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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第四節
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然シて来たレ青ノ子ら、扉を閉ザす由ハ無ク 其ノ壱

「オッラァ‼︎」


 ────双頭犬ボス、撃破。


 ◇◆◇◆◇


「どぅあらィッ!!!」


 ────石像熊ボス、撃破。


 ◇◆◇◆◇


「だぁらっしゃェアッ!!!!!」


 ────六翼巨大鷲ボス、撃破。


 ◇◆◇◆◇


「ぬゥアッらァアアァアぃッッッ!!!!!!!」


 ────その他、バリエーション豊かに死ぬほど凶悪な面および造形を披露する獣型あるいは一体なにがモチーフなのかよくわからん類のモノまで、


 撃破、撃破、撃破、終わりなく撃破。


「────ッ……おい、こら…………流石に、疲れてきたぞっ、ンの野郎……‼︎」


 そして今。渾身の左拳を以って獅子の頭部を吹き飛ばし、蛇の尾を持つ山羊の身体……即ちキマイラの巨体が地響きを立て頽れるのを見届け、ジャスト二時間。


 ここまで、どれだけのダンジョンを踏破してきたのか。どれだけのボスエネミーをぶちのめしてきたのか。果たして、どれだけの数……。


「ハイ、確保……ッ!」


 こうして、僅か十秒ずつを掴み取ってきたのか。


 転移の光が迸り、身体が異空の外にある異界へ投げ出される。然して広がる景色は断崖絶壁の雲上世界────ではない。


 スタート地点は数十分前に卒業済み。乱立する崖塔に在ったダンジョンは既に粗方を狩り尽くしたゆえ移動し、現在のフィールドは巨大な湖・・・・


 無数に浮かぶ浮島が、異空への入口の主たる点在ポイントである……っと、


「っし、つ────ぎぃ!?」


 流石に乱れ始めた息を整えること約一秒。これまで通りに『異層核ダンジョンコア』を空へ投げ放つと同時に〝糸〟を辿り、次なるRTAへ走ろうとした瞬間のこと。


 ()()()()()()()()()()()自由を奪われた俺は、当然のこと素っ頓狂な声を上げてズデンと盛大にスッ転んだ。幸い、この程度でHPは削れりゃしないが……。


「……え、ご乱心?」


「どちらかと言えば、それアンタでしょ。常時」


「流石に常日頃から狂ってはいないかな……」


 背後、静かな着地音と気配。浮島の地面と熱い抱擁を強要されつつ首を回せば、傍らに在ったのは白いローブを着込んだ先輩の姿。


「休みなさい。三分だけでいいから」


 然して、齎されたのは言葉だけなら慈悲のそれ。しかしながら……。


「だけって、()()()()()()()()()────」


「ペース落ちてる今のアンタじゃ、三分無茶したところで大して稼げないわよ」


「う、ぐ……不甲斐ねぇ…………」


 諸々の現状を加味すれば、喜んではいられない命令だった。


 開幕持ち時間はキッチリ三十分で溶けて消え、レイドが必死こいて稼いでいるカウントの消費が始まってから一時間半が経過している。


 そうして増えて減ってを繰り返し、増えて減って増えて減って減ってとなり、増えて減って減って増えて減って減って減ってといった状況となっている今。


 定められた全滅まで、残す猶予ストックは十五分弱。()調()()()()()の様相を呈している俺たちの命は、粘りに粘っても更なる一時間を紡げるか否かといったところ。


 カウントの増加ペースは、目に見えて落ち込んでいる。当然だ。


「……あのね、ウチらの班が二時間でいくつカウント積み上げたと思ってんの? アンタが言っちゃいけない台詞よソレ、他のメンバー煽ってんのかしら?」


「ごめんなさい」


 とまあ、お叱りを受けた俺が懸命な尽力の果てに疲労を覚えているように、今に至って消耗していないレイド員などいやしないだろう。


 そしてそれは、なにも戦闘係に限った話ではなく────


「それにどの道、アンタだけ突っ走ったところで()()()()()()わよ」


 そこは、小声で。


 俺にだけ聴こえるように。そして、もう一人には聴こえぬように。気を遣ったのだろうが、おそらくその必要もなかったと思われる。


 俺の傍へ歩み寄った先輩殿に対して、ジッとサファイアの上から動かず手中の『核』を睨み続けているニアは……──


「……、…………っ」


 肩に掛けた袋へ、解読待ちの結晶柱を幾つも抱えるまま。


 頬を伝う仮想の汗を拭うことすらせず。ただひたすら、乱れた息と低下したパフォーマンスを取り繕いつつ役目を果たすのに必死になっているから。


 魔工とは、戦闘に用いる魔法よりも更に繊細な魔法。つまるところ、一回一回の術式作業に多大なる集中力を要する脳内メモリ爆食いの重脳労働。


 間断もなく続けていれば、当然こうなる・・・・。それだけではなく〝眼〟を用いて広域ダンジョン探査まで連続並行しているとなれば、負担は計り知れないだろう。


 ────正直なところ、


「…………で、あと何十秒?」


「二分。言うこと聞く気になったわね」


 今すぐにでも、休ませたい。


 そう思うからこそ、なっちゃん先輩が俺を止めに入ったことにも納得して地に伏す身体アバターから力を抜いた。全くもって、然りである。


 俺だけではなく、ニアも休ませるために俺が脚を止めなければならないのだ。


「ウチが言うのも変な話ってか、死ぬほど余計なお世話なのはわかってるけど……もう流石に情が移っちゃってるし、横暴な先輩からの命令を授けとくわ」


「…………」


「攻略の成否は置いといて、終わったら甘やかしてあげなさいよ?」


「…………………………」


「その顔は、承諾と受け取るからね」


 斯くして、追加の内緒話も挟みつつ。


 転がったまま視線を向ける先。見られていることにも気付く余裕がないようで、ただひたすら職人としての顔で戦い続けるニアの顔を見る。


 映像記録に対してのみ認識阻害効果を発揮するというフードを目深に被ったまま、真剣一色に染めた藍色の瞳を輝かせる姿を見る。


 相変わらず、格好良いなコイツと、思うと共に。


「…………善処するよ。真面目に」


「言葉でも受け取ったわ。しっかりやんなさいよ男の子」


 それが究極的に誰のためなのかを思えば、心が震えるのもやむなしであろう。


 子猫とて先輩。ふとした時に滲む甲斐性を微笑と併せて振り撒きつつ、なっちゃん先輩が立ち上がりニアの方へと歩いていく。


 大人しく体力回復に努めている俺の分も、どうぞ物理的にも精神的にも支えてやってくださいますよう……────と、頼りになる背中を見送る折のことだった。



「ッ──────────」



 ピクリと、揃い立つ白猫の耳を幻視したのは。


 前触れなく足を止めた子猫……もとい、南陣営序列七位【糸巻】が鋭い視線をどこかへ向ける。そして次の瞬間、その端正な顔に浮かんだのは、



来た・・。〝が引かれた・・・・・



 ただ可愛らしいだけの、子猫のソレではなく。



「動いたわよ、状況……ッ!」



 正真正銘、獰猛なネコ科の表情ソレであった。






なっ好き。


サブタイ切り替え的にもう序盤終わったのかって?

こっからが長すぎ過酷すぎなんだよ覚悟しやがれ。


覚悟しやがれ私。

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― 新着の感想 ―
それでも猫なのは変わらないなっちゃん先輩好き
先輩してるなっちゃんカッコかわいい > 「来た。"糸"が引かれた」 流石先輩、道づくりだけで終わるわけもなく >あとがき 「休みなさい。三分だけでいいから」 無理しないでくださいね読者は無理(待て…
一日に何回更新するんだろうなぁ(ニッコリ
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