待チ侘びたモノたちよ、轟き駆けて斯く統べヨ 其ノ壱
『緑繋』攻略における人員数は百二十名。対応色にして特別枠でもある西陣営の職人十席に他三陣営の序列持ち枠十席を加えた計二十、プラス一般枠の百名だ。
そして総勢の内訳、つまるところ組分けについては三十五組。
職人&戦闘序列持ち1:1による超少数精鋭を基本としたタッグが十組、更に残る一般枠百名弱による移動係&戦闘係&職人の1:2:1小隊の二十五組といった形。
移動係とは他ならぬ《騎手》スキル及び騎乗系【星屑獣】持ちプレイヤーのことだが……開催二度目となる前回の『星空イベント』にてガチ勢が本気で調伏を狙った結果、ここも実質的には戦闘係として機能する精鋭で揃えられた。
言わずもがな、莫大数が存在するアルカディアプレイヤーの上澄みも上澄みから選抜された百名……いや、西から選抜された二十五名の職人を抜いて七十五名。
三人もいればレイド規模や名高い少数の例外レベルでもない限り、高難度ダンジョンとて踏破に問題は生じないだろう。
更にその上、序列持ちの名を冠するのであれば単独攻略とて問題はない。
少なくとも、それが容易いと信じられた者が選抜されている────ならば俺たちは胸中で全力必死の覚悟を固めながら、表には済ました顔を見せるだけだ。
「みんな、準備は、いいかしら」
斯くして、架けられた橋の終端。
そこを跨げば文字通り世界が変わる、甲羅の縁を目前に旗頭が問う。振り向き、誰にでもわかるよう努力した微笑を湛え……いつかの如く、声は求めず。
誰一人として離れず、遅れず、その後ろに────否、傍についてきたプレイヤーたちから、言葉なき戦意と昂ぶりを静かに受け取って。
「うん。それじゃ……────往きましょう」
開戦を告げる一歩を、揚々と踏み出した。
そして、続く脚が百十九。一糸乱れぬ……とは言い難いまでも、意気と意思を統一済みであるオーバーレイドが勢い込んで戦域へと雪崩れ込む。
斯くして、その〝背〟にヒトが踏み入った瞬間。
────────────────────────────。
それは声ではなく、吐息ですらなく。
ただただ埒外のスケールを誇る異常存在が、静かに目蓋を持ち上げた音鳴り。
背中の上へ足を踏み入れるどころか、力一杯に顔面をド突き回そうが一切の反応を見せないという【緑繋のジェハテグリエ】の身体が、確かに鳴動して────
「攻略開始」
〝姫〟の静かな声音を引き金に。
まさしく『だからどうした』と言わんばかりの勢いで鬨の声を上げ散らし、仮想世界トップ層に座すお祭り野郎どもが駆けだした。
基本四名、いくつかは三名。それぞれのチームが一塊に、境界線を越えた瞬間に目前へ広がった全く別の景色……木々のない開けた丘陵へバラけるや否や、
『『『『『────────』』』』』
声なき気勢と共に、数多の星影が溢れ出す。
どれもこれもビッグサイズ。イヌ科あれこれ、ネコ科あれこれ、猪、鹿、馬、果てはダチョウなど個性豊かな取り揃えにて立ち居並ぶは調伏獣。
然して、姿形は様々なれど〝得意〟とするのは共通の一つ。
「おぉー………………うむ。中々の速度」
俺が思わず感心の声を零すばかり、各々の乗員を乗せて一斉に爆速で遠ざかっていく健脚は、まさしく『運び手』と称するに相応しいものだろう。
────と、いったところで。
「ハル、ナツメ、それとニア。なにかあれば作戦通りに」
「「了解」」
「りょ、りょう、かいっ……!」
散開したレイドの分布を見届け、進路を決めた姫より最終確認の言葉を頂戴。両脇の小隊員と揃って応を返せば、アーシェは薄く微笑んで……。
「後で、ね」
傍らで『いつでもどうぞ』とばかりスタンバっていた【灼腕】殿を当たり前のようにお姫様抱っこで抱え上げると、ドレスを蒼に染めて駆けていった。
当然のこと、見えなくなるまで瞬である。
『縮地』でもなんでもない単純な疾走でアレってマジ?
「ほんなら、俺らも行こか」
「よろしく頼むぜジン────……嚙まないよな? コイツ」
そして慄き七割の呆れ三割で『最強』を見送っていた俺を他所に、こちらも当然のように大狼の調伏獣を召喚した【群狼】が【赫腕】殿を連れゆき、
「おっしゃいくでオッサン。振り落とされんなや!」
「んだ遠慮はいらねぇぞ! かっ飛ばせやトラ坊ッ!」
不可視の顎腕を以って【鉄延】殿を抱えた【大虎】が轟と地を弾いて飛び、
『腰が痛くなったら言ってくれよな爺さん!』
「安全運転でよろしくのぅ」
白い靄……〝雲〟に巻かれた【大金持】殿は白髭を棚引かせつつ、少々心配になる勢いで地を滑るように運ばれてゆき、
「そしたらボクらもいこっかツグツグー!!!」
「………………」
こちらは〝風〟に浮かされた【折紙】殿を【旅人】が彼方へと連れ去って、
残るは、五組。
「────威を以って隠す、この身は果たして臆病者なりや』」
その内から静々と、先より響いていた唄が閉じられる。
「《影海己独》────……じゃ、練習通りに頑張って」
「影ながら見守ってるよ新星君っ!!!」
「はいっ‼︎」
傍らに立つ【彩色絢美】の手を取ったテトラが魔法を起動し、諸共に影へと沈む。然らば、影の持ち主にして新星君ことカナタは……。
「行って、参りますッ!」
俺と目が合うや否や、気合満点で文字通り彼方へとカッ飛んで行った。
そして、残るは四組。
「っし、んじゃ……────出て来いサファイア」
喚び出すは我が星影、背に乗るのは……。
「借りるぞ」
「ドラゴンに乗るティラノサウルス……!」
囲炉裏&【百発屋】殿ペア。
「参りましょうか」
「は、ははははひゃいっ……!」
ういさん&【雨音一粒】殿ペア。
でもって、
「────ハルっ」
「ま、互いに気張るとしようかね」
「あぁ」
一つ、二つと、続けて俺と手を打ち合わせていく相棒と相方。つまるところ、乗員は主たる俺を含むスリーマンセルを除いた三組────
「頼んだぞ」
『──────』
飛び立つ翼に、躊躇いはなく。
主導権を握るのは、俺のパートナーにしてサファイアとも親しき少女。眩い金色を風に散らしながら、竜を駆るソラは最後にもう一度だけ俺へ視線を振って、
「「っ……」」
互いに送るは、笑み一つ。
竜は、それまで去っていった何者よりも早く、空の先へと翔けていった。
────そしてそして、残るは一組、三人だけ。
取り残された俺たちは、決して余裕綽々を気取っている訳ではなく。
「なっちゃん先輩?」
「………………………………………………オーケー。感度良好、問題ないわ」
今回の『緑繋』攻略作戦における肝となる彼女の準備が整うまでの間、邪魔せず待機に徹していただけ。即ち、サムズアップ代わりのドヤ顔が返ってきた今。
「そしたら遅ればせ────先駆者全員、ぶっちぎるとしますかねぇ!」
待ち侘びた脚を解放するに、一片の憂慮もナシ。然らば御免。
「出だしがコレって、あたしらだけ無限に格好付かなくない……?」
「変なとこ触ったら引っ掻くから。男姿の場合は特に」
「あーハイハイ文句はどうぞご自由に……んじゃま、《天歩》ッ‼︎」
進路決定、空高く真っ直ぐ。両腕に抱えた花より出でる文句はご愛敬。
それでは、いざ揚々と────見果てぬ壁に、挑むとしよう。
なんか始まっただけで終わった。
三千文字で百人強を動かし切っただけ私は褒められるべきだと思う。