お待たせ
「────やっぱ先輩ってアホだよね」
「────流石ですっ……!」
「────…………」
第三十層での死闘を制してから、更に仮想世界換算で三時間強ほどを要した後。
迫真の『成果』を引っ提げクランホームで待ち受けた俺が報告を終えた瞬間、三つ顔を並べた外見年少組は各々の表情で以って溜息を零した。
呆れ、感嘆、と……まあ、なんだ。切なげというかなんというか、そんな感じの顔。揃って大体は予想通りってなわけで、俺がドヤ顔を崩す必要はないだろう。
ってことで、ようやっと。
「今日から俺も合流するから! よろしくなッ!!!」
この場の全員、階層進捗は三十五で横並びに至り。遅ればせながら無事に追い付けたってなわけで、俺も仲間へ入れてもらうとしようではないか。
「NPCの騎士様は?」
「元々『先行してる仲間に追い付くまでの期間で』って依頼してたから、三十四層突破で別れた。……まあでも、ちょいちょい会う機会はあるだろうぜ」
「あぁ……ま、だろうね」
流石に、あれだけ懐かれてしまうと『これっきり』とは考え難い。苛烈な戦場を共にした戦友としての友情も含めて、アレコレ情も湧いてしまうってなもんで。
俺たち外から来た人間とは異なる存在とはいえ、結局のとこ同じヒトにしか思えぬ相手。NPCだろうがなんだろうが、俺の中ではもう『友人』だ。
フレンドリストにも、しっかり名前が刻まれたことだしな。
かなり稀な例という点も含めて知識としては持っていたが……先の別れ際、実際ケンディ殿から『交友の契りを』なんて申し込まれた時には驚いたものである。
────ともあれ、だ。
「まあ積もる話があったりなかったりはさておきともかくヨシとして、とりあえず木登り行こうぜ木登り合流して攻略できるの楽しみにしてたんだ俺。はよはよ」
「わ、とっ……あは、わかりましたわかりました」
「先輩ちゃんと寝た? なんかテンションおかし……あぁ、もう、押さないでよ」
折角こうして追い付けたのだから、いつでもどこでもできるお喋りで時間を使ってしまうのは勿体無い。疾く遊び場に赴いて、半月ぶりのクランパーティを楽しもうではないかってなことで近くにいたカナタとテトラをググイグイ。
そうしてクランホームの転移門こと玄関へ足を進めつつ……。
「ほら、ソラさんや!」
振り向いて、そわそわしながら俺を見ている相棒を呼んだ。
◇◆◇◆◇
────決して怒っていたわけではない少女は、今に至り怒っていた。
おそらく、無理をしたんだろうとか。多分、大変な思いをさせたのだろうとか。きっと、物凄く頑張らせてしまったのだろうとか。
間違いなく、自分のためなのだろうとか。
……あと絶対、昨日は碌に寝ていないのだろうとか。
馬鹿なことをさせてしまった自分と、自分のために馬鹿なことをした相棒に、それはもう甚く甚く少女はお怒りであった。────けれども、
膨れ上がった諸々の感情やらなにやらの総合値が大き過ぎたゆえ、それも比すれば大して心のスペースを埋めるほどのモノではなかったのが困りもの。
昨夜、羞恥を見て見ぬフリして送ったメッセージを覚えている。
見返せば悶える他ないソレに、既読の印が付いていることを知っている。
だから少女は見計らっていた。テンションがおかしなフリをしている相棒がグイグイと背中を押すまま、少年二人を転移の光へ送り込む瞬間を────
だから、二人きりが訪れた刹那に背中を追い掛けたソラは、
「っ──────────────…………………………へ、ぅ……」
ほんの三秒。僅かばかりの三秒。たったの三秒だけ。踏み込んだ先で、見計らったように振り向いたハルに、正面から思い切り抱き締められて、
「お待たせ。行こう」
はにかみ手を引く想い人に、結局は頭を真っ白にされるまま。
転移の光へ、攫われていった。
そりゃこんなん好きになるでしょ。
キリ良く短め。
おそらく多分きっと夜にもう一本更新予定。