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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第五節
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相性良好(???)

 ────古来よりゲームで『盾』といえば、そのもの武具としての存在を指す他に『敵の攻撃から味方を護る者』という役割を指す言葉でもある。


 そちらの意味合いにおいての『タンク』は、おおよそ二種類の方向性で大別される。鉄壁の防御を以って敵を防ぎ止める正統盾、あるいは敏捷性と立ち回りによって敵の攻撃を無力化することで戦線を保持する回避盾というやつだ。


 あまりゲームに触れていない者が聞けば『回避盾???』となること請け合いだが、そういう概念というか戦術が古くから存在するのである。


 そして、アルカディアで主流となっているのは圧倒的に後者。


 理由はいくつが存在するが、なにを置いても主たる要因は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点に他ならない。


 単純な話、上へ行くにつれ受け止めてはダメな攻撃や状況が多過ぎるのだ。


 プレイヤーについては一部の逸般人に限られる話ではあるが、高レベルかつボス格のエネミーともなれば人が身一つ盾一つで受けられるような甘えた攻撃は繰り出してこない。威力で言っても規模で言っても『避けねば死』が平常運転。


 そうした理由から、アルカディアでは根本的に武具としての盾が不遇オブ不遇とされている。最近までゴミオブゴミの名を欲しいままにしていた《全武器適性》よりも下位、ほぼ最下位に《盾適性》が位置していると言えばわかりやすいだろう。


 そもそも、この仮想世界では敵の攻撃を防ぎ止めるとしても盾である必要がないという部分もある。どういうことかといえば、()()()()()()()()ということ。


 先日かの【剣聖】が〝日本刀〟で【剣ノ女王】の〝剣〟と至極ご機嫌に打ち合っていたが、あんなものが現実的な光景ではないのは言わずもがなだ。


 極論を言ってしまえばアルカディアの武器は、たとえ細身のレイピアであろうと使い手の実力によっては巨獣の剛腕と打ち合うことさえ可能となる。


 ────ならば流石に本業とするものに劣るとはいえ、いざという時の守りも一応こなせる武器もので十分じゃねとなるのは自然っちゃ自然だろう。


 回避徹底が大前提を主流とする今において、万が一の場合に命を拾える確率を上げるためだけに常時『重り』を腕にぶら下げておくのかという話。



 ……と、まあ深堀すれば他にも様々な事情があるのだろうが、そういった理由を含めて現状のアルカディアで〝盾を持つ盾〟は相当に稀有な存在だ。


 少なくとも俺は仮想世界デビューから半年、盾を運用して上澄みにいるプレイヤーを二人しか知り得ていない。今日の出会いを含めても、たったの三人である。


 そしてその三人目。他ならぬケンディ殿の武威をペア攻略に際して目に焼き付けるにあたり……俺が思ったことは、ただ一つ────




「────ぜぃりゃァアッッッ!!!」




 盾使いウルトラつえーじゃねぇかよ、いい加減にしろ。



『────ギャボァワアッッッ!!?!』



 轟音を引き連れた裂帛の気合いに追従するは、いっそギャグ味を感じるまでに哀れかつ迫真の悲鳴。数メートル後方にて呆れ五割の畏怖百割で突っ立つ俺の髪を吹き散らすのは、冗談のような風圧および衝撃波のハッピーセット。


 鍵樹迷宮第七層ボス【双頭の番霊犬サーベラス・ドルファング】────体高三メートルに迫る巨大な二つ首の黒犬が繰り出した噛み付き×2に対して真っ向から踏み込み、涎を撒き散らす大口の連弾をスルリと躱した騎士が辿り着いたのは顎の下。


 然らば振り抜いたのは不遇オブ不遇であるはずの『盾』が一つ右の大盾。旋転した身体の勢いそのまま床スレスレから跳ね上がった平たく頑強な鈍器・・・・・・・・によって、片首が軽々と打ち上がった異常光景は拍手喝采ものである。


「稀人様ァッ!!!!!」


「はいはい……!」


 で、相変わらず迫真も迫真の意気絶叫。早くも慣れつつある今となっては微妙に親しみから来る笑いが滲んでしまうソレを聞き流しつつ────役者交代スイッチ


 ルート取りは正面、真っ直ぐ突っ込むのみ。ならば当然、背後に控えていた俺とボスの間には騎士殿の身体が挟まっているが……それが役目とばかり。


 会心の一撃による反動を瞬時かつ巧みに散らしながら身を操る彼が取った行動は、()()()()()()()()()()()()こと。然して現れるのは、のけぞり遥か高くへ持ち上がった巨犬の首元クリティカルポイントへ向かうため必要な滑走路だ。


「せぇッ────」


「────のッッッッッでございますァ‼︎」


 着踏、屈伸、溜め、からの炸裂。


 互いに息を合わせたというより、ぶっちゃけ一方的かつ完璧な奉仕・・。いっそ恐ろしいまで正確にこちらの呼吸を読んだケンディ殿が、その身をカタパルトと成して盾に乗った俺の身体アバターを全力で撃ち上げれば……目前に広がるは、巨獣一色。


「そいッ‼︎」


 つまるところ、視界全てがフィニッシュブロー(剣)の受付先。ならば迷う余地もなく、俺の右腕は力一杯に【真白の星剣アルヴ・ステラ】を犬ころの首股へ叩き込み────



 当社比、貧弱ステータスにて極めて弱。外転出力『カイ』収斂解放。



「オッラァ!!!」



 空中旋転、からの踵墜とし。


 レベルカンストのフルコンディション時とは比べるべくもない程度の威力ではあるが、籠めた出力は現在のアバターにおいて反則級のデカさに違いない。


 ならば撃ち出した踵が深々と鋒を埋めた星剣ステラの柄頭に到達した瞬間、快音を上げて剣身が丸ごと番犬霊ドルファングの身体を貫いたのも不思議ではなく……──



 ◇【双頭の番霊犬サーベラス・ドルファング】を討伐しました◇


 ◇第七層の攻略を確認しました◇



 勝利はファンファーレおよび金光の姿を成して恙無く、悠々と訪れた。


 ()()()()()()()()()()。はいさーん、にーい、いーち、


「────流石にございます稀人様ァッ!!! 華麗流麗な剣捌き体捌きのみならずオドまでも繰り従え御身の力と成すとは! このケンディ、益々の感服と敬服を以って貴女様の武威と美貌を心の底より称え奉るしょぞッッッッッ」


「うるさいうるさいステイお座り伏せハウス。滑舌どうなってんだ早口過ぎてギリ最初の一言以降なんも聞き取れんかったわ落ち着いてくれ頼むから」


 ボス戦も併せて二時間強。各々の実力や連携を確かめつつ慎重に迷宮を歩みながら、それだけの時を共に過ごしていれば流石に諸々慣れてくる。


 会ったばかりの相手であることに加えて〝ヒトとして接する〟という『同伴者』への礼に抵触しかねない応対ではあるが……ほら、本人がこんな感じだし。


 恐悦至極とでも言わんばかりのキラッキラスマイルを放ちながら爆速で跪き伏せった姿を見るに、おそらくコレが正解らしいのでアレコレ考えるのもアホらしい。


 ────もういいよ好きにしてくれ。そういうもんと諦めて接すれば、ぶっちゃけケンディ殿みたいなコミカルぶっ飛んだキャラクターも嫌いじゃないよ俺。


「さて、戦闘に関しての相性は完全に問題なさそうだしペース上げてこうか。山場の十層は明日に回すとして……とりあえず、今日の目標は九層攻略で」


「相性ッ!!! ヨシですかッ!!!!! 幸甚の極みッッッ!!!!!!!」


「ちゃんと後半も聞いてました? 行くよ? 立って???」


 斯くして、道行きは四捨五入すれば辛うじて順調(???)であるものとする。諸々、相棒や知人友人たちへの愉快な土産話になるとポジティブに捉えて……。


 ま、これはこれでと楽しませてもらうとしよう。






ちなみに《盾適性》が不遇とされる要因の一つに、得られる派生スキルが基本的に防御系統しかない上に似たり寄ったりの性能でバリエーションが乏しいというものがある。これはアルカディアにおける『盾』が根本からして「敵の攻撃を防ぎ止めることに一極した」デザインであることに由来し、スキル開化に必要な経験値となる行動が「防御」に偏重しているからなのではとされている。


アルカディアのスキルとは『プレイヤーの〝行動〟と〝才能〟に応じて与えられる可能性の奇跡』であるからして、まあつまりはそういうこと。

仮に盾を使った激つよ攻撃スキルなどが欲しいのであれば、凶悪なボス相手に攻撃方向の補正が一切ない盾で果敢に殴りかかってね。なおキチンと死ぬほど効果的に使わないとポジティブな経験値にならないから一ミリも意味ないよ。


嫌なら素直に武器を使いましょう。

極一部の例外たる南陣営序列持ちや我らが防衛隊長、それとスキル無しでプレイヤーに迫る特殊NPCは本人性能がおかしいだけだから気を付けろ。


それはそれとしてケンディ殿を描くの死ぬほど楽しいですね。

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― 新着の感想 ―
盾は武器です(断言)
サーベラスだったら頭は3つ無いといけないと思う
えっ、盾使いの猛者壊滅的にいないの……?たまに防御(タイミング合わせたパリィの爽快感とか)大好きな人とかいるし盾としての盾勢もいると思ってました。 なんならタゲ取りしつつシールドバッシュとかのノックバ…
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