合間の藹々
「────ふーん……じゃ、あと二ヶ月くらいは暇になるのかな」
「暇っていうとアレだけどな。まあ扉が開く可能性は低いってなことで、とりあえずそれまでに各々が百層を攻略できればヨシってな感じだ」
「六枠についてはともかく、全プレイヤー共通の〝なにかしら〟と思しき外枠のゲージが満ちるまで……ってことですよね?」
「そういうことだな。もっとも、全部が全部まだ仮説の域だけども」
「六枠…………六人、となると、どういう人選になるんでしょう」
「ま、二枠は確定してるよね」
「だよな。ういさんとアーシェ────」
「なに言ってんの。お姫様と先輩だよ」
「What?」
「絶対不動の〝確定枠〟って話なら、ね。お姫様がパーティで『本気』出すなら先輩がいないとダメなんだから当然でしょ」
「ですよね。《疾風迅雷》も込みの瞬間最大戦力なら【剣聖】も超えると御本人のお墨付きもありますし、俺たちに限らず全プレイヤー納得だと思いますよ?」
「やめてくれ、とんでもない持ち上げすんな後生だから……ソラさん、それどういう表情? なんか見たことない顔していらっしゃいますけども」
「そ、どっ、な、なんでも……」
「パートナーとして誇らしいのと、相棒としての焼きもちで半々でしょ」
「テトラ君!?」
「それと、三枠目を確定させるならソラ先輩だと思うよ」
「っふぇ、な、にゃっ!?」
「先輩とセットで馬鹿げた戦力向上が約束されてるんだから、当たり前」
「単体でのスペックよりも、正直そっちですよね……。対応力という面でも……というか万能すぎて、ありとあらゆる面に期待できてしまうわけですが」
「そ、そんっ……えぅ…………は、ハルっ? なんですかその顔っ……」
「純度百パーの惚気顔でしょ」
「俺のソラさんは無敵だからな!!!!!」
「…………………………………………………………………………………………」
「ごめん調子乗りましたヤメテ叩かないで」
「はいはい」
「あ、はは……ごちそうさまです」
「もうイチャつくなとか無理を言うつもりもないけど、せめて仕事はしてよね」
「ごめん真面目にやりますヤメテ睨まないで」
────斯くして、然して、和気藹々。
ボス討伐より三十分強。順次スキルを解放した後も四十層に留まり続けている俺たちは、四人で輪になって〝作業〟をしながらクラン団欒に興じていた。
既に各自へ連絡自体は行っていたらしいが、それはそれとして最強至高タッグより実際に話を聞いた者として補足をしつつ。直近に得た話題で盛り上がりながら、せっせかせっせか一体全体なにをしているのかといえば……。
「……っとに、ノリで引き過ぎでしょ終わんないんだけど」
「ごめんて。良さげなのあったら贈呈するから許して」
と、テトラが文句を言った通り。
俺がノリとテンションだけでガッツリぶん回したガチャ三百連分にて溢れ出た、景品大山の果てなき検品作業に他ならない。
勿論のこと、推定一パーセントにも満たない『アタリ』の確率に準じて九割九分は『ハズレ』である────しかしながらパールを用いて挑戦することのできる鍵樹ガチャの景品群は、そうであっても特別な品が数多く紛れている。
大概は【小鬼の粗骨】やら【木霊の節枝】やらといった、迷宮路に登場する雑魚エネミーの素材云々。外では遭遇できないエネミー由来であるからしてソレも貴重っちゃ貴重なのだが……質やレアリティはお察しなので、まあハズレ。
けれども例えば、
「お、これは中々……?」
今、雑多な山の中から摘まみ上げたビー玉などは『小アタリ』の部類だ。
【樹晶ノ宝雫:魔賜】
鍵なる大樹の霊験より滲み出でる祝福の欠片。
同腹より産まれし武装に力を授けるは、緑命の意か。
・武装祝福:『雷属性付与』
────とまあ、そんな具合で。
これも迷宮の〝報酬〟にプレイヤーたちが大いに沸き立っている理由の一つ。大当たり枠の鍵樹武装には、カスタマイズ性が用意されているってなわけだ。
で、これがまあ色々と面白いことができるもんで……。
「はい、二属性の完成っと」
例えば、元より微弱な火属性を備えている【欠首の冥牙剣】に追加で雷属性をぶちこむなんてことも可能。属性付与に限らず単純な『攻撃力増加』や『耐久増加』────果ては『HP吸収』などといった変わり種まで存在する模様。
素体となる鍵樹武装のランダムスペックまで含めて、可能性は無限大だ。
「そりゃ沼だよな……」
「ゲーマーなら大概ハマるだろうね。────はい、ボス素材あったよ」
文句を言いつつ、それはそれとして楽しんでいるのかいないのか。
テトラがポイと投げ渡してきたのは、それもまた小アタリに含まれる強力な鍵樹ボスエネミーの素材……これはおそらく三十二層で戦り合った【羽搏く魂影布】のモノだろう。朽ちかけでボロボロのボタンが一つだ。
アイツも謎だったな……空飛ぶ巨大な外套って、どんな存在だよと────
「……でも、あれですね。パーティに兼任魔工師が二人もいると、利便性というかなんというか…………その、広い意味合いで対応力が違いますね」
と、過去に下した階層主の妙に不気味な姿を思い返している折。傍らからソラと一緒に俺とテトラの仕分け作業を覗き込むカナタが、今更に感心したように呟く。
その、まるで『贅沢である』といった口ぶりには理由が存在する。
単純な話『兼任魔工師』……つまり戦闘コンテンツを主に活動しながら《魔工》を修めているプレイヤーが、全体の比率で言えば結構な少数だからだ。
「俺はひよっこもひよっこだけどな。まだまだ魔工師は恥ずかしくて名乗れんぞ」
「とか言って、パートナーに大した贈り物してるじゃない」
「そこ弄られるのは無限に恥ずかしいからNG」
流石に、それに関しては謙遜でもなんでもない。テトラが口を挟んできたのも、単に揶揄いの隙を目敏く見つけたからというだけだろう。
隣でソラさんが照れておるわ。かわいい。
ともあれ、戦士兼魔工師の人口が少ないのは事実。こうしてパーティに兼任を二人も擁しているというのは、世間的に見て『贅沢』なのに間違いはないだろう。
まあ仕方ない。《魔工》スキル授与のシステム面に問題があるゆえに。
「先輩も、授与する相手は選ばないとね────名高い【藍玉の妖精】の〝孫〟になるんだから、受け取る側にもプレッシャーだよ」
「わかってるよ……ったく、渡した後で教えるとか思い返してもテロだろアイツ」
「先輩。常識って知ってる? 普通は誰しも知っていることって意味なんだけど」
「ごめんなさい」
とまあ、つまりはそういうこと。俺こと【藍玉の妖精】の〝子〟が一人きりであるように、俺が新たに選べる〝子〟も一人きり。
《魔工》スキル授与の儀式は、各個人が一度しか成し得ないモノなのだ。
なお最低でも熟練の域に達したとシステムに認められなければ、授与のための特殊スキルこと《継枝》を習得できない。つまり軽率にポンポン魔工師を量産するのは不可能であるということで……そりゃ、兼任が稀なのも頷ける。
極められる者でなければ、後継のラインを途絶えさせてしまうのだから。
前提として『イベント時に軽くでも手伝いが出来れば』程度の理由で授与された俺である。当然ニアも承知の上での暴挙ということで口ではアレコレ軽い気持ちを表明しているが、実際のところ胸中はプレッシャーが山盛りだ。
暇を見つけては真面目に研鑽を積んでいるのは、そういうわけなのである。
程々に必死で頑張るよ、現六席様の〝子〟としてな。
一人につき一度限りという制約が一種の神聖視を生んでいたりいなかったり。
それもあって『戦闘職が軽率に魔工授与をせがむ』という事例も極稀となったゆえ、現アルカディアでは兼任プレイヤーが一層稀少な存在と化している。
らしいですよ。