キミ想ウ故ニ我ハ在リ、我ネガウ故ニ世界ハ続ク 其ノ弐
「────『記憶は魂心に刻り』」
それは紡ぐための唄ではなく、呼び起こすための名乗り口上。
「────『煌冠は、我身に在る』」
転身体の装いゆえ、お誂え向きの帽子はナシ。しかしながら、どうあっても意思もとい遺志を感じさせる紅光が宿り纏わり……長い白髪を〝耳〟と成す。
〝想起〟に続く二つ目。
俺の身体に宿った、スキルならざる固有能力。その名は────
「《我が名は〝赤〟を纏う王》」
さぁ、然らば往こうか────
さぁ、然らば往こうか────
さぁ、然らば往こうか────。
例外的な固有能力を除き全てのスキルが封印されているとはいえ、それだけで真に無能と化すような体たらくを晒すようじゃ【剣聖】の弟子は名乗れない。
ゆえに……一歩また一歩と、歩む程度であれば。
『結式一刀────』
意地でもなんでも、叶えてみせよう。
『《飛水》』
呼ぶは一刀、抜き放つは翠刃。そして閃を放ち遥か彼方。
瞬きを置き去りにする刹那の間。これ見よがしな弱点と思しき黒塊の胴に在る巨大な単眼へ刀を振るえば、奇妙な手応えを持ち去るままに俺の身体は宙へ遊ぶ。
舌打ち一つ。が、さもありなん。元よりスキル諸々の加護なしで〝三纏〟を乗りこなそうというのが無理な話だ、多少の無様は呑み込もう。
ってなわけで、いざ追撃。
限界伸張。斬撃を見舞うと共に貼り付けておいた【九重ノ影纏手】の線が結ばれた右腕を全力で引き絞れば、影糸はそのものゴムのように豪速で収縮。
『────ッ‼︎』
更には重積された過剰ステータスが存分に炸裂し、奇跡不在の不利を補う馬鹿出力によりロケットが如く撃ち出された身体を以って第二刀。
狙い違わず背中に刃を奔らせた【早緑月】から伝わる手応えは、しかし第一刀と同じく泥を斬ったかのような妙に薄く奇妙なもので……ってかダメだコレやっぱゴッチャゴチャで頭おかしくなる喧しいうるせぇ全くもって集中できな────
ぁ、やべ。
「────ハルッ!?」
瞬間。『千剣が殺到する怪物の上』とかいう二重どころか二百重の意味で激ヤバなキルゾーンにてフリーズした俺を、魔剣の隙間を掻い潜り届いた〝糸〟が引く。
然して、これまた重積して伝わる外的刺激に意識を弾かれ再起動成功。
乱立する思考に追い付かない身体を強引に駆り、即座に選定した砂塵の切れ間を縫って反射百割で身体を逃がせば────刹那、遥か下方。
寸前まで足場としていた黒塊の身体が爆発するように膨れ上がり、異形の巨体から無数の〝欠片〟が質量保存の法則ガン無視で放たれるのが見えた。
見えた────
あぁ、見えてる────
俺も見てるぜ、バッチリだ────。
またも過々剰出力に振り回されるまま超広大空間の天井近く。思考加速とは異なる思考並列により、濁流が如く頭を満たす意識が僅かな時間で密に騒ぐ。
なんじゃありゃ──完全にバケモンじゃん──さっきの効いてんのか?──目玉も背中も手応え変わらんかったぞ──打撃も試しとこうぜ──の前に分裂したの処理すんのが先じゃね?──おいなんか見覚えあんのがいんぞ──尻尾ニョロニョロ鳥野郎──最初にシバいた奴やんけ──なにこれそういう感じ?──倒した連中の怨念的なアレ?──ホラーの化身かよ──まあいい、とりあえず……。
『ゴチャゴチャうるせぇ、ぶっ飛ばす……ッ‼︎』
頭の中でワーワー喧しい俺に黙ってろと俺が言い、俺の赴くまま俺の身体を動かすべく俺が見て俺が敷いた道に俺と俺と俺がGOサインを出し行動可決。
オラいくぞ俺ら、役割分担だ────
初動は俺、出力制御は俺、着弾後のなんやかんやは俺────
外転出力『廻』臨界収斂────
いざ、突貫。
此処に至っては限界突破など前提条件。割ける思考の絶対数が増えたのをいいことに、後の反動など知ったことかと未来を蹴倒し今に全身全霊を全ツッパ。
斯くして、眼下の異変を見たと同時。分かたれ放たれる寸前の黒塊群団ド真ん中へ爆速トンボ返り────からの、四凮一刀。
『《涓》』
解き放つ旋刃を以って、どいつもこいつも『記憶』に在る姿を細切れに。
手応えは本体と同様に泥の様。まともにやり合った場合の戦闘力は不明だが、少なくとも耐久力に関しては随分と劣化している模様────
はい、ちょっとタイム────
はい、ちょっとタイム────
はい、ちょっとタイム────。
『ぶッッッッッッッは……!!! 無理ッ……‼︎ 死ぬッッッ……!!!!!』
「わっ!? ちょ、はぁッ……!?」
そも全快最高コンディションでもハチャメチャに消耗する鬼札を満身創痍の状態で切れば当然の結果だが、そうと知っているのは俺と俺の相棒のみ。
起動から五秒。爆速で暴れて爆速で舞い戻り、爆速で足元に転がった俺の姿を見て先輩殿が半ギレめいた声音を上げるのも無理はないだろう。
ダメだ。やはり〝三纏〟行使は無茶が過ぎるゆえギアダウン……。
アホか俺は────
アホってかバカでは?────
両取りだろ。んじゃ、あとよろしく────。
『────……ッしオッケーまだいけるァッ!!!』
「ねぇなんなのマジで! どういう状態!? 恐いんだけどッ!!!」
なっちゃん先輩が隣でワーワー元気でいらっしゃるが、一人減ったとて依然『掛け合い』が発生している俺の頭は諸々の許容量オーバー続行中。
でもって、黒塊が前進を止める気配がない以上お喋りしている暇もナシ。
『なっちゃん先輩その調子で頼むッ!』
「どの調子よ!?」
『フリーズしたら小突いてくれりゃオッケーだから‼︎』
「ウチの心はオッケーじゃないんだけどッ!?」
『よっしゃァッ!!!』
「ヨッシャアじゃない!!!」
さぁて、どんだけ俺の意識が保つことやらっと……!────
スキル《煌兎ノ王》から分離した固有能力《我が名は〝赤〟を纏う王》。
それは〝纏う力の化身〟こと【赤円のリェルタヘリヤ】御大が、どんな気まぐれか俺に遺した『無限』の残滓とでも言うべき権能。
増殖させた己を己に宿す。そう本質を言葉に表せば意味不明だが、ゲーム的な効果として表せば内訳は至極単純────上限四倍。己に重ね合わせた己の数に比例して、俺のアバターに関与する全ての事柄が倍加する。
たとえば、ステータスの数値。
たとえば、ありとあらゆる行動の影響。
攻撃回数、その威力など、俺が起こした俺にとってのポジティブなモノだけに限らず、被弾などネガティブなモノも例外なく。更には思考の数までも。
取得から三ヶ月弱、今なお鋭意研究中。
いつまで経っても『問題なく扱える』範疇に入る気はせず、思考が増えるというシンプルな恐怖体験もあって中々常用する気になれないアレではあるが……ま、スキルなしでも馬鹿げた力を行使できるってんだから紛れもない有能枠だ。
『オラいくぞぁッ!!!』
「コイツ後で絶対に引っ叩く……!!!」
死蔵などすれば罰が当たるであろう、まさしく『奇異なる権能』の呼び名が相応しい超特級の鬼札────即ち、数ある俺の〝とっておき〟である。
わけわかんないって?
大丈夫だよ主人公も私も皆と同じだから。
参考までに〝三纏〟つまり三倍モード時のステータス総合値比較を下に。
ソラさん共闘時【蒼天を夢見る地誓星】追加ブースト&転身体決死紅ver
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◇Status / Trance◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):100
AGI(敏捷):1025
DEX(器用):775
VIT(頑強):100
MID(精神):1550
LUC(幸運):0
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+《我が名は〝赤〟を纏う王》三纏ver
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◇Status / Trance◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):300
AGI(敏捷):3075
DEX(器用):2325
VIT(頑強):300
MID(精神):4650
LUC(幸運):0
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完全にバケモノの様相になってはいるものの、実際のところ──────を理由とした────によるリミッターが働き実質カンストしているため、コレをそのまま主人公が行使できるという単純な話ではないのであしからず。
本文説明通りネガティブな影響まで倍加される仕様も含め、四柱でコレを使った主人公が討ち取られているように完全無法な無敵モードになれるわけではない。