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明くる日、単身にて

「この凄まじい違和感よ」


 ―――プレイ二日目。怒れる母上殿の圧によって徹夜による強行軍を封殺された俺は、早寝早起きからの早朝五時に仮想世界へと舞い戻った。


 好き放題に弄ばれた初回ログイン時とは異なり、二度目の今回は空だの海だのに放り込まれるような演出は無し。【Arcadiaアルカディア】のタイトルロゴからのホワイトアウトを経て、俺の意識は再びこの世界のアバターへと送り込まれる。


 現在地は昨夜ログアウトした噴水広場。現実世界は早朝五時だが、現実比五割増しの密度で時間が流れている仮想世界はそろそろ朝八時になろうかというところ。既に朝日は昇りきっており、広場は既に活気で満たされていた。


 さて、一人で顔をしかめて何をぼやいているのかと言えば、現在俺は現実世界と仮想世界それぞれの身体における体感覚の差に戸惑いを隠せずにいる。ステ振り前の初期状態こそ「よく動く」で済んでいたが、ボス戦を経た今の俺のレベルは17。ポイントにして170のステータス上昇を果たしたこのアバターは、もう既に常識的な人間のスペックを逸脱しているのだ。


――――――――――――――――――

◇Status◇

Name:Haru 

Lv:17 

STR(筋力):15

AGI(敏捷):70

DEX(器用):70

VIT(頑強):5

MID(精神):5

LUC(幸運):5


◇Skill◇

・全武器適性

《クイックチェンジ》

《ウェポンダーツ》


・アクセルテンポ

――――――――――――――――――


 現在のステータスがこんな感じと。ボス戦前から既にオリンピック選手を凌駕するような動きが可能だったわけで……そこから更にポイントを積んだこの身体アバターと比べたら、現実世界の肉体スペックなどカスみたいなものである。


 そうして両世界の身体能力が乖離し過ぎたせいなのだろう、棒立ちの状態ですら全身に襲い来るとんでもない違和感。少し動いていれば馴染むだろうとは思うが……後々慣れていくものと期待しよう。


「……さて、どうするか」


 とりあえず何をしよう、という指針が無い現状だ。意外と前情報なりを仕入れている様子だったソラと別れてしまった今では、俺は再び異国に迷い込んだ外国人ムーブを取らざるを得ない。


 本当に困ったのならその辺を歩いている先輩プレイヤーにレクチャーを頼むのもアリかもしれないが……その、皆さん煌びやかな装備に身を包んでいらして、眩しいというか威圧感というかね?


「うー…………んぁ?」


 装備も雰囲気も明らか初心者丸出しな俺は、昨日と異なりソラが隣にいなくとも普通に目立つ。チラチラと投げ掛けられる視線に棒立ちを恥ずかしく感じ、とりあえず何かやってますアピールをするべくインベントリを開いてみたのだが……装備品の欄がものの見事にもぬけの殻。


「……忘れてた」


 昨日は大いに助けられた初期配布の武器一式。実のところあれらは期間限定のチュートリアル専用アイテムであるため、キノコの森を突破すると同時に消滅してしまったのを失念していた。


 インベントリの素材欄には大量の【化茸の笠】や、ボスドロップであろう【菌床の古木】なるアイテムが詰まっている―――が、こんなものではキノコ狩りの役にすら立たない。


 昨日は延々とキノコ狩りを強いられたため、奴らからドロップした通貨がちりつもでそこそこ貯まっている。ならば今、とりあえず俺が向かうべき先は―――


「あのすみません、武器屋ってどこにありますかね?」


「っえ、あ、うん。武器屋?」


 へいそこの親切そうなお兄さん!ギブミーレクチャー!!


 ◇◆◇◆◇


「いらっしゃいませ」


 優しい御先達に案内してもらい、辿り着いたのは一軒のNPCショップ―――ワクワクしながら扉を潜った俺を出迎えてくれたのは、一人の女性NPC店員であった。ふわりと微笑む美人さんに和やかな癒しを頂戴しつつ、会釈を一つカウンターへと歩み寄る。


「本日はどのような?」


「ちょいと武器が入用でして」


「当店で取り扱っている装備品は、一律で入門用の初心者武器となっておりますが」


「あ、その初心者なんで問題無いです」


 当たり前のようにそう言えば、店員さんは「まぁ」と驚いた様子を見せる。


「では、新たにイスティアへ?新たに稀人の方がいらしたのなんて、半年以上ぶりです」


「おおう……」


 イスティアぇ……不人気だろうとは思ったが、そこまでとは。まあ、きちんと前情報なり調べてからこのゲームを始める人間は、賢く他の陣営を選ぶんだろうが……稀人ってなに?NPCからのプレイヤーの呼び名?


 ともかく、初心者向けの店を営む彼女はそういった事情で必然的に暇を持て余していたのだろう。どこか嬉しそうな様子にほっこりしつつ、俺は商品のカタログを求めた。


「こちらが扱っている品のリストになります」


 そう言って店員さんが手を一振りすると、半透明に輝くシステムボードがスタイリッシュに宙へ展開。わぁゲーム的で素敵。


「ふーむ……」


 初心者用といっても鉄や合金、鍛鋼などと多少の上下はあるようだ。武器の種類も俺がビギナーシリーズで使っていたものは一通りある上、中には変形する大鎌やら鎖鉄球なんて変わり種もある。


 しかしまあ……俺の場合「選ぶ必要が無い」というか、昨日の戦闘内容も加味して大まかなビルドは定まっている感はあるので―――


「鉄シリーズで、全部下さい」


 最低ランクの鉄製武器ならカタログに並ぶ武器種はギリ全部買える。適当に計算してそう告げた結果、


「は?」


 店員さんより笑顔と共にそんなお言葉、というかお声を頂いた。


 別に威圧されたわけではない。単純に何を言われたのかと戸惑ったのだろう。俺としても自身の注文がちょっと・・・・おかしいという事実は弁えているつもりなので、事情説明の文言は用意済みだ。


「あれです。俺は結構色んな武器を切り替えて戦うというか、なにか一本に特化するビルドではないというか、そんな感じなので」


「は、はぁ……」


 あら意外と納得して下さらない―――というよりも、何だ? 少し困っている様子だ。


「あー……と? 何か不都合とかあったりします?」


 もしかして計算間違ってた? 所持金足りないとか……いやこっちの所持金とかまだ伝えてないし……んん?


 俺が首を捻っていると、店員さんは「言っても良いのだろうか」みたいな微妙な素振りで、おずおずと宙に浮いているカタログの一点を指で示した。


 そこは各武器の簡単な詳細が示されているページの片隅、小さいけれど確かに何らかの「数字」が記されている場所で―――


「……おん?」


 あれ、あんな数字あったのか。ビギナーシリーズには記載されてなかった筈だよな? だから見落とし……て、…………―――アイテム重量?


「………………あっ」


「その…………」


 俺が気付いたということに、店員さんも気付いた様子。


 ―――あぁ、そりゃそうだよね。こんな人が良さそうな店員さんの事だ……客の「無知」を指摘するって、気が引けるよね。


 微かに顔が熱を帯びてくるのを誤魔化して、俺はそっと己のステータス画面を開いた。そしてしかと記載されている「限界所持容量」なる項目を見つけると共に、店員さんが示してくれた武器のアイテム重量と見比べる。


 あーそっかー……ゲーム的な異空間収納だけど、その辺の制限はちゃんと厳しいのかー……。


「その……初心者の方の容量ですと、防具や消費品、狩りを行う際の戦利品などとの兼ね合いを考えれば……」


 ……もう良い。もう良いんだよ店員さん。それ以上そんな申し訳なさそうな顔しなくて良いんだよ。


 俺が全てを悟った顔で微笑むと、彼女は恐縮したように微笑んで―――


「大型武器とサブに小型、或いは直剣などの中型二本が限界かと……」


 俺の夢見た歩く武器庫クイックチェンジビルド、終了のお知らせ。


 ◇◆◇◆◇


 ―――さて、この先どうするよ。


 へこんでばかりもいられない。あの後は互いに恐縮しきりで無限にペコペコと頭を下げ合いつつ、とりあえず鉄製の直剣と大斧を購入。武装を仕入れてNPCショップを後にした俺は、その足で推奨レベルの最も低い初心者エリアである【地平の草原】へとやって来た。


 ……てか今更だけど、あのお姉さん本当にNPCだったのか?感情表現やら言葉選びやら、本物の人間にしか見えなかったんだが―――いや、とりあえず今それは置いておこう。


 新規のいないイスティアの初心者エリアだけあって、見渡す限りの平原に他のプレイヤーは見当たらない。このエリアのエネミーである【フールボア】はそこら中にいるが、このイノシシどもは好戦的アクティブエネミーではないらしい。攻撃を仕掛けない限りあっちから襲ってはこないようだ。



 とりあえず先に浮上した問題は、この先のアバター育成方針だろう。昨日は全く気にもしていなかったが、どうやらキノコの森で使い倒していたビギナーシリーズはプレイヤーのインベントリを圧迫しない特別製だったらしい。


 だからあれだけ様々な種類を持ち運べていたという訳で、実際のところ装備品には当然ながら重量が設定されている。短剣なんかは軽く、大剣や大斧のような大型武器は馬鹿重い。


 一応あのお姉さんに限界所持容量を増やす手段がないかとも訊いてみたのだが、彼女が知る限りではレベルアップが唯一の手段らしい―――つまり即座の解決は望めない、閉廷。


 どうも俺の中でクイックチェンジぶっ壊れ説があったんだが、こんな所に落とし穴があるとは……まあ言うて切り替え投擲なんかはやはり壊れている気もするが、様々な武器を切り替えながらのテクニカルスタイルは現実的ではないだろう。


「基本は手数武器で高速戦、ここぞの切り替えで大型武器って感じかね……」


 当面の方針としては敏捷特化の軽戦士で行くつもりだが、どうも俺は大振り一撃必殺も嫌いではないようで。しばらくは基本直剣、切り替えからの大斧で決め技みたいなスタイルになるだろう。


 昨日のように状況に応じて様々な武器へバシバシ切り替えるような戦法は、少なくとも暫くの間は不可能……けどまあ、とりあえずステ振りはこのままの方針で良いか。


 大型武器は握りっぱなしで運用するでもなし、STRへの振り方を見直すまでも無いだろう―――といったところで、


「狩りを始めますかね」


 なお、無理して直剣と大斧を詰め込んだため俺のインベントリは余裕の所持容量限界。回復薬ポーションも持てなければ戦利品すら満足に拾えない、謎のセルフ縛りプレイでお送りいたします。

時間が取れませんで、中途半端ですがご容赦を。

明日明後日はそれなりにごっそり更新予定でございます

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[一言] 共感性羞恥!!!!
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