キミ想ウ故ニ我ハ在リ、我ネガウ故ニ────
傍らで一匹、狼が吠える。
いまだ完全支配とはいかない氷焔の双演に巻き込んでしまわぬよう苦心したものだが、これを以って努力は報われたと言えよう。
ジンが遣わせ、連絡役を果たしてくれた霊狼の報せにより────
「ッ────全く、似合いのパートナーだよ……!」
百鬼夜行のド真ん中……つまり、作戦指定範囲の只中にて。囲炉裏は世界に発現した甚大なる魔威を見逃すことなく、滞りなく防御行動へ移れたのだから。
「《煉氷烈火》ッ‼︎」
威力凝縮、出力全開。巻き起こすは屹立する氷焔の結界塔。
単純に超硬度の氷壁たる《絃氷六花》とは異なり、この旋動する壁は物理的に確たる防御性能を持ち合わせているわけではない。
これが防ぎ止めるのは、存在を同じくする炎などの非物質的現象。即ち魔法を主とする非物理的脅威に対して編み出した、三百六十度をカバーする防御壁だ。
つまるところ、
「さて……仮に抜かれたら大恥だな」
まさしく、周囲三百六十度。
絶大な範囲に、甚大な規模で顕現した────光り輝く〝大吹雪〟の渦中にて生き残るための、かまくらである。
◇◆◇◆◇
「〝氷剣〟────ソラの【剣製の円環】第三の魔剣は、単純な攻撃力で言えば他二つの〝砂〟と〝炎〟に比べてぶっちぎりの最下位だ」
推定範囲、直径三キロ。
それだけでも数えてなどいられない無数を以って『円』が描かれ、召喚可能位置など諸々の制限を撤廃した少女が天災を生む様を眺めながら。
「ちなみに防ぐだけなら割と簡単で、貫通力が比喩なしに皆無だからベニヤ板一枚でも完全防御可能。なんかどこぞの無敵侍は張り切って大技かましてるけども、別にアレ適当に氷の壁を張るだけでも大丈夫ってのは内緒の話」
「やめてあげなさいよ」
ひどく呆気に取られている場を和ますため、冗談も一つ挟みつつ。然らば、なっちゃん先輩より慈愛に満ちたお咎めも頂戴しつつ。
「ただまあ、数が数だけに防ぐとなると隙間ゼロの全周防御が必須。んで〝亀〟になったが最後まともに身動きが取れなくなって大概は詰み────といった具合に、あの剣は見ての通り『数』と『軽さ』と『速度』に特化してるわけよ」
「特化じゃないじゃん。強み乱立しすぎでしょ」
そしてお次は後輩一号。
いいね、合いの手があると語りの羞恥も軽減されるってなもんだ。
「でもってメインの『特性』の話になるが」
「まだあるんかい。どないなっとんねや自分の相棒は」
「それに関しては元となった先輩二人の氷魔法リスペクトってな感じで」
「「「無視……」」」
「一瞥すらしなかったわね……」
なんかツッコミの祖みたいな口調が挟まれた気がしないでもないが、それは適当に置いとくとして話を進めさせていただこう。
「〝砂〟の『物魔共存』。〝炎〟の『物質貫通』ときて……〝氷〟はズバリ『簒奪封印』だ。まあ百聞は一見に如かずってことで、御覧の通り────」
視線で指し示すは、吹雪に巻かれた百鬼夜行。
「〝氷剣〟に接触した対象は、氷刃一つにつき1%ずつステータスを奪われる」
見る見るうちに例外なく動きが鈍化していく最中。悲鳴の如き叫びを乱立させながら、無数に舞う吹雪を散らし壊そうと健気に暴れる怪物の群れ。
然して、こちら側。
「「「「「────────…………」」」」」
迫真の絶句。まあ然り、予想の範疇のリアクションだ。
この中ではただ二人情報共有が済んでいるテトカナと視線を交わせば、後輩(後輩じゃない)二人からは「そりゃそうだ」といった苦笑いが降ってくる。
その通りそりゃそうだ。俺たちだって知った当時は絶句したともよ。
「………………上限……下限? とかは……」
「流石にあるぞ。どんな相手でも奪えるのは三十パーが上限だ」
さておき、なっちゃん先輩の質問に答えつつ解説続行。
「でもって、お次は『サブ特性』────」
「ええ加減にしとけよ?」
うるせえぞトラッキー俺のパートナーになんか文句でもあんのかテメェ。
「こっちは単純に氷属性準拠の性質で、冷気による行動阻害能力が備わってる。ただこれも一つ一つは微弱なんだけども、数が数だけに累積してえらいことに……」
「デバフ同士でシナジーも発揮しちゃいますからね……」
「それな。ステータス三割も持ってかれてアレに巻かれたらマジで動けねんだわ」
「ま、そもそも三割奪われてる時点で三十回被弾してる訳だから。プレイヤーなら動けなくなる以前に大体は終わりなんだけどね」
「それもそう。デバフが真に生きるのは対ボス戦になるよな────このように」
経験者三人でしみじみと語る最中も、序列持ちその他を問わずレイドの視線は〝大吹雪〟とそれを操る少女に釘付け。重ね重ね、さもありなん。
これはまた、避け得ず世間様も大騒ぎ待ったナシだろうなと未来予想図を確定的に描きつつ……一応、滞りなく力を発揮できた相棒の姿に安堵を抱きながら。
「………………さて、気張れよ先輩」
百を超え、二百を超え、作戦に際して貯め始めた化物群団を見事に抱え込んだ氷剣結界……俺命名《夜々に凍え睡る萌霜の抱擁》のド真ん中。
「ソラさんの頑張り、無駄にしたら承知しねぇぞ」
屹立する氷焔の塔が内側から炸裂すると共に、
作戦第一段階の第二工程が始まった。
弱点は【群狼】の狼と真逆で共闘難。
近接であれば言わずもがな互いが互いの邪魔をしてしまい、後衛であれば氷剣一枚一枚は極めて脆いため迂闊に技を放つと諸共ゴッソリ溶かしてしまう。ソラさんが気を遣って数を絞るなり精彩操作を心掛ければ一応の解決はするが、数の暴威という最大の強みを制限するならそも砂や炎でよくねとなったりならなかったり。
じゃあもうソラさん一人でいいじゃんは禁句だから被曲芸師。