ぐだぐだいすてぃあ
……で。めでたい話は大いに結構だが、本題は勿論それじゃない。
当たり前だろ。
今日この日を何と心得る。畏れ多くも仮想世界最大規模の攻略事、対『緑繋』を明日に控えた決戦前夜にあらせられるぞってな訳で────
「あー……! なんだッ……! とにもかくにも、明日だ。なぁッ……!」
どうにかこうにか機能停止から舞い戻ってきたゴッサンが奮起して音頭を取り始めるが、しかし全くもって悲しいほどに普段の威厳の欠片もない。
絶妙な空元気っぷりが透けて見える様は、我らが総大将ってよりも年頃の若者に翻弄されて多大なる疲労感を背負ったお父さんってな感じ。
ゴッサンは囲炉裏との仲も良好だが、更に輪を掛けて二人のちみっこを可愛がっていたってか現在進行形で可愛がっているのは周知の事実。
つまるところ……。
「んっふふ、パパ大丈夫ぅ? そーんなショック受けちゃった感じぃ?」
「おいやめ、やめろ。お前、やめろ。パパとか呼ぶんじゃねぇ、やめろ……ッ」
まあ、常ならば上手にあしらっていただろう赤色の適当な絡みにもこの通り。いまだ衝撃が冷めやらぬのか、見たことない狼狽え方をしていらっしゃる。
娘ならぬ孫娘が巣立っていく様を見せ付けられた……的な感じで、寂しい祖父めいた心境にでもなっているのやもしれない。強く生きてほしい。
「なーんかなぁー? そこまで可愛い反応されちゃうとなぁー? どうしよっかなーってなるよねぇーほーんと肩でも揉んだげたくなっ────」
「おいハルッ!!! お前さん調子はどうなんだよ!!!!! えぇッ!!?」
「ッうわビックリした、どんな逃げ方だよオジジ……」
「 オ ジ ジ じ ゃ ね ぇ ッ ! ! ! 」
ともあれ、いつまでもこのまま仲良し十席(一名欠席)でイチャ付いている訳にもいくまい。出来る限りの備えは既に済んでいるとはいえ、流石にね?
大事を前に、一応は最低限、気を引き締めとくべきだろうから。
「俺らについては、まあ、なんとか。なっちゃん先輩は元より、ニアが想定の十倍ハチャメチャに頑張ってくれたもんだから……ごめんて。睨まんといて」
「どいつもこいつも揶揄いやがって……──そうか。ま、報せが無いのは良い知らせってな。アイリスがなんも言ってこねぇ以上、特に心配はしてなかったがよ」
ので、そろっと軌道修正の助力をば。
恐ろしいのは我が陣営十席。世間じゃ『頭曲芸師』とかいう不名誉極まりない通り名が叫ばれているらしい、俺でさえ常識人枠とかいうヤベーとこだから。
最近は雛さんも割とイスティアであるという事実を呑み込み始めたゆえ、これからは積極的に大将殿の胃腸事情に配慮していこうぜってな所存である。
「協力を要請した身からすりゃ聞きづれぇが……一応、お前さんらを陣営代表として送り出す立場から確認させてくれ。使い物にはなりそうか?」
然して、投げ掛けられたのは昨日の俺も思考した言葉。
結局のところ二日間ぶっ続けで飛び続けたとはいえ、トータルの特訓時間は精々が二十時間程度といったところ……当然のこと、あまりに少ない。
だから俺は、純粋に今へ至って自分が抱いている所感を正直に告げるだけ。
「問題ナシ。俺らのスリーマンセルは、間違いなく機能する」
欲目も希望的観測もナシに、ただ信じる事実のみを。
「っは、そうかい。流石、藍玉の嬢ちゃんは根性あんな」
さすれば、機嫌良さげな笑み一つ。なにが『流石』なのか、なにごとに掛かった『流石』なのかは知る由もないし、おそらく突っ込まないのが吉だろう。
したらば、次。
「こっちも問題ないよ」
視線を振られたタイミング、問いを待たずにテトラが言う。
「僕ら二人は正直なとこ、どうしても最終的にカナタ次第にはなるけど……」
言いつつ、黒尽くめの後輩は何故だかチラと俺の方を見て、
「まあ、大丈夫でしょ。本家が留守の間で、ますます曲芸師風味になったし」
「なに言ってんの?」
「そうか。なら心配はいらねぇな」
「なに言ってんの???」
と、堪らず『どういう会話だよ』とツッコミを連打したら三つ隣の一位席、ういさんが密やかにたおやかにクスリと笑みを零していらっしゃるわ。
まだ俺が知らぬ後輩二号の成長幅を知ってのことか、はたまた単純に俺が弄られているシチュエーションをお気に召しておられるだけかは謎である。無条件に『楽しそうでなによりです』と思ってしまう時点で、俺も大した弟子っぷりだ。
然して、次。
「さて、んじゃ……うい」
「はい」
総大将の視線が向いたのは自然そちら。先日の『トライアングル・デュオ』に引き続き、年単位でブランクのある公の場へ赴くことを決めた〝友〟の元。
目を向けて、見合って……そして数秒の後。
「っは、心配すんのも馬鹿馬鹿しいぜ」
「まあ、なんてことを言うのでしょう」
快活に、淑やかに。二人して対極的な笑いを交わし、それで終わり。
「楽しんでこいよ」
「えぇ、努力します」
「努力……────いや、そうか。努力で、まあ、間違っちゃいねぇんだな」
無粋なツッコミで、口を挟む者も在りはせず…………若干一名。最後に大将殿から面白がるような目を向けられた俺だけは、半眼を返す権利があっただろうが。
んで、最後。
「囲炉裏」
「あぁ」
さて……はっけよーい、とか言った方がよろしいか?
「………………」
「……………………」
「…………………………」
「………………………………」
「「……………………………………………………」」
東陣営イスティアが対『緑繋』攻略へ送り出す序列持ちが四名、その最後の一人。例の開幕砲撃をぶっ放した片割れこと無敵侍とパ……総大将の見合いが発生。
互いに一歩も引かぬ睨み合いに見えて、その実ゴッサンが一方的に押し負けている事実を観戦者全員が確信する、無言による交流の果てに在ったのは……。
当然のこと、勝者と敗者が一人ずつ。
「…………────ミィナ、肩でも揉んでやれ」
「おい」
「よしきた任せろーいっ!」
「おい、っちょ、テメ囲炉裏こらッ────お前も揶揄う側かよ!!!」
睨み合いからの一撃決殺。
決まり手は…………なんだろうなコレ? ちみっこ爆弾? 隅々まで意味がわからないが、様子を見るにオッサン相手には威力絶大らしい。よかったね。
とにもかくにも、招集した当人たる【総大将】がバグらされたがゆえグダグダのまま収拾が付かなくなった〝壮行会〟……確かに今更ミーティングだのを要する訳でもあるまいし、緊張を解すという意味では成功と言っていいのだろう。
だからまあ、とりあえず。傍から言っとくべき感想としては。
「なんだこれ」
脱力一言。その程度が相応しいはずであった。
ねぇ、もうすぐ『緑繋』攻略ターン始まるってマジ?
気合入れて描く時間は何処に落ちているのかしら???