弱くて強くてNew game
デカい=強い。そんな真理を素直に象ることが多いアルカディアにおいて、基本的に高位のエネミーはプレイヤーに比して大型であることが常。
なればこそ手強い敵の巣窟であるダンジョンも、基本はソレらに合わせた造りになっていることが多い。即ち、程度の差異はあれど『極狭い環境』は稀だ。
ゆえに、
「どこぞの隠しダンジョンめいてんなぁ……」
満足にサイドステップも踏めぬ閉鎖空間での戦闘行為ってのは、割かし珍しい。人によっては全く経験がないということさえあり得るだろう。
おそらくは、その辺も鍵樹迷宮序盤が心底キツいと言われている所以……。
「っと」
眉間を貫かんと飛んできた〝鋒〟をスイと首を傾け躱しつつ、並行して伸び切った〝腕〟に直剣を添え────軽く一閃、斬り飛ばす。
然して〝敵〟は、怯みはすれど悲鳴なく。代わりに節くれ立った全身をキシキシと鳴らして悶えるソイツへ、躊躇う由もなく一歩踏み込み、
「ほい」
再び、一閃。ほっそい腕と大差ない太さの胴を【鉄の直剣】は容易く断ち切り、呆気なくHPバーを散らした樹人は青色の……ではなく、
緑色の燐光となって、宙に解け消えていった。
エネミー名【鍵樹の木霊】。鍵樹迷宮第一層に出現する唯一の敵性存在であり、サービス開始から四年弱を経て遂に堂々登場した樹木型というやつだ。
その姿は絡み合った根っこで構成された細い人型。……胴から連なる首および両手両足があって二足歩行する存在を一律『人型』と称するなら、まあ人型。
最近どっかで類似の存在を見たようなアレだが、脅威度的には雲泥や月とスッポンなどといった表現では全くもって及び付かない程度の雑魚オブ雑魚────
というのは、身体が元のカンストレベルかつ能力全開であったならの話。
「成程。初っ端の一層からコレなら、確かに高難度だわな……」
ここまで重ねた数度のエンカウント。そのどれもで余裕を持って樹人を処してきたが、それは余裕を持った立ち回りを冷静に心掛けてきたからこそ。
耐久力に関しては木ってか紙と称して差し支えないが、ウネウネと気味悪く動く手足がほぼノーモーションかつ俊敏に槍となって襲い来るのはシンプルに怖い。
でもって、なんかこう賢さを感じる。こっちの隙を窺っている気配があったりなかったり……正直なところ、真に初心者のLv.1が相手取るのは厳しいだろう。
俺も油断すれば一撃を貰わないとは言い切れないレベル。狭っ苦しい通路環境と相まって、益々のこと縁が深い〝朽像〟たちに似通った敵である。
────ま、とはいえだ。
「大体わかった。んじゃサクサク行こうか」
ここまで埒外の強者たちに揉まれ培った『技術』が在れば、物の敵ではない。貧弱極まるステータスでは限界があれど、出来る限り早々に突破させていただこう。
◇◆◇◆◇
────ってことで、記念すべき鍵樹迷宮の第一層フロアボス戦。
「……おい、どっかで見たような顔だなぁ?」
迷宮の名に偽りなく結っっっっっっっっっっ構な広さを誇る迷路に若干苦戦はしたが、我が『記憶』の才能による完全マッピングに太刀打ちできる地形ナシ。
そうして木霊を蹴散らしつつ順調に道を踏破して行き着いた先。広大な広間にて俺を待っていたのは……思わず呟いた通りの、どこかで見たような顔。
朽ちておらず、菌床となっておらず、その枝には青々と葉が茂っているものの────その凶悪な面、流石に忘れたことは一度もないぞと。
「【鍵樹の樹霊】……名前は別に似てねぇか」
ご立派なエネミー名はさて置いて。今に至っての相棒と二人、かつて不気味な森で対面した【化茸の宿主】と瓜二つの様相。
樹体のそこかしこへ『茸』に代わって『種』と思しき粒を埋めたソイツは、幹に在る顔で間違いなく俺を捉えると形容し難い叫びを上げた。
誠に結構。お前にとっては初対面のチビに違いないだろうが、
「ッハ、いいね……!」
俺にとっては、この上なく初心を思い出せる楽しい相手だ。
『──────────ッッッ!!!』
やはり似通った、腹を揺らす至極おどろおどろしい樹霊の声音。それを開戦の合図と成し《天歩……トは封印中ゆえ自前の足にてスタートダッシュ。
然らば対する一手は、
「ッオーケー別物な承知した‼︎」
豪快に頭を揺さぶると同時、撒き散らされた無数の〝葉〟を〝刃〟と成しての連弾掃射。こちらはLv.1の超貧弱ステータスに加えてスキル無し、返せる手札なんざ一枚たりとも在りはしない────だからどうした舐めんなオラァッ!
「────ッ……‼︎」
遅くはない。が、決して超高速というわけでもない。ならばその程度、人外挙動が当たり前の仲間内にて鍛え抜かれた俺の目に捉えられぬはずがない。
頬を掠める至近弾を一切合切無視して、見定めたルートへ剣身を置く。
致命と思しき直撃弾を鉄の腹で受け止めながら、弾幕の隙間へ身体を捻じ込む。
前へ、前へ、前へ前へ前へ────────
ッハ、小柄な転身体で良かったぜ。小っせぇ当たり判定に救われたわなぁッ‼︎
「────そぅらごきげんようッ!!!」
刺突渾身。駆け抜けた先で辿り着いた大樹の幹へ躊躇うことなく身体ごと直剣の鋒をぶち込めば、これにて迫真のファーストアタックが成立。
はたして樹木の身体に痛覚があるのか否か。
眉間に刃を叩き込まれて悲鳴を上げる【鍵樹の樹霊】と顔を突き合わせて……思えばコレも初心ってか、順調にアガッてきたテンションにて宣告を一つ。
「さぁ、楽しんでこうか!」
過去も、今も、いつだって────走るのならば全力で、だ。
弱くて強くてヤバい奴のニューゲーム。
転身体なら絵面はワンチャン許されるかもしれない。