輝キ示せ稀人ヨ、愛を託スに足ル者ナりヤ 其ノ漆
転移の青光を突き抜けて、目前に開けたのは途方もない大空間。
視界の端、世界観にそぐわぬ小さな機械端末が目に入る。そしてその正面、屈み手を翳す職人より輝く藍色の視線が向けられたことを感じ取る。
連れ立って空間を飛んだのは五名。〝道〟が拓けたことを告げるまま先行を決した職人四名と……──護衛の大任を身に拝した、自分ただ一人だけ。
先へ先へ、走って行ってしまうのは、いつものこと。
だから、その背中を後ろから見るのも、慣れ切ったこと。
なればこそ、少女は迷わず躊躇わず────
「《剣の円環》ッ!」
相棒に倣うが如く一心に前へと駆けて、その身に紡いだ〝力〟を顕す。
目標正面、巨体無数、規模甚大、迫り来るは百を超えて余りある化物怪物の大津波。それに対するは僅か一つ、小さな小さな金の風が、
「────《地轟百塔》!!!」
世界に降らすは、剣の巨塔。
右手の指輪が瞬くと共に、溢れ出でる魔の奔流。才能の具現とばかり圧力を伴って空間を軋ませる甚大な魔力が、黄金と見紛う砂塵の巨塔と成り代わる。
然して、指揮一閃。
物理も、常識も、あらゆるモノを打ち揺るがす百の巨剣が────音を砕き散らす轟音を伴って、百鬼夜行へと降り注いだ。
「────……、…………」
言うに及ばぬ異常の光景。ならば自然、目にした誰もが言葉を失って然るべし。それは如何な『序列持ち』とて例に漏れることはないだろう。
正真正銘の目前にて、理不尽を越える理不尽に魅せられ呆ける【糸巻】がその代表。つまるところ、彼女の反応こそが正しいのであって────
「っ……ハル、だいじょ────っ!?」
「ッッッはっはぁ! ったく最高かよ俺の相棒は最高だな流石だぜソラさんッ‼︎」
その程度、当然とばかり。
一抹の驚きもナシに信を満点。駆け寄ってきた少女を機嫌良く抱き留めたパートナーの喝采は、紛れもなく異常に並ぶに相応しいモノであった。
◇◆◇◆◇
……さて。
流石に格好良過ぎる登場に魅せられたあまり、つい両腕にて相棒を捕獲してしまった絵が全世界に公開予定という恐ろしき未来は意識の外へ蹴飛ばすとして。
「────ぁ……や、ちょっアンタらイチャついてる場」
「見ての通りだ、頼むッ!」
「ッ……はい!」
ちょっとアレコレ湧きたってしまっただけで、流石に諸々を弁えちゃいる。でもって、ソラさんとてテンション上がった俺のアレコレには慣れ切っている。
ゆえに、お叱りの声を最後まで聞くまでもなく意思疎通と行動は即座。
ソラの圧倒的な……それはもう、かの『東の双翼』や【熱視線】にも劣らない超火力を以ってすれば、次から次へ転送されてくるボスの増加速度を処理速度で上回ることも不可能ではない。ならば、まずやるべきは混沌とした舞台の再掃除。
もう一度、今度は俺の捨て身のような無理も無茶も要さずに。綺麗サッパリ場をリセットできれば、なにかしら状況移行が起こらぬ限り一時の余裕を確保できる。
でもって、その程度であれば。
「いきます、よっ……!」
「おうともさ‼︎」
俺の相棒なら────否、俺たちなら不可能ではない。
「「『天地繋ぐ絆心の永遠』」」
並び立ち、紡ぐ鍵言は絆の具現。光り輝き大地の鼓動が如き共鳴波を放つは、不明存在たる『地司』の祝福を宿した一対の指輪。
【蒼天を夢見る地誓星】────比喩なく現アルカディアで最上位に位置する無法の宝飾が齎す奇跡は、限定対象者とのMID及びMPの統合共有。
片方が空っけつになっているMPはともかくとして、だ。これより八十八秒の間、俺たちのMIDステータスは双方の数値を足した値……即ち、
1550+950=2500という異常数値へと到達する。
勿論、魔法を含め全てのスキルをロックされている俺に使いようはない。だから、この身は実質パートナーのオプションパーツ。こっから先の主人公は────
「《双剣の円環》」
俺の自慢の、相棒様だ。
理不尽を以って理不尽と抗していた百塔が消え去ると同時、いつまでも終を見ない百鬼夜行の進軍が再開。迎え受けるは、一人で一歩を踏み出した小さな姿。
両手に従えるは、砂と炎。第三階梯へと至り同時二属性を行使可能となった【剣製の円環】が紡ぐ魔剣を、少女は己が十指で抱き繋いで容を創る。
「〝魔剣融劫〟」
次の瞬間。その手に顕現したのは、全てを照らし灼く太陽が如き輝剣。
「《赫灼たる────」
さぁ、見晒せ世界。
「────地轟の撚剣》ッ!!!」
これが本当の、理不尽ってやつだ。
斯くして一振り。放たれた金焔の巨閃が、行く手に在る悉くを溶断して迸る。
蒸発することなく炎と溶け合い、遍く熱量を抱き擁するまま流動する硝子の剣。主の意によって際限なく鋒を伸ばす無形の刃は、どこまでも果てしなく。
並み居る死を喰らい尽くして、灼熱に爛れた舞台へ静寂を齎した。
そ、ソラかわ。