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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第五節
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一方その頃:side 剣二冠

「────今日という今日は、もう絶対に許さないから」


 合算累計イベント活動時間、七日と少し。けれど三度のイベントを通して空を……というより、頭上に在る大地・・・・・・・という異常光景を眺められたのは一度きり。


 『鏡面の空界アルヴニクロ』にある、どこかの場所。


 今日も今日とて果ての見えない地下大迷宮に囚われ続ける『お姫様』は、


「ういなんか嫌い。ご飯抜き。一人でダンジョンの藻屑になっちゃえばいい」


 今日も今日とて、怒っていた。


 言わずもがな、思慮深く人並外れた感情制御術を備えるアイリスことアリシア・ホワイトを怒らせる・・・・などというのは、それこそ並大抵のことではない。


 彼女の前では誰しもが無意識に己が振る舞いを正してしまうこともあり、そもそも怒るような無礼を働かれることもない。そして彼女の知り合いや友人は誰しもが、一定以上の良識や彼女に負けぬ思慮を身に着けている者ばかり。


 なればこそ、比喩ではなく。


 天下の【剣ノ女王】アイリスを、まるで子供のように思い切り怒らせてしまえるのは……────二人の〝そういう感じ〟を知る、どこぞの【曲芸師】曰く。


 空前絶後の天然・・・・・・・こと、並び天下を統べる【剣聖】を置いて他にないと。


「も、もうっ……! 思慮が浅かったと、謝っているではありませんか……!」


 ツカツカツカ。


 あからさまに機嫌悪く路を進む相方にそっぽを向かれてしまい、一人で足を止めれば容赦なく置き去りにされるであろう未来を読み取った灰色が足音を追う。


 今になって思えば、最近になって目にした何処かと雰囲気の似ている『明かりが無いのに視界が開けた閉鎖空間』で二人きり。ここに至っては当人も否定する気などない片方の〝欠点〟を原因として、空を見ることなく二百五十二時間強。


 ただひたすら彷徨い歩く中で、もう何度の喧嘩を重ねたことか。


「ういの『ごめんなさい』は軽い」


「そ、そんなことっ……!」


「少なくとも、私にとってはもう軽い。いい加減にして。年上が聞いて呆れる」


「な……っ!? さ、流石に酷くは、ないでしょうか、アーちゃん……! そんなことを真正面から言われたのは、生まれて初めて────」


「ういの私に対する態度を鏡写しにしてるだけ。文句なら自分に言って」


「た、態度とは、どのような……」


舐め切ってる・・・・・・


「そんな事実はありませんよっ!?」


 誰も数えてはいないけれど、間違いなく一度や二度ではない。


 仮想世界の頂点に肩を並べる二人。仮に『最強』と『至高』を体現する二人の喧嘩風景を目にする者が在れば、馴染み切った様子から即座にそう思い至るだろう。


 ツカツカツカ。


 ぱたぱたぱた。


 ブーツの足音を追い掛ける草鞋の足音────そして風鳴りよりも静かに、些細に、閃を描き一幕を彩るは星影を散らす『剣』の響音。


「どうしてハルの言うことは聞くのに、私の言うことは聞けないの」


「な、なんの話です? どうしてハル君が出てくるのでしょ」


「貴女が勝手に張り切ってパーティに迷惑を掛けたら、都度ハルがお説教をして諫めてると聞いた。でも、彼が言うには一度言えば理解してくれると」


「勝っ、迷、惑…………じ、事実ではありますがっ……! 今の語り口は過分にアーちゃんの機嫌が反映されていたように思えます! ハル君はそんな言い方」


「弟子コンの十分の一でもいいから、友人の言葉にも耳を貸してくれないかしら」


「でしこ……なんだかわかりませんが、不本意な言葉を言われたことだけは理解できました。アーちゃんこそ、私に対して少々当たりが強くはありませんか!」


「うい」


「はい」


「日頃の行いって、大切ね」


「こんな扱いをされるのは生まれて初めてですっ……!」


 カラリ、コロリ。現れては散ってゆく星影の残滓が道程に積まれていき、ささやかに煌めく星の光が薄暗い空間に川を作ると────響くは、木槌の音。


 二人の道行きに生まれる戦果は、到底たったの二人では拾い集めることも抱えきることも不可能な数。ならばと〝形〟を整えられ、間に合わせに『刀』の姿へ押し込められた【星屑の遺石ラピス】が納められるのは……【剣聖】が抱く神館かむだちの宝物庫。


 二つの剣冠が歩む道は、並み居るモノが呆れ果てるまでの完璧に満ちている。


 であればこそ、余計に。


「アーちゃん! 聞いていますか……!? もうっ! ご飯抜きって、お夕飯を作るのは私なんですからね! アーちゃんこそ、ご飯抜きにしちゃいますよっ!」


「やっぱり舐め切ってる。料理くらい私だって出来るもの」


「嘘です! できないって言うから私が担当して────」


「人は日々成長する生き物。いつまで経っても方向音痴が治らない貴女とは違う」


「!!!!!!!」


 足音、剣戟、戦い。満ちる穏々とした静謐の中に交わされる〝愉快〟が、一層に際立った戯れとして二人だけの旅路を賑やかす。


「もう、もう、もうっ……怒りました! そうです、私だって怒るんです……! もうアーちゃんなんて知りませんからねっ!」


「ご勝手に。これでようやく保護者役は返上ね。さよなら」


「保護っ……ま、待ちなさい! 狼藉いよいよもって許しませんよアーちゃん!」


「知らない。ついてこないで」


 然して、ツカツカぱたぱた。


 後に片方が悪戯心五割の恨み五割で相方に無許可で動画を世へ流すに至り、様々な意味合いで双方のファンを阿鼻叫喚に巻き込んだ一幕は、


 今日も今日とて、世界のどこかで紡がれていた。






なお剣聖様の名誉のため本編に記さなかったアーシェお冠の原因はこう。


今日も今日とて大迷宮の終わりが見えない⇒いっそのこと破壊して脱出してしまえばいいのでは?(!?)⇒「〝粧せ一振り〟」(!?)⇒地形破壊には成功する(!?)も迷宮崩落⇒更に奥底へロングロング落下⇒アーシェお冠。


そらそうでしょ。ちなみに二人とも無傷だった。

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― 新着の感想 ―
なんか師弟揃って「取り敢えず思いついたら即実行」になってるやん…ハルの癖が乗り移ったのか??
崩落させ多分、迷宮攻略には近づいたから・・・多分 まぁ、ずっと迷宮の中で彷徨ってて楽しいイベントというより苦行だよね、そりゃ怒りたくなるね
いくら方向音痴があるとはいえ剣2振りが攻略しきれない膨大さよ…それは置いといて仲良し(*´・д・)(・д・`*)ネー
2025/07/20 10:08 しおりすぐ無くす読書好き
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