裏返って表
第十層ボス【三頭双剋の冥犬】────主騎一体、三首の番犬。
第二十層ボス【青々褪せる氷大鬼】────極寒操演、氷纏の鬼人。
第三十層ボス【波濤喰らいの牛闘士】────屈強老練、紅牛の闘士。
アルカディアには、亜人や魔人といった人型のエネミーが滅多に存在しない。そんな既存の常識を盛大に崩してのけた『鍵樹』の迷宮には、小鬼や犬人や豚鬼などなどバラエティ豊かなデミヒューマンが出現する。
加えて、節目にして特段の難易度を誇る十層ごとのボスに関しては〝お決まり〟の如く。毎度のこと強大な人型が配置されている辺り、迷宮自体に何らかのコンセプトが感じられるのは……まあ、おそらく気のせいではないのだろう。
ならば当然の如く、続く四十層についても────
「………………アレは、果たして『人型エネミー』と称していいものか?」
「少なくとも要素は入ってるし、いいんじゃない?」
「その要素、開戦十秒で消滅したんですがそれは……」
例によって大広間。迷宮最奥に在る階層主の領域にて、激戦の衝撃と奏音を遠くに見守りながら言葉を交わすのは白と黒。
即ち俺(表)とテトラの、後衛二人。
断じてサボっているわけではない。自称後輩こと先輩の隣で、慣れない立ち位置についてアレやコレやと一生懸命に学んでいる最中である。
然らば、俺たちが視線を向ける先。
「────カナタ君っ!」
「────いつでもどう、ぞッ!」
刹那の交錯、芸術的なスイッチ。地轟を上げ散らし暴れ狂う巨躯を前にして一歩も引かず、代わる代わるの連携で見事に前衛を努める姿は二つ。
金色と……────カナタのイメージカラーってなんだろな? まあ、ともかく、ソラとカナタの二人組。俺が遅れている間に随分と連携習熟が進んだようで、一切の不安感が湧かないレベルのコンビネーションを見せ付けてくれていた。
良きかな。であれば俺も頑張ろう。
「『穿つ水釘、威止める鉤翅』」
水属性速攻拘束魔法起動、六本の水針が唄を綴った術者の周囲へ顕れ浮かぶ。
「まだ、だよ」
「わかってる」
重要なのは、照準精度よりもタイミング。
ぶっちゃけた話あの二人なら援護など必要もないわけで、手を出すのであれば最低でも格別の一手でないと単に余計な邪魔になるだけだろう。
これがまあ、難しい────
「今」
「ッぉあい!」
────ほらな。GOサインは、全くもって俺の感覚とは異なる瞬間に訪れた。
なれど、咄嗟の反応速度に関しては一家言ある。素っ気ないテトラの指示を逃さず呆けずレスポンスを返し、驚きつつも慌てずに魔法の矢玉を解き放つ。
然らば数えて一秒……──着弾。
『──、────』
「「っ……!」」
成ったのは、結果が現れて初めて理解できる『理想的な画』であった。
互いの撃が途絶えるワンテンポ前。即ち、互いに息を整えるための間隙へ移る僅かな間。邪魔立てなく瞬時の呼吸を以って次なる一歩へ踏み切ったソラとカナタを前にして……────絡み付く水の縛鎖にリズムを崩された〝敵〟は、動けない。
プレイヤー相手であれば間接的な必殺と成り得る《カレントハーケン》だが、当然のことヒトを遥かに凌駕する力を持つ化物相手では拘束は一瞬が関の山。
だからこそ、その一瞬を何処へ挟み込むかが至極重要。
それさえ完璧に成し得れば────
「《海霊ノ祓》ッ‼︎」
「《千剣の一つ》ッ‼︎」
些細な水針は、仲間の力を導く必殺に足りえる。
二閃奔流。左右から跳ね上がった水刃と砂刃が斜め十字を描き、致命を刻まれたのは交錯点────後退を阻まれ動揺に伸びた〝竜〟の首元であった。
◇【竜操地遊の小人鬼】を討伐しました◇
◇第四十層の攻略を確認しました◇
・報酬が贈与されます────【緑宝ノ盟珠】を獲得しました。
◇◆◇◆◇
「騎手の存在意義は一体なんだったんだ……?」
「雰囲気作りじゃない?」
「「あ、はは……」」
〝竜〟……というよりは、全長十メートル強のウルトラ超絶巨大なイグアナといった風体の怪物を操る小鬼騎手。そんなデザインは別にヨシとして、開戦一発ソラさんの魔剣狙撃にて呆気なく散った騎手の存在に納得がいかない俺。
そんな俺の疑問を適当に流すテトラ、そして度々のこと笑い方が似ているソラとカナタに見守られつつ────
◇樹路の踏破進捗を確認しました◇
◇ランダムなスキルが解放されます◇
◇スキル《十撫弦ノ御指》がアクティベートされます◇
◇スキル《フラッド》がアクティベートされます◇
◇スキル《水属性付与》がアクティベートされます◇
◇スキル《英傑ノ縁故》がアクティベートされます◇
◇スキル《タラリア・レコード》がアクティベートされます◇
◇スキル《危極転鸞》がアクティベートされます◇
────────────────
◇Status / Restarted◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:40⇒41
STR(筋力):0
AGI(敏捷):50⇒60
DEX(器用):0
VIT(頑強):0
MID(精神):300(+180)
LUC(幸運):50
◇Skill◇
・全能ノ叶腕
《十撫弦ノ御指》
《拳嵐儛濤》
《貪欲ノ葛篭》
・水魔法適性
《アクア》
《フラッド》
《カレントハーケン》
《メイルストロム》
《千遍万禍》
《水属性付与》
・Active
《リフレクト・エクスプロード》
《フラッシュ・トラベラー》
・Passive
《白竜ノ加護》
《英傑ノ縁環》
《アテンティブ・リミット》
《超重技峨》
《剛魔双纏》
《タラリア・レコード》
《極致の奇術師》
《危極転鸞》
《戒征不倒》
《星月ノ護手》
《魔を統べる者》
《リジェクト・センテンス》
《影滲越斃》
《四辺の加護》
◇Arts◇
【結式一刀流】
──────……
────……
──……
────────────────
モノリスに触れ、四度目のランダムスキル解放これにて完了。
まあ随分と本来の並びに近付いてきたもので、毎度の解放数を考えれば予想通り次の五十層攻略でスキルに関しては完全体と相成ることだろう。
なお《英傑ノ縁環》は『緑繋』攻略戦を経て獲得した新スキル、もう一つの真新しい名前こと《危極転鸞》に関しては《危輝回快》が進化したモノだ。
前者は俺に直接影響のあるものではなく、共闘する俺以外の『序列持ち』にMP自然回復率上昇効果を付与する常時発動型の周囲バフスキル。
後者は『HP二割未満』という条件が『HP一割以下』と若干厳しくなった代わりに、MP自動回復速度が倍から倍の四倍へ至った純粋強化型。
あぁ、紛れもない純粋強化さ。HP一割とか俺のデフォルトであるからして。
「どうだった?」
「まずまずかな。祝福は引けなかったけど、とりあえず魔法はコンプだ」
「そ。……《フラッド》は禁止ね」
入れ替わりでモノリスにタッチした後輩一号へ答えれば、返ってきたのは〝過去〟を思い出してか否か釘を刺すような言葉とジト目。
わかっているとも後輩、二度とギャグ死に巻き込みはすまいよ。
「いやしかし、ムズいな後衛……」
「言うほどでしょ。十分できてると思うけど」
三十五層で合流して、ここまで都合六層。満を持して表へ返り魔法士ステを組んで支援役を演じているが、これがなかなか上手くいかない。
意外と……でもなくテトラは甘いことを言ってくれるが、やはりというかなんというか自分目線で現状の俺(後衛)は割と真面目に〝お荷物〟である。先程の戦闘もそうだったが、テトラの指示なしで動くと納得のいく結果がついてこない。
いやまあ、周りが周りだけに基準が狂っているのは自覚してるんだが……。
「ま、いい機会じゃん。後輩と相棒に甘えなよ」
「えぇ、はい。存分に……」
「全力でサポートしますよ!!!」
「あぁ、うん。カナタもありがとな」
ってなわけで悪戦苦闘しつつではあるが、頼もしい────誇張でもなんでもなく、頼もし過ぎるクランメンバーに甘えさせていただき精進する所存。
そろそろ俺もアクセルの踏み方やら戦局の見方やら、いろんな意味で熟練者の域へ踏み入るため己の稚拙な部分を見直していこうと考えていた次第で……。
ちなみに、なぜ常とは異なり表側を魔法士ビルドにしたのかといえば、
「なにかなソラさん?」
「へ、ぁ、いいえっ、なんでも」
俺が言うのもなんだが、念願叶って紛れもない『俺の手伝い』をできることに張り切りまくっているパートナーのために他ならない。
まあ、あれだよ。俺の思い違いでないのなら────
「……えへへ」
一緒に冒険する際。
俺が表の素顔でいると、ソラさんは少々ご機嫌な気がしないでもないから。
「なにかなソラさん???」
「っ、な、なんでもないですってば……!」
本日土曜、休日の昼過ぎ。
今日も今日とて、俺の相棒は無敵に可愛らしかった。
つまり転身体を純粋戦士ビルドにしてソロ木登りしていたのは、合流後に表のビルドを支援型にして素顔でソラさんと共闘するためだったらしいです。
大好きかよ。