れくりえいしょん
旅先で如何にして過ごすかというのは、言うまでもなく人それぞれだろう。
観光スポットへと赴くのか、名物を求めて見知らぬ土地を練り歩くのか……はたまた、ただひたすら宿に留まりながら身も心も癒し尽くすのか。
大学生ともなれば大人と子供の狭間であるゆえに、それこそ心惹かれる選択肢は無限に等しい。我が友人たちも例に漏れず、朝っぱらから『あーでもないこーでもない』と当日の予定について熱い議論を交わしていたが────
正直、俺は盛り上がっている様を傍らで眺めながら確信を抱いていたよ。
パッと見お手本のようにイケてる大学生グループめいた外面の癖して、かの四人は多少なり程度の差があれど等しく『惹かれるモノへ一心に情熱を捧ぐ者』たち。
即ちオタク。つまるところ……。
「────それでは第一回! 仁義なき人生ゲーム大会を開催しまーっす!」
最大の関心を向ける対象であるプレイヤーが二人も傍にいるという状況で、わざわざ何処かへ足を運ぶなんて思考にはならないということだ。
旅行二日目の午前。朝食を食べ終えた後、気付けば姿を消していたメイドに置いていかれた六人が集ったのは例によって男部屋。
白熱の議論の末に可決されたのは迫真の引き籠もり案。はいはい知ってたと特に驚きもない俺と俺の様子を見て諸々を察していたのだろうソラさんを巻き込み、昨日に引き続いてテンション高めな翔子の音頭に他三人から拍手が並ぶ。
元気だね君たち。結局昨夜は午前三時頃まで騒いでいただろうに。
「ちなみにだけど、君ら観光地に関心は────」
「ないっ!!!」
「あんまし」
「特には」
とのことで。ノーコメントの楓については興味ないこたないのだろうが、それよりもこっちを優先しただけなのだろう。いつもの如く常識人な令嬢めいて淑やかな笑みを零しちゃいるが、君が誰よりアレなのは知ってるんだからな限界オタクめ。
あれだ、アレ同士リンネと親友になれそう。ともあれ、
「まあ別になんでもいいけど……なにこれ、タイトルどうなってんの」
翔子のノリとかではなく、卓上に鎮座しているボードには本当に『仁義なき人生げぇむ』と刻銘されている。言っちゃなんだが嫌な予感しかしない。
「やー、なんか女将さんに『なにか遊べる物ありませんかー?』って聞いたら遊具室に案内してくれてさー。お好きなのをご自由にって言われたから、面白そうなのを片っ端から持って来ちゃったぜ────いぇいっ!」
「そうですか」
「ねぇ見た俊樹。翔子ちゃん渾身のウィンクをガンスルーされた件について」
「ウィンクだったのか今の。目ぇ乾いてんのかと思ったわ」
「なんだ貴様ケンカを売ってんのかね。表出なさいよ」
仲いいね君たち。と、じゃれ合っている幼馴染は置いといて。
隣の相棒へ目を向ければ、他ならぬボードゲームが趣味の四谷お嬢様は不穏な空気が漂う『人生げぇむ』とやらを興味深げに眺めている。
「俺こういうのアナログデジタル問わず未経験なんだけど、ソラさんは?」
「へ、ぁ、えと……私も初めて、です」
反応から察しちゃいたが、互いに初心者らしい。流石に概要程度の知識はあるが、なにをどうしていくゲームなのかはフワッとしか……まあ、どの道。
「んじゃ早速やってこうぜー! 勿論ビリの人は罰ゲームでーす!!!」
「こういうのって言い出しっぺが喰らうのが最高に美しいよな」
「狙い撃つ?」
「あ、はは……お手柔らかにね」
「わかった。お手柔らかに狙い撃つ」
「ちょっと楓ちゃん?」
「ちょ、そういうことじゃなくって……!」
このテンションに巻き込まれる以上、平穏な遊びにはならないのだろうが。
◇◆◇◆◇
「────おい、なんだよ『破産して自分を質に入れる ずっと休み』って。己の身柄を預けてどうするつもりだったんだアホなのか俺は」
「希、お前……」
「希君、ちょっと、あの、言いにくいけど……」
「感動的なくらい運が無い」
「にひ、トップ独走のソラちゃんとはえらい違いだねぇパートナーさぁん?」
「笑ってないで助けてくれ。誰かの慈悲を受けるまで『ずっと休み』とか遊びとして破綻してんだろ、いい加減にしろよこのゲーム」
「まさに『仁義なき』」
「仁義ってか『心なき』じゃね?」
「俊樹が上手いこと言ったような顔して腹立つんで助けてあげませーん」
「おい救いの手が断たれたぞ。いい加減にしろよ俊樹」
「おかしな流れでヘイト向けんなよ────っと、なになに……『株で大失敗 持ち金の半分を失い離婚する』……………………端的に容赦なさ過ぎじゃね?」
「さよならアナタ」
「我が妻も淡白すぎて泣けてくるぜ」
「残った半分は慰謝料として私に入るらしいから、旨味しかない」
「おい、いい加減にしろよこのゲーム」
「っは。お前も底辺の気分を味わうといい」
「破産しただけじゃ飽き足らず質屋に飼われてる奴と一緒にすんな」
「飼われてるとか言うな。……ソラさん、なに笑ってんの」
「わ、ふっ……笑ってません」
「いや全く微塵も隠せてないから。くっそ、早く誰か助けてくれ……!」
「はーもー仕方ないなぁ。慈悲深い翔子さんが助けてあげましょうかねぇ」
「なにその唐突な掌返し。いやありがたいけども」
「ってことでノゾミン、今から私の奴隷ね」
「は?」
「いや、そう書いてあるし。ほらここ」
「は?」
「『ルーレットで出た目×1000万円で人権を買い取り奴隷にする』って」
「は?」
「ちなみに、出目『1』だったから。はい一千万お支払いっと」
「ぶっはッ……!!!」
「最安値……」
「希君……」
「…………………………………………」
「ん、ふ……あ、あの、ハル。ゲームですから、あの、元気出して…………」
「ちっくしょうどいつもこいつも人の不幸を笑いやがって絶対に許さん……ッ! 覚悟しろよ諸君、俺はこれより『人生げぇむ』の修羅とな────」
「じゃあ修羅奴隷さん。これから君の収入の九割は私のだから、頑張ってね」
「は???」
「んふふ────いい子にしてたら、ちゃんと養ってあげるから」
「…………………………」
「……ハル?」
「ちょっと待って、なに。違う。今のは屈辱に打ち震えていたのであって、決しておかしなことを考えていたとかそういうアレでは決して」
「ちなみに私、一位権限として『指定プレイヤーの人権を持ち金の半分で強制的に買い取ることができる』券を持っているんですけど」
「人権軽視し過ぎだろこのゲーム!!!」
一位ゴールは修羅奴隷の人権を買い奪った上でなお独走した四谷令嬢。