傍に立っていた。
「…………アルカディアの『食事』には、ゲーム定番の支援効果が存在しない。しかし、システム的な効能とは別の部分でバフを提供できている自負があった」
「それは間違いないっすよ。大いに自負していただいて」
この世界において、プレイヤーの士気高揚というのは比喩ではなく何物にも勝る最強の強化効果だ。ならば当然、ウルトラ美味い飯なんてものは間違いなくアルカディアプレイヤーにとって一種の『強化アイテム』に他ならない。
……と、突然なに言ってんのなどと惚けたことは言うまいて。参り申したみたいな顔で〝輝き〟を見つめる鉄さんの顔を見れば、続く言葉など簡単に予想が利く。
「だがまあ、流石にコレには……完敗だな」
適当なフォローで慰めになるとも思えないし、そんなもの彼も求めちゃいないはず。ゆえに、俺は性懲りもなくバチッた水色の瞳に苦笑いを返しつつ。
「まあ、うーん……」
ぶち上がりまくっている野郎どもに掛けられた戦意高揚のバフ効果が、真実どんな大魔法よりも出力の狂ったモノに違いないという確信を以って────
「今日の夜襲、楽できそうなのは確か……かなぁ?」
肯定を一つ、返して一幕。
そして、不意に訪れた『音』の切れ間は一瞬だけ。とにもかくにも……。
「────次。【Ri-ot】」
魅力の暴虐に溢れたシークレットライブは、まだまだ始まったばかりだ。
短め。前話と繋げちゃえば良かったなと後悔は別にしてません。許して。
【Ri-ot】はリィナちゃんの専用ソロ曲。
作曲イメージは『可愛いの暴虐』とか『致死量の可愛い』とかそんな感じで破滅的アップテンポ。キュートアグレッションならぬアグレッションキュート。
作曲:壬裕祐
私が作る曲にしては珍しめの割かし乱暴な曲調が結構お気に入り。
なお作詞未完。本編を描け。
※以下不要情報なのでスルー推奨
私こと祐は一時期『音楽』を少々ガチ目に嗜んでいた時期があり、その頃のアレコレを趣味として引き継ぎ今でも作曲遊びなんかをしております。
なのでメインの趣味こと小説と絡めて作中曲を作るというアホ行動を取って遊んだりしているわけですが、本当に個人的に楽しむ程度のノリでやっていることなので公開予定はマジでないです。ごめんね許せアルカディアン。
なんか思いのほか『聞いてみたい』って声が多かったのでビビりました。
天変地異が起きれば気まぐれにワンフレーズ流すくらいのことはしたりしなかったりするかもしれない。あんまり期待せず百年くらい待っといて。