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かつてアーシェを《神楔の霊剣》からの連携によって一撃でHP全損に至らしめたように、俺が【剣聖】より拝した《口伝:結風》の『直前に放った技の威力を上乗せする』効果は〝敵に与えた威力〟ではなく〝放たれた出力〟を参照するモノ。
つまり必ずしも『敵』あるいは『同一の敵』へ対する〝次撃〟として扱う必要はなく、また放たれた出力がどこへどれだけどんな風に向かおうとも計算式に当て嵌められる数字は合算の最大値が適用される。
即ち今の《結風》には、威力が九割がた拡散してもなお並のプレイヤーなら一撃で持っていける《谺》の全出力が上乗せされていた訳だ。
なのでまあ、確かに馬鹿げた威力だったのは間違いないのだが────
「カチカチ虚弱タイプだったか……」
攻め手の苛烈さと頭のおかしな防御性能からハーフレイド級と推定していたのだが、なんともはや呆気なく散った〝亀〟に拍子抜け……もとい、安堵しつつ。
動かぬ身体を転がすまま呟く俺を他所に、状況が動いた。
宙に舞う【administrator:03】の残滓────けったいな名前を掲げていたボスの撃破エフェクトが、いまだ意志あるかの如く空を流れて揺れ動く。
流れ、動き、そして集い……深緑の燐光はボス部屋の中心にて一際に光り輝くと、一つのオブジェクトを形作り霧散した。
「っ……ニア!」
「ふぁっ、はい!」
然して、時に猶予ナシ。既に制限時間が十分を割っている現状、起こることに全てに律儀なリアクションと考察を返している暇はない。
ゆえに、即座の号令と応答も否応なし。いまだ攻略は途上なのだ。
「動ける? それともギブアップかしら?」
職人の参加を要するコンテンツで不意に現れた不明物体、ならば職人を充てて然るべし。当然のようにノータイムで適解を放った先輩殿が、お優しくも傍へ来て如何を問う声を掛けてくださった。
「三十秒ください……」
「ん。まだ頑張れそうね」
なお、優しさは都合五秒の会話だけで素っ気なく傍から去って行った。
別に……別に切ないとかないし、別に…………。
「で、どう?」
そうして、俺を放置するまま向かった先。彼女は霧散した光の残したモノ────端的に表すのであれば〝モノリス〟を検分しているニアへ声を掛ける。
見て、触れ始めてから十数秒。
成果を期待するには早過ぎるであろう問い……と、それは俺だけでなく、なっちゃん先輩も思っていたことに違いないが、
「────端末、だね。コレ」
予想を裏切り、真剣な顔でソレに向き合うニアは迷うことなく答えを返した。
「…………コンソール?」
なっちゃん先輩が当然の疑問を零し、俺も地に伏すまま首を傾げ耳を傾ける中。木とも石とも金属ともつかぬ不可思議な材質に、ビッシリとアルカディア文字が刻まれたモノリスを見据える【藍玉の妖精】が首肯する。
「なんか、わかんないけど、教えてくれた。できること、やりたいこと……ごめん、ちょっと言葉で説明するの難しい、んだけど」
「……ま、この世界ではよくあることか。ウチらはどうしてればいい?」
疑問は脇に置いて、まずは指針を。相も変わらず絶妙に冷静な先輩殿が問えば、いつしか双眼に光を灯していたニアは一言だけ。
「待ってて」
「了解。────ほんと格好良いわね、この子」
斯くして、既に没頭し声など聴こえていないだろう藍色の傍。
楽しげな視線を振ってきた白猫様へ、
「ギャップが過ぎて、それはそれで困らされる毎日ですよ……っと」
宣言通り、三十秒。立ち上がりつつ俺が半ば無思考で返したのは、ギリ惚気と取られても仕方のない可能性があるアレな発言。
……これは、アレだな。
思った以上に、疲れが溜まっているのやもしれない。
◇◆◇◆◇
「────ッハ、いかついのは名前と見た目だけやったな」
塔の一つ、その根元。
待ち構えていたダンジョンの深奥に座す〝竜〟を理不尽なまでの力で捻じ伏せ、なんの危なげもなく勝ちを手にした【大虎】が鼻を鳴らす。
「んだ余裕かよ! お前さんが怪物以上に激いかついだけだと思うがなぁ‼︎」
そして続くは、賑やかな同行者の賑やかな声。
「ヨイショせんでええ。なんやえらい無感情で、そこらの雑魚ボスよりもツマらん相手やったわ────……で、コレか。ほな頼むでオッサン」
「おうさ任せとけ!!!」
現れたのは、意味深不可思議な〝コンソール〟……つまりは戦闘一本の専門外。ヒラヒラと手を振りバトンを送れば、岩寿は豪快に笑って己が仕事へ突撃した。
以前からの付き合い。今も振るう槍を含め、武具の世話を頼む顧客と職人の仲。ところかまわず盛大な声音には慣れたもの、そよ風のように聞き流して虎は笑う。
笑い、頭に択を一瞬だけ過らせた後、友人にして相方にして攻略の生命線たる職人十席の護衛を選び取りドカリとその場へ腰を下ろした。
残念ながら身は一つゆえ、報告は後回しだ。
「……振動はナシ。つまり初回、四体の特殊個体を一体でも倒すのがトリガー。後のイベントは単純に居場所を知らせ攻略の進行を促すモノか、あるいは……──」
そして、口の中で秘して紡がれるは訛りの取れた思考の声音。
「………………四体。〝鹿〟に続いて〝竜〟と並んだ」
誰にも聞かれぬ小声は果たして、楽しげな笑いを内包しながら。
「それなら残るは────〝亀〟と、一体全体なんやろなぁ?」
物言わぬ世界へ、問いを投げかけた。
◇◆◇◆◇
「────────………………」
そこにいたのは、絶句する着ぐるみが一人。
「……………………ここまで、なのか」
そこにいたのは、感嘆を通り越して畏怖を覚える侍が一人。
「…………せっかく格好付けたのになぁ。全く出番がないとは思わないじゃん」
そして、密やかに素の声を零す職人が一人。
然して彼ら、彼女らが一様に目を向ける先に在るのは────
「《終幕》」
侍らす『剣』を一息に散らし、全ての暴威を消し去った元戦場で佇む少女。
相手取っていたのは、報告通り推定ハーフレイド級と思しき木根の怪物。重ねて報告通り異質な名前、更には形容し難い奇怪な外見と併せ、かの【無双】をして邂逅時に自然『面倒そうな相手』と思ったものだが……結果がコレ。
戦闘時間おおよそ三十秒弱。様子見の一当てで、そのまま終わってしまった。
「ふぅ……──ぁ、えと、あのっ」
視線に気付いたのか、はたまた三人の胸中を読み取ったのか。
パッと振り返った少女が数秒前までの蹂躙劇に似合わぬ可愛らしい反応を見せたところまで含めて、誰も彼も笑うしかない。
そしてたとえそれが苦笑いであっても、時間に追われ続ける今この場においては最早ただ呆れるしかない無茶苦茶も滅茶苦茶も歓迎するばかりであるから。
「見事だった。お疲れ様────さぁ、職人お二方」
「あいよ、任せな」
「凄かったねぇ。それじゃ、次は僕らがいいとこ見せ付けますかぁ!」
そも本人たちとて仮想世界に在る無茶苦茶にして滅茶苦茶の一端。
少なくとも今この場に居合わせた者たちは、自覚も自負も持ち合わせていれば日々同格の存在と付き合っているがゆえの慣れもある。
そんなこなれた様を向けられて……自覚はありつつも自負の成長は途上であるソラは、パチクリと瞬き感心か否か不思議で複雑な表情を浮かべた後。
「…………ぁ、わた、私! 報告に、出てきますっ!」
「あぁ、頼むよ」
やはり、先の理不尽を越えた理不尽極まる暴威の様に似つかわしくなく。
恥ずかし気に頬を染めながら一人で駆け出していった少女の背中を、囲炉裏は微笑むまま。真に一切なんの心配も抱かぬまま、信を以って見送った。
ソラかわ(暴威)