西の十席
────さて。事前に決定しているチームアップから各々小隊での最終ミーティング、武装や携行品を含む個々人のビルド調整あるいは確認などなど、アーシェが告げた『一時間』の活用法は諸々を挙げればキリがないことだろう。
だがしかし、またしても俺がやるべきことは決定付けられていた。
それはもう当然のことである。先んじて『北の三法』とは挨拶を済ませているが、この場には他にも俺が顔を合わせたことのない特記プレイヤーが……。
まあ、ね。結構な数いらっしゃる訳だから。
「────ぃいっやぁー! ようやく! だわなぁ!」
「────とーんと顔を合わせる機会がなかったでのぅ」
然して、こちらから赴むくや否やの即捕獲。
俺が挨拶に来るものと察して待っていたのだろう、十名……ではなく九名のお歴々が集う場へと来た途端、真っ先に進み出た男性二名に手を掻っ攫われる。
そして強制ハンドシェイクからの、物理的な意味で上下左右ハンドシェイク。熱烈な歓迎は大変喜ばしいが、せめて一言だけでも先に喋らせてほしかった。
カグラさんや。奥の方で大物感を出しつつ笑ってないで助けてくれ。
「あぁ、ええ、っと……ど、ども。あの、東陣営序列四位【曲芸師】ハル、遅ればせながら職人の皆様へご挨拶に伺った次第で────」
「がっはは! んだ堅っ苦しいなぁ仲良くしようぜ兄弟!」
「よう来た、よう来た。評判通りの好青年だわいな」
どうしよう、お手々ぶん回しの刑が終わらない。
なんだこれは、どうすればいいのだ……────と、謎に好意は伝わってくれど対応に悩むタイプの距離感に俺が困り始めたタイミング。
「あーあー、もうほら、ガンちゃんもオジジも手ぇ放すっ! 困ってるでしょ!」
もう一人。目前の九名に連なる者が助け舟を出してくれた。
すると、それぞれペシペシとはたかれた手を素直に開き俺の両手を解放した彼らは……流れるように、今度は俺の背中から顔を出したニアにターゲティング。
「おっとそら来たこっちは久々の顔だぁ! んだ元気してたかニア坊おい!」
「ニアちゃんも、よう来たなぁ。元気そうでなによりなにより」
「あーハイハイありがと元気元気ぃー!」
斯くして、親しげな両名に取っ捕まった藍色娘はぞんざいな挨拶を返しつつ。
「さては無限に話が進まないパターンだなこれ……────ねえちょっと、早く収拾つけてくださいますかー後ろで面白がってるお偉いさんたちー」
文句と共に、瞳を向けた。
さすれば視線の先に在った『お偉いさん』たちは、三人それぞれな赤毛の下で実にバラエティに富んだ三者三様の表情を浮かべて……。
笑う一人、黙す一人────そして歩み出るのが、ただ一人。
「すまんね。賑やかを眺めるのが好きなもんで」
紅蓮の長髪を首元で束ね、飾り気のない無骨な刀匠着を纏った男。
「…………」
口を開けば一も二もなく目が吸い寄せられ、自然と身が引き締まるような思いを抱かざるを得ない御仁。表情は穏やかなれど、貫禄は巨大。
俺が知る雰囲気の近い人物は……────例えば、四谷徹吾氏とか。
「ウチのカグラが、長らく世話になってるな」
「いやいや。こちらの方こそ、世話になりっぱなしです」
つまり、自然体が通る。棲まう次元の違う天上人とラフな会話の応酬を繰り広げることには、幸か不幸か慣れてしまっているから。
ゆえに、小さな深呼吸を一つだけ挟みつつ堂々と言葉を返してみれば、
「なんだ。聞いていたよりも普通に大物っぽいぞ?」
「最初の頃は、もっと世間知らずの可愛げがあったんだけどねぇ」
紅蓮の職人は面白がるように振り返り、そんな彼が投げた言葉を我が専属魔工師殿が戯れに摘まむ。……詳しい関係は聞いていないが、仲良しなのは確定か。
と、いったところで。
「俺らの愛すべき失敗作は、気に入ってくれてるか?」
風格は落とさぬまま放たれた茶目っ気に、こちらが返すは笑み一つ。言葉にするまでもない答えを受け取ってくれたのだろう、彼は満足げに頷いた。
頷き、改めて口を開く。
「────西陣営現主席、【赫腕】の【Enra】だ。よろしくな、ハル」
「よろしくお願いします」
差し出された手を取れば、握手は熱く力強く。
そして、現主席たる彼の名乗りは正しくの呼び水。
「現次席。名乗りは省くよ、知ってるだろう?」
「そりゃもう、深く深く」
次いで飛んできた遊ぶような声音には、親愛の笑みを投げ返すのみ。然らば更に次、視線が交わったのはカグラさんのすぐ隣に在る御方。
「────…………」
ジッと……というか、ジロっと。
俺を見つめる大きな金色の瞳に宿っているのは、果たして如何なる感情か。跳ねっ気が強い柘榴色のショートヘアも相まって、実に気の強そうな雰囲気だ。
………………雰囲気、なのだが。
「……────三席。称号は【灼腕】。名前は【こころ】」
絶対に、口にはしない。なにがあっても、感想を口になどしないが。
「ま、よろしくな」
「ど、ども……」
その、なんというか……ちんまい御姿と、どう聞いても『女児』感が拭えない大変お可愛らしい声音が、貫禄ある表情と雰囲気に死ぬほどミスマッチというか。
いや、うん。重ねて、絶対に失言はするまいってな訳で。
「────はいっはーい!!! そしたらお待ちかねの第四席ぃっ!!!!!」
「【彩色絢美】の【ノノミ】さんですね。先日はお疲れ様でしたハイ次」
「ちょっと待って!!?!?」
「………………………………………………五席、【折紙】、【噤】」
「ツグツグもなんで飛ばしちゃうの!? ノノミちゃんの見せ場がぁっ!!!」
平常運転で喧しい我が友人殿は置いといて、お次の方。
艶やかな黒髪ショートの目隠れヘアー。同じく黒の眠たげな瞳と若干どこぞの『銀色』に似た感じの容姿だが、表情に険の欠片もないため印象自体は全く違う。
よく言えば脱力系イケメン。ぶっちゃけて言えば無気力系ボーイ。
前情報通りの寡黙な御仁らしく、メチャクチャ端的な名乗りを終えるとミッションコンプリートとばかりに黙ってしまった。
おそらく追加の紹介文は望めないだろうし、望むべきでもないだろう。むしろ知る限りの情報では、そも声を聞かせてくれたのが超絶レア案件だ。
ありがとうございました。どうぞよろしく。
「…………ぁ、ハイ。どうもニアちゃんでーす」
で、現六席こと【藍玉の妖精】は背中に引っ付いてるコレとして。
「んだ次は俺か! 七席の【岩寿】だ! 称号は【鉄延】! よろしくなぁ!」
続いては先程、俺を熱烈に歓迎してくれた男性の片割れ。快活元気満点の声音を披露する小さなオッサンこと【鉄延】の岩寿殿。
たわしが泣いて逃げ出すような、ごわごわの茶髪。擦り当てれば子供ガン泣き不可避であろう、モジャモジャ極まる髭の海。そして小柄な体躯に短い脚、両の腕はごん太とくれば……まあ、アバターのモチーフは言わずもがなだろう。
「んじゃ、儂の番。八席【大金持】の【Oz-爺】だよ。よろしくなハル君」
更に続いて、熱烈歓迎ペアのもう片方。
東陣営の大将も大したオジジだが、こっちは正真正銘のお爺ちゃんである。筋骨隆々な岩寿殿と違い、オジジ様は歳を重ねて背が縮んだ様相の小柄スタイル。
豊かな白髭はドワーフ殿に匹敵する貫禄を放っているが、頭部は潔い太陽の様。
「そんな見ないで。恥ずかしい」
「え、ごめんなさい」
でもって、どうやらユーモアは達者らしい。
ついでに筋力などのバイタリティも達者なことは先のハンドシェイクで証明されている。『これ戦場に連れ出して大丈夫か?』などと心配する必要はないだろう。
「………………」
さて、と。
「………………」
「……………………」
「…………………………」
「………………………………」
お次、どうしたもんかね? このままジッと小動物が勇気を出してくれるのを待つのも吝かではないが……────
「ひぃっ……!?」
「えぇ……」
試しに目を合わせてみただけで、この有様。ほんとにどうしたもんかねと後ろに目をやれば、俺のヘルプを読み取ったニアが曖昧に笑いつつ進み出た。
進み出て……。
「はーいシズちゃん、つっかまーえたー!」
「ひゃぁあぁあ……っ!!? ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ……!」
ハイお見事、小動物確保。
「ってことでー……────現九席【雨音一粒】の【雫】ちゃんでーす。お察しの通りメッッッッッチャクチャ人見知りだから、自己紹介は許したげてね」
「あぁ、うん。全然、構わんけども」
山葵色の前髪ぱっつんショートボブ女子。瞳の色は薄緑……というか、全体的に緑色。北方の民族衣装的な装いをしているが、自身の色も纏う色も大体が緑だ。植物の存在する場所であれば基本的に迷彩効果のパッシブが発動しそう。
あと小さい。小さいしメッチャ華奢。東陣営のちみっこペアよりも小さく見えるので、中学生ってか下手すりゃ小学生アバターである。
しかしながら、
「あと、わかってると思うけど〝お姉さん〟だからね。ちゃんと敬うように」
「勿論ですとも」
「私なんか敬わなくていいですぅっ……! 結構ですぅ……!」
この人、ういさんより年上なんだよな。公開プロフィールが事実ならだけど。
素なのか、あるいはロールプレイなのか……謎だが、わりと見ていて面白いので個人的にはどちらでもいい。いやそりゃ超絶人見知りだけならシンプル生き辛そうとか心配にはなろうが、此処に居る通り彼女は他ならぬ序列持ち。
能力も立場も、既に勝ち得ている訳だ。
ならば仮に難儀な性分が素だとしても、キャラクター性としてプラスになろう。
「────……んー、そろそろオーケーかな?」
「あっハイ、どうぞ」
斯くして、個性豊かも並びてラスト。
自分で敬うようにとか言っといて、雫ちゃんさんの頬をモニモニしているニア。そして「ひゃぁああぁあぁぁあぁ……」と悲鳴なのか鳴き声なのか不明な声音を漏らしながら、されるがまま弱々しく儚い雫ちゃんさん。
そんな様子を眺め、これは果たして仲がいいのだろうかと首を傾げている俺の隣。声を掛けてきたのは、いつの間にか傍にいた一人の推定青年。
「じゃ、失礼して。現十席【百発屋】の【バラスト】です。……御覧の通り、キャラが濃い面子のトリを飾るには普通も普通のキャラで恐縮だけど────」
「それギャグで言ってます?」
とまあ、サラッと自己紹介に戯れを挟んだバラスト氏に思わず容赦なきツッコミを入れてしまったが俺は絶対に悪くない。だってそうだろ。
どこの世界に、ティラノサウルスの着ぐるみ姿で平然と初対面の相手に話しかけてくる普通も普通の人間がいるのかと。〝普通〟舐めんな。
「ぁ、ちなみに今のはトリと鳥を掛けて……ほら。羽毛があった説のやつだし」
「頼むからウッキウキな感じでネタの内訳を説明しないでくれますかね。なんだよコレどう接するのが正解なんだよって、懸命に考えてる最中なんすわ」
と、夢が壊された感が否めないため個人的には認めたくないモフモフティラノが、ご機嫌に短い前脚を振り回す様を眺めながら。
「………………なんというか、ニアちゃんや」
「え、はい。なんでしょう」
俺が思うのは、ただ一つ。
「お前、わりかしマトモ枠だったんだな……」
「わりかしって、どういうことかなぁ???」
序列持ちは、どこもかしこも、大体が、どこかしらアレなんだなと。
ただ、それだけであった。
カグラさんが笑っておるわ。
ともあれ遂に出揃いましたよ仮想世界の現ヤベー連中。
八 百 話 を 目 前 に し て よ う や く 。
◇東陣営 イスティア◇
──────Ranker's Title──────
◇First【剣聖】────【Ui】◇
◇Second【総大将】────【ゴルドウ】◇
◇Third【無双】────【囲炉裏】◇
◇Fourth【曲芸師】────【Haru】◇
◇Fifth【左翼】────【Mi-na】◇
◇Sixth【右翼】────【Ri-na】◇
◇Seventh【熱視線】────【雛世】◇
◇Eighth【不死】────【Tetra】◇
◇Ninth【双拳】────【ゲンコツ】◇
◇Tenth【銀幕】────【ゆらゆら】◇
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◇西陣営 ヴェストール◇
──────Ranker's Title──────
◇First【赫腕】────【Enra】◇
◇Second【遊火人】────【Kagura】◇
◇Third【灼腕】────【こころ】◇
◇Fourth【彩色絢美】────【ノノミ】◇
◇Fifth【折紙】────【噤】◇
◇Sixth【藍玉の妖精】────【Nier】◇
◇Seventh【鉄延】────【岩寿】◇
◇Eighth【大金持】────【Oz-爺】◇
◇Ninth【雨音一粒】────【雫】◇
◇Tenth【百発屋】────【バラスト】◇
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◇南陣営 ソートアルム◇
──────Ranker's Title──────
◇First【剣ノ女王】────【Iris】◇
◇Second【重戦車】────【ユニ】◇
◇Third【城主】────【メイ】◇
◇Fourth【全自動】────【Fuji】◇
◇Fifth【剛断】────【オーリン】◇
◇Sixth【騎士】────【Aika】◇
◇Seventh【糸巻】────【Natsume】◇
◇Eighth【足長】────【Re-cood】◇
◇Ninth【詩人】────【八咫】◇
◇Tenth【女傑】────【桜梅桃李】◇
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◇北陣営 ノルタリア◇
──────Ranker's Title──────
◇First【旅人】────【ルクス】◇
◇Second【群狼】────【Gin】◇
◇Third【玉法】────【Sayaka】◇
◇Fourth【鏡法】────【Shoh】◇
◇Fifth【剣法】────【Ren】◇
◇Sixth【散溢】────【Tonic】◇
◇Seventh【大虎】────【タイガー☆ラッキー】◇
◇Eighth【音鎧】────【リンネ】◇
◇Ninth【変幻自在】────【マルⅡ】◇
◇Tenth【雲隠】────【Rickey】◇
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