Re:観測者たち
「────……おおよそ、想定通りの運びではありますね」
「そう、だな」
複数の大型モニターから滲む明かりのみが照らす薄闇の部屋。観測者として己が席に座す男が一人と、その傍らに立つ雇い主が一人ずつ。
それぞれの瞳が映す画面を賑やかに彩るのは、決して自分らが触れること叶わぬ遠い夢の世界の語りごと。資格者たちが遊び生きる、そのもの英雄譚を形にしたが如き────夢幻にして無限の可能性を描く壮大な舞台。
そんな輝きに満ちた光景を眺める二人の顔には、
「「………………」」
今に限り、沸き立ち浮き立つような感情の色は皆無。ただ一つの存在、形容し難い〝黒〟を見つめながら、識る者たちは蚊帳の外にて来たる未来を思うだけ。
ふと、二対四つの視線が同期する。共に〝黒〟と同じ黒……けれども、確かに今を生きる存在として意思を宿した黒目が、同じ〝者〟へと向けられる。
それは果たして、誰であったか────知るのは本人たちばかり。斯くして片方、自らの足で立っていた雇い主が踵を返し、モニター群へ背を向けた。
「もう宜しいので?」
「今回については、元より結果がわかっているからね」
引き留めるでもなく掛けられた言葉へ、四谷徹吾が返すは穏やかな声音。
「私は一足先に、後の問題へ備えておくとするよ」
そうして、薄闇の『部屋』から気配が一つ忽然と消える。なんとはなしに、あるいは見送るように、振り返った千歳和晴の目に映るのは、
「………………ご苦労様です。心から」
出入り口の存在しない立方体に満ちる、無人の空気のみであった。
今日中にもう一本更新しますが、今これから描き始めるので早くとも23:00予定。
良い子のアルカディアンは健やかに寝て待たれよ。