いつもの
「────成程ね。ま、悪くなかったってんなら重畳だ」
「いやもうバッチリっすよ。やっぱ俺、長物が合ってるのかもしれんすわ」
相も変わらず物が少なく伽藍とした部屋にて、静寂を乱すは声二つ。
ってな訳で目的地その一は当然というかお決まりというか、なにかあればとりあえず顔を出しとけでお馴染み専属魔工師殿ことカグラさんの工房だ。
というか、トラデュオ終了から秒で旅行が決まり翌日には出立することになった為に予定をずらしてもらっただけ。本当ならイベント翌日に装備諸々の調整を頼む約束になっていたので、多忙な御仁にドタキャンで悪いことをしてしまった。
「それ、世間が聞いたら一体どんな反応をするもんかねぇ。アンタは確かに多様な武器を使うけど、お決まりのイメージったら〝短刀〟か〝刀〟だろうに」
けれども幸い、俺が持つ唯一の『長物』を検めながら紅髪の着物美人さんは機嫌良し。いつも通りにラフな声音の姐さんスピーキングが実に耳心地良い。
「……そうか。兎短刀カテゴリ的には『短刀』だっけ」
「なにすっとぼけてんだい。兎短刀だって言っただろうに」
「いやぁ〝刀〟というには、こう……けったいな形をしてるもんだからさ? 見慣れたけども。分体に至っては普通に短剣型だし」
改めて言われてみると、そうか。【兎短刀・刃螺紅楽群】&【早緑月】の並びで、俺の主武器って刀カテゴリに占められて────あ、ヤベ。
「ちょ、待てコラ落ち着ぉっごッ……!!!」
瞬間、光り瞬いた右の指輪に危機を察知し弁明を試みるも時すでに遅し。主の言い訳よりも早く現出した魂依器の柄頭が痛烈に俺の鳩尾を打ち抜いた。
炸裂するヒット音。
ビクリと肩を撥ねさせるカグラさん。
もんどりうって盛大に椅子ごとぶっ倒れる俺。
カラカラと景気よく笑うカグラさん。
そして『思い知ったかアホめ』とでも言わんばかり。制裁を喰らった俺の頭上をこれみよがしにクルクル回り、一仕事終えた感を出して指輪へ戻る我が愛剣。
「………………刃の側じゃなかっただけ、愛されてると思っていいんだろうか」
「ふ、くく……っ…………あぁ、そりゃもう、愛されてるんだろうよ……!」
「笑い過ぎでは……?」
おのれ【真白の星剣】め……最近は反抗期も抜けてきたと見せかけておいて、ふと気を抜くと大抵コレである。俺の愛は伝わっていないのだろうか。
なんだよ。出番が少ないとでも申すのか? なんだかんだでマジでしんどい場面とか、ここぞって時には割と真っ先に頼ってるじゃん……。
「トラデュオでほとんど使われなかったのが、気に入らないんじゃないのかい?」
「ん? ぁ、それはないっす。コイツ対人戦に興味なさげなんで」
「……へぇ?」
あれ、言ってなかったっけ……いや、そういう風に思われたってことは言ってなかったんだろうな。これについて共有してるのはソラさんだけだったか。
「エネミー相手だとメチャクチャやる気になるんすけどねぇ。なんか対人で使うとノリ悪いというか、自律機動させてもキレがないというか……」
「ほう」
「『真白ノ追憶』とか必殺技とかの特殊能力に至っては発動すらしてくれないしさぁ……お願いしてもガン無視するんだぜコイツ、酷くない?」
「ほほう……?」
なにやら興味深げな顔でニヤニヤしていらっしゃるが、持ち主としては全くもって困った話である。つまるところ『そりゃそうだろ』って話。
なにかと癖が強過ぎて、主武器に据えるには難儀が過ぎる………………おいコラ早まるなよ、別に文句を言ってる訳じゃないからな? 俺が癖つよな変わり者もとい変わり物が好きなのはお前もよくご存じだろう本当マジで文句を言ってる訳じゃなく個性や主張は尊重していく方針であってさっきも思った通りそれはそれとして特別な切り札めいたポジションで頼らせていただいてる所存でして────
「まあ、奇天烈と奇天烈で似合いなコンビ芸は置いといて」
「それ、星剣がツッコミ役ってことだよね。俺がボケ役ですか?」
「できたよ。注文通りに仕上がってるはずさ」
「こちらもこちらとてガン無視……はいはい、ありがたき幸せっと」
いつも通りのサバサバっぷり。会話の最中も続けていた魔工作業を終えたらしく、カグラさんがヒョイと投げ渡してきた長槍を貰い受ける。
【魔煌角槍・紅蓮奮】────改め、ミナリナ戦で初お披露目と相成った〝兎〟&〝鯨〟の融合作こと【魔紅蒼槍・鯨兎】である。
リメイク強化品とはいえ、見た目的に目立った変化はない。大元の素材である【紅玉の弾丸兎】の魔煌角を活かしたシンプルな造りで、ワンポイントとして刃と柄の境界部分に洒落乙な非実体布が揺れている形そのままだ。
唯一の変更箇所は、槍の穂先と逆側の石突部分。以前までは刃と同じ魔煌角の小片を備えていたが、今在るのは紅と蒼が混じり合う菱形の結晶。
他ならぬ【水俄の大精霊 ラファン】からドロップした稀少素材、その名も【水俄満星ノ涙滴】を組み込んだ強化パーツ……というか、完全改造パーツである。
簡単に言えば、この改造によって『紅槍』改め『紅蒼槍』は槍部分がオマケになった。いや別に槍としても十分ハイグレード品として実用に足るスペックはあるのだが、それよりなにより石突部分のアレコレがオバケ性能になってしまった。
それというのも……。
「お。いいねいいね、いい塩梅だ」
ちょいっとMPを────いやちょいっとどころの騒ぎではないのだが、魔力をくれてやればこの通り。現出する水光の大鎌が、かなり凶悪なスペックであるゆえ。
前回四柱で披露した《紅蓮ノ刃》の機能魔改造版な訳だが……コイツはこの通り自前のコストで出せる上に魔法をぶっ叩けるだけでなく、物質的なダメージも与えられる完全上位互換。威力についても槍運用の遥か上をいくことだろう。
更にはダメージを与える、あるいは触れた相手からHPだけでなくMPまで奪うという鬼畜仕様。加えてMP奪取能力は俺の精神ステータス依存で働くため、表裏どちらで使ってもエゲつない量をぶん捕ってくるときたもんだ。
HPもMPも俺たちプレイヤーとは総量の桁が違うらしいエネミー相手ではリソース圧は掛けられないが、言わずもがな対人戦だと超凶悪。
掠っただけでも情け容赦なくガッツリMPを削ぎ取る上、なんならミナリナ戦で〝壁〟の上から二人のMPを喰らったように武装、または魔法、または能力など至近かつ繋がりのあるものなら容赦なく接触判定を通せてしまうひっでぇ仕様だ。
更にさらにリメイク前と同様、奪った魔力は鯨兎の能力行使に回せてしまうので上手く扱えば燃費問題も解消できてしまうオマケ付き。
総評、至極単純にぶっ壊れである。もし俺が運営サイドなら即日で禁止武器判定を下すことは間違いなしだ────とまあ、それはさておき。
「ちゃんと扱えんだろうね?」
「問題ない。デカい武器だって慣れっこだ」
そんな新顔の何処を調整してもらったかといえば、大鎌のサイズに他ならない。
「…………大鎌だけに大きさ調整────」
「張っ倒すよ」
「ごめんなさい」
降って湧いた激寒ギャグは蹴っ飛ばすとして、いい感じ。
ミナリナ戦での運用感を踏まえて二回りほど大きくしてもらったのだが、軽く振ってみるだけで『これぞ』ってな感覚が手に宿っている。
二メートル……は、流石にないか。それでも真っ直ぐ伸ばせば俺の身長には届くだろう巨大かつ肉厚の非実体刃は、半透明にあるまじき存在感。
いいね、いいよ。実戦運用が実に楽しみだ。
もうコレ前後逆転して穂先が石突と化してるよねとか言ってはいけない。どちらも上手いこと扱うビジョンは描けているので、余す部分なく働いていただこう。
「さて、他には?」
「特になしッ!」
「そうかい。なら、さっさと行きな」
然して用件は終わり。例によってサッパリキッパリと俺を追い払おうとするカグラさんに、今更『つれないな』と苦笑いを向けたりはしない。
なぜって、こちらもサッパリキッパリ颯爽と背を向けて扉へ向かえば────
「────舞台、しっかり楽しませてもらった。次も期待しとくよ」
「おうとも、ご期待あれってなもんよ!」
ほらな、気持ちのいい声が背中を押してくれる。
ならば俺はグッと親指を持ち上げて、威勢よく返しときゃ万事オーケーなのだ。
× 至極単純にぶっ壊れ
〇 わりと馬鹿みたいな初期費用を支払える、なおかつ奪取能力を脅威に引き上げられるだけのMIDステータスを確保した上で、バッチバチに近接戦をこなせる意味不明なビルドでないと運用リスクがメリットに見合わないゆえのぶっ壊れ。
ちなみに《水魔法適性》&《水精霊の祝福》が揃っていないと素材となった【水俄満星ノ涙滴】が力を発揮してくれないので、実質ラファン完全攻略者限定武装。なお結果としてMP奪取という形になっているだけで正確には存在ど────
なんか久々に詳しめの武装解説したね。楽しかった。