──────────to be continued.
まあ早い話、とにもかくにも一息にフェーズをぶっ飛ばして条件達成からの爆速レイドクリアを決めちまおうぜってな作戦だった訳だ。
我が班は開幕より次から次へ全力を強いられ特別に消耗し切っていたが、なにも疲れていたのは俺たちに限った話ではない。他の特記戦力各位が余力を残しているのはハイハイ序列持ちってな具合でヨシとして、問題なのはそれ以外。
飄々としている主席&次席……加えて三席の別格と思しきスリートップを除けば、それぞれ大なり小なり疲弊している様子の職人十席。
そしてそれよりなにより、二時間強に及ぶ全力ダンジョン攻略行で目に見えて気力とリソースを奪われている一般逸般枠ことレイドメンバー諸君。
正直なところ、今回の攻略はトータル『順調な運び』ではなかったと言えよう。
勿論、本来はダメ元の情報収集を第一としたアタックでフェーズを進め、此処まで来られたことは望外の戦果であった────しかし、結局のとこそれは僥倖。
新たに知り得た情報を加味すれば、もっと効率の良い戦略を立てられるはず。なればこそ、無知のまま未知へ至った今の自分たちは最善から程遠い状況にある。
もしこれから更に一つ、また一つと予想の付かない展開に襲われればレイドは容易く瓦解する。そう思考したがゆえの、らしくない作戦立てだったのだろう。
……で、はたしてソレを押し通してしまうところが最高に【剣ノ女王】様ってな具合だが、結果的に現在はアーシェが描いた通りの絵に成った。
然らば我が師【剣聖】の刀により真っ二つに両断された挙句、その名も世界を冠する銀月の巨閃を以って彼方へ吹き飛ばされる化物を見やる視線が百余り。
そりゃもう唖然呆然。当たり前のような顔で期待と想像を飛び越えた『至高』と『最強』の共演に、ほとんどのプレイヤーたちが息を忘れる最中────
動きを止めた黒塊が地に転がり、何度目とも知れぬ激震が響いた瞬間のこと。
「────っしゃ終わったぁい!!! やっと喋れる‼︎ やぁっと喋れるッ‼︎」
声音は、例外的な極少数。つまり、アルカディアにおける単体戦力ツートップの大暴れに目を向けている暇などなかった今レイドの主役。職人たちの円環より。
「どうよ!? どんな感じですかねぇっ!?」
「あぁあぁあぁああぁぁぁぁぁあぁ肩凝ったわぃ……!」
「…………………………つか、れた」
「んだコラどんなもんじゃあッ!」
「あっっったま痛いぃ……! もうダメですイヤですぅ……っ!!!」
「………………………………………………………………………………」
然して一斉に上がるのは、これまで口を封じて一心不乱に己が役割へ挑み続けていた者たちの溜めに溜めた感情全開の声音。
最早完全に燃え尽きたのか絶えている我らが藍色はともかくとして、トップバッターで解放した【彩色絢美】のシャウトに口々の叫びが追従した。
さもありなん────……けれども、そんな彼女らとは真逆。
「「「…………」」」
口を噤み、目を細め、状況を見ているのは技術方面スリートップ。
後から詳細を語ってもらわねば、職人側が一体全体どんな〝戦い〟を繰り広げていたのやら俺には全くもってわからない。
しかしながら、
ふと、こちらを見た赤銅色一対。親しんだ専属魔工師殿の瞳に浮かぶ感情の色から、薄っすらと読み取れることが一つだけ。
それ即ち、まだなにか────
「────ハルっ」
「────っぉ、おう……!」
名前を呼ばれ、視線だけで振り返る。そうしてこちらへ駆け寄って来るパートナーの姿を見ると共に、初めてボスの転送が止まっていることに気が付いた。
「全く……殺されるかと思ったぞナツメ」
「……はい? ぇ、失礼な。ちゃんと退避する時間は考えて────」
「それ、どっちに合わせた? 転身体の機動力か?」
「ぁっ…………も、もちろんです、わよ?」
「……まあ、疲労で頭が回っていなかったものとしておこう」
次いで、綺麗サッパリ平面と化した片側舞台より舞い戻るは無敵侍……もとい、祈祷服姿の金髪美女。別に意図あっての言葉じゃないというに、過去適当に『転身体の方向性もろ被りしたな』と話題を振ったら見事に口をひん曲げていた先輩殿。
そして、そちらともチラと目が合って。
互いに何を言うでもなく視線を分かてば、俺の視界は再び金色に染まる。
「どう、なった……どう、なるんでしょう……?」
顔を見るに……見なくとも、声音からは色濃い疲労が感じ取れる。
当たり前だ。如何な操作性の軽い〝氷剣〟といえど、万を優に超える刃を十分以上に渡って従えていたのだから幻感疲労は避けられなかったはず。
大吹雪はただひたすらぶん回すだけとはいえ、流石に規模が規模。これで元気溌剌な顔を見せられたら逆に反応に困るというモノ……──
「……ハル?」
「先輩、大丈夫?」
っと、いかん滅茶苦茶ボケッとしてた。
「あぁ、わり、だいじょ……、…………」
ってか、なんだ、これ。
「っ……、………………」
ぁダメだわ。
やば、ムリ、限界、ねむ……────
◇◆◇◆◇
スゥ、と。地響きと入れ替わるように訪れた静寂に、静かな吐息が響く。
「あ……」
然らば、吐息の主を膝に乗せた後輩が。
「へ……?」
次いで、パートナーの少女が。
「あー……まあ、うん」
その傍らに立つ、もう一人の自称後輩が。
「なんや、コイツも人間やったか」
ライバルを自負する虎が。
「あらま。かいらしい寝顔やわぁ」
遅れて、至極のんびり舞台から戻った狼の主が。
「…………落ち着け、コイツは男だ。モテモテのモテ野郎だ」
そっと冷静に目を逸らした哀愁を背負う男性が。
「んふっへへへ撮れ高の提供に余念がないねぇハー君ってばさー」
愉快そうに頬をつつく旅人が。
「…………ふん」
素っ気なく鼻を鳴らしつつ、眼差しに険のない友が。
「……………………………………………………はぁ。ま、ね」
疲労に沈んだ果て。
初めて見る類の〝顔〟を眺めた後、優しげで気の抜けた笑みを零す子猫が。
それはもう、いつもの如く。
誰よりも誰よりも楽しんだ末。夢の世界の最中に在って颯爽と更なる夢の世界へと旅立っていったプレイヤーを、それぞれの表情で見送った時。
◇【緑繋のジェハテグリエ】の盟約が果たされました◇
響き渡った鐘の音が、遍くモノを腕に抱いて────
◇ワールドのフェーズが移行します◇
その日、世界は無感動に変遷を始めた。
といったところで五章第四節、
および『緑繋』攻略の前提段階にして前哨戦、これにて了と致します。
だから言ったでしょう、長くてヤバくてヤバいんだよ。