巴の三人
サファイアは大翼を持つ竜の姿ではあるが、別に羽ばたきを以って飛行を成している訳ではない。ならどうやって飛んでるのと問われたら『知らん』としか答えようがないが、とにもかくにもその事実による大きなメリットが幾つかある。
一つは、飛行における静音性。そしてもう一つは、離着陸において発生する風圧諸々の周囲影響が極めて少ないという実にお利口さんなポイントだ。
然して、
巨大な体躯に比すれば随分と軽い、けれどもヒトと比べれば桁違いの自重。加えて背に乗せた乗員分の重さで流石に軽く地を揺らしながらも、サファイアが静かに見事にスマートな着陸を完遂した瞬間のこと。
「────うぉおおぉお逢いたかったぜサッファイアちゃーんッッッ!!!」
「わぁっ!?」
「ちょ、なにっ」
「あぶっ……!?」
「ひぃっ!?」
脇目もふらずに雄叫びを上げるまま突っ込んできた元気一色の狼藉者が星影の胸部に着弾し、ういさんを除いた外見年少組三名+藍色が突発の揺れに声を上げた。
なお俺含むその他は一切動じず。狼藉の予備動作を見て取っていた組は一様に、容易く予測が利いた今をハイハイと流して順次下車もとい下竜の流れ。
「ほどほどにしとけよー」
「オッッッッッッケーぃ!!!!!」
「ほどほどのテンションじゃねぇんだわ」
で、なんもかんも吹っ飛ばして自由を謳歌する若草色────北陣営の序列一位様こと【旅人】は一旦放置して、とりあえず俺は〝挨拶〟に臨むものとする。
「「「────……」」」
こちらを見る目が、計六つ。……いや周囲から浴びるほど注目を集めちゃいるが、その中でも特筆して三名分。正面にある瞳を流石に優先するべきだろう。
女性が一人に、男性が二人。その表情は二分されている。
片や女性一人。穏やか、というよりは自然体。ルクスとは別方向の大物感というか……ある種の迫力を静の中に宿した、長い鴇色の髪を揺らす華奢な乙女。
向けられるのは、柔和な色を描く鮮やかな緑の瞳。
片や男性二人、スラリとした体躯の青年たち。やや厳しく引き締められた表情は、おそらくの警戒色。女性を守護するように両脇を固める彼らは、背の中ほどまである栗色の髪を流しているか縛っているかで判別が利く以外は瓜二つの容姿。
向けられるのは二人同じく、鋭さを感じる深みのある青の瞳。
共に同一の趣向が凝らされたモノクロの神官服を纏っているところまで含め、絵に描いたように〝一揃い〟感が甚だしい三人組である。
────成程、なるほど。諸々、おおよそ事前情報通りの御方たちらしい。
然らば、挨拶は後輩から。
「お初にお目に掛かります。東陣営序列四位【曲芸師】ハル────」
そうして、当然の礼を以って交流を開始しようとした矢先だった。
「────ずっと、お会いしてみたいと思っていました」
甘やかで朗らかな声音が、堂々と俺を遮ったのは。
「…………」
『まさか』が半分。『やはり』が半分。そして毛ほどの『嘘だろ』が一抹。然らば、俺と同じく〝彼女〟のことを識る者たち……。
中でも、背中にいる女子二人分の視線が背中に刺さるのを明確に感じた。
「ご活躍、台頭された頃より余さず拝見していますよ。惚れ惚れするような〝主人公〟の様、日々とても楽しませていただいています」
「そ、それは、どうも……」
おっとり柔和そうな外見に反して、その口調はハキハキとしたもの。声音自体は柔らかいのだが、こう……言い知れぬ圧というか、力がある。
そう、やはりなんというか、迫力が。そしてなにより────
「あの、近いっす……」
距離感よ。ズズイズイズイと容赦なく踏み出すや否や真実目前。いつの間にやら攫われていた俺の右手を恭しく両手で包み、顔の距離は実に三十センチ未満。
背中に、視線が、ザックザク。プラス正面にある四つの青い瞳も剣呑な色を宿しているが────まあ、そっちについては心配いらない。
というか、むしろ……。
「────ハイ、そこまで」
「────サヤ姉、おしまい」
「っ……あら、あらら」
俺から彼女をバリィッと容赦なく引き剥がし、いろんな意味での安全確保を買って出てくれた彼らは、間違いなくこちらの味方であるゆえに。
そして、
「……ご存じでしょうけども、申し訳ないです」
「いえいえそんな」
ある意味での〝問題児〟を一名が捕獲し、俺の前に残った方のもう一名。髪を流している方の青年がスッと警戒色を解き、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「挨拶が遅れました────北陣営序列四位【鏡法】の【Shoh】です。……姉とは別ベクトルですけど、お会いしたかったですよ【曲芸師】さん」
「あぁ、どもども」
そうして、フレンドリーに差し出された手を握り返していれば、
「────では、僕も。こんな形で失礼しますが……同じく北陣営序列五位。【剣法】の【Ren】です。先日のトラデュオも見ましたよ、お見事でした」
「それはそれは、恐縮です」
安全距離を確保した向こう側。髪を縛っている方の青年が、大人しく捕まりながらもプクーと頬を膨らませている女性を確保しつつ次いで挨拶。
で、言葉を返しながら。あまりにも事前にリサーチした情報通りで『大変だなぁ』と、俺が他人事のように苦笑いを浮かべていれば……。
「「ほら、サヤ姉、挨拶」」
「んもう、わかってますってば」
どこぞの双翼ほどではないかもしれないが、息ピッタリ。二人の〝弟〟に叱られるようにしてから、戒めを解かれた女性が改めて俺へと向き直る。
………………で、またジッと。緑の瞳が俺を長々眺めた末に。
「────北陣営序列三位。【玉法】の【Sayaka】と申します」
ノルタリアの三番手。一位から五位までを埋める『北の不動席』の真ん中へ座す彼女────人呼んで『魔性の聖女様』は、実に魅力的な……。
「うふふ……」
「………………」
訂正。実に綺麗で、危うく、妖しい笑顔を俺に向けるまま。
「どうぞ、仲良くしてくださいね────ハル様」
最早それを狙ってやっているのではと思うほど間接的に俺の背中を滅多刺しにしながら、独特が過ぎる空気感を存分に振り撒いていらっしゃった。
おそらく語尾には大体ハートマークが付いている。
聖女様が暴れたせいで怒涛の新キャラ登場がつっかえた起訴。