カップル(未来形)
「────っ、おっかえ……り? ぇなに、どったの」
半刻ばかりの慣らしを経た後、戻ってきたのは再度の円卓。眩い転移の光を過ぎれば果たして、大方の予想通りというか出迎えは一人。
待っているだろうというのは疑うべくもなく。そして周囲に残る者が一人もいないというのは、どうせ気を遣われたゆえのことだろう。
この程度のお節介なら、まあ。ありがたく受け取っておくべきか。
「くっ付くな。まだ、だろう」
「んぇーなんだよこのくらいなら前からしてたっじゃーん……!」
「ズルズルいくものだぞ、こういうのは。線引きは緩めるな」
健気にとてとて駆け寄って来るまではヨシとして、そのまま飛びついて来ようとするのはいただけない。魔法士ビルドとはいえ現実の比ではない肉体強度に信を置くまま、空中でガッと頭部を捉えたならば飛んでくるのは悲鳴ではなく文句。
文句……と、ニヤぁっと浮かべられた笑みが一つ。
「っふぅ~んズルズルいっちゃうんだぁ? そっかー、いろりんでも流石にズルズルいっちゃうんだぁ~? っっっふぅ~ん???」
「ウザさが進化を遂げているな……」
けれども、そういった揶揄いに関しては否定を投げぬと決めている。
これまで想いを秘して来れたのは単純に囲炉裏の演技が卓越していたというより、元より自分がわかりにくい性質というのも大きいだろう。
ゆえに、
「あまり男を舐めた真似をしてくれるなよ。泣く羽目になるのはそっちだ」
と、素直に正直に警告を放てば都合一撃。
「ぁ、はぃ……わかりました」
一体なにを想像しているのやら、笑みは引っ込め戸惑い諸々。
引っ掴んでいる頭が熱くなってきたの放してやれば、危なげなく着地したミィナはそそくさと距離を取り自分の席へ退避していった。
至極、可愛らしいものである────とまあ、戯れに一息が着いたところで。
「ん、ん-でっ? どしたのさ、変な顔して」
誤魔化しめいて投げられた問いは、先程と同じ。取り繕ったつもりでも読み取られたということは、やはり自分にとってアレは衝撃が大きい事実だったらしい。
「いや、別に……………………小学生。小学生、並み、か…………」
そうして、意識せず、つい口に出てしまったのも真実その証左だろう。
「は? 小学せ……────え? なに? ケンカか???」
「馬鹿め。お前に言った訳じゃない」
「それヤメテ『馬鹿め』ってやつぅ!!! いろりんの馬鹿真面目フェイスで冷たく言われると本当に自分が馬鹿なんじゃって思いそうになるからぁ!!!」
「……?」
「なに! なんで首傾げた!?」
「お前はアホではないが、ある種の馬鹿なのは間違いないだろ」
「なぁんだとこんにゃろーッ!!!」
「つまりは馬鹿同士、似合いということにしておけ」
「へぁっ!? ────ムカつくぅッッッ!!!!! なんなんコイツなんなんサラッとそういうことサラッと言うようになったな爆速でツボ押さえんなぁッ‼︎」
と、失言から生じた戯れの次号をいなしつつ。
今にして思えば、言われてみれば、深い納得しかないかもしれない後輩曰くの『事実』を思考に置いて……避け得ず想起するのは、まだ日が浅い過去のこと。
わからない。
どうなることかは、全くもってわからないが────
「これは〝借り〟と言うより〝罪〟……に、なるのか」
「ハイそうですね自覚あるようでなによりじゃんッ! なんの話してる!?」
襲い来る愛らしいちみっこは、ひとまずさて置いて。
大人だと思っていた。けれども、よくよく考えれば年の頃など大して変わらない御人。思い返せば確かに、常に無垢無邪気を内包していた彼女。
そんな少女めいた女性は、果たしてアレを正しく告白と受け取っていたのだろうかと。そして、もし正しく受け取っていたのなら────
自分も奴も思わぬ変化を、遂げてしまうのではなかろうかと。
「不覚だな……」
「こっち見ろーいッ! 未来の恋人の相手しなさーい!!!」
囲炉裏は珍しく単純な罪悪感からくる溜息を、ただ一人だけに晒していた。
短いけど圧縮糖度ゆえの質量はあったと思うから許して。