ミナリナ
────推測通り、あの『剣』は決して一切の付け入る隙がない無法物という訳ではないらしい。当然とはいえ、改めて無事確立した事実に息を一つ……なんて、
「追、加っ……!」
「ぃよいっしょぉッ‼︎」
そんな暇さえ、努めての無表情の裏に在りはせず。
あくまでも他より効きが悪い程度で『特効』には変わりなく。〝魔〟と付くモノに対する現アルカディアの絶対解を携えた【曲芸師】を近付かせまいとすれば、裂かなければならない思考リソースは先程までの比ではない。
そして、これはタッグマッチ。目を離せない相手は、もう一人いる。
「ぁヤバ────ナイスぅリィナちゃぁんっ!!!」
下書きが間に合い、当たり前のように一切のラグなく清書が重なり、描き出された〝風〟が周囲四方八方にて炸裂した爆炎を流し逸らして退けた。
雛世の魂依器【六耀を照らす鏡面】が起こせる現象は二つ。任意空間の発火及び、その能力を行使することで銃に蓄積された熱を放射すると共に〝ステージ〟を引き上げる、必殺と強化行動を並行する大技だ。
並みのレイドボス程度であれば容易く致命を与える後者の脅威度は言うに及ばず、小技と言うには火力が高過ぎる前者も全くもって恐ろしい。
名が体を表すように視線によって指定される発火座標は、一定以上のスペースがある空間限定。つまり目標を直接ボンなんてことは不可能であり、あくまで巻き込む必要があるため防御の余地は残されている……が、それだけ。
予備動作は瞳の動き一つ、予兆は些細、発動速度及び火力及び行使間隔どれをとっても隙がないこちらも、遍く〝敵〟にとって致命と成り得る権能だ。
単身にて、これである。正直、今でも冠は引き継がれてなど────
「集っ中ぅ!」
「っ……!」
解消することのない、悪い癖。相方に比して大したことのない思考速度の上、余計な思考を排斥できずレスポンスを落としかけたところを呼び戻される。
いつもこれだ、ままならない。
生まれた時からの付き合い。もう今更、半身のような隣と比べて一々なにかを思うようなことはないけれど……それはそれとして。
追加弾幕描画五百、割り当て半々。
「うぉっは、頑張るじゃんさっすがぁ!」
せめて隣と対等の外面は維持できるよう、頑張ってみせるとしよう。
◇◆◇◆◇
まーたアレコレこんな時にも考えてるなコイツめ、というのが丸わかり。
世界で唯一人相方の気だるげ無表情の裏を正確に読み取れると自負する『隣』は、チラと盗み見たリィナの横顔に薄く笑った。
生まれた時からの付き合い。もう今更、半身のような隣に一々なにかを言うようなことはないけれど……それはそれとして、自覚の日は遠そうでままならない。
頭の回転どうこうとかじゃなくって、いつもいつもいつもいつも余計なこと考えすぎなんだよ、と────で、それこそが他でもない〝長所〟じゃん、と。
とりとめのない思考を、わんさか並べ立てられる。つまり思考速度とはまた別の並列容量、それだって立派な才能だ。自分はそんなもの持っていない。
延いては、多種多様な『幻想』を描き出せる想像力と瞬発力。後者に関しては負けちゃいないと自負しているが、前者など完全なる優位点に他ならない。
だから本当に、笑うしかない。片方は現在進行形で改善の気配を見せているとはいえ、二人が己自身へ真に信頼を抱けるようになるのはいつのことやらと。
あぁ、いや。二人じゃなくて三人か────似ってんだよなぁ、謎に自己評価が迷走してるとこ。リィナちゃんと、お兄さんと、ゆらゆらさん。
仲良く……というより、意識してか無意識かリィナが寄っていくのも自然っちゃ自然。落ち着くのだろう、根っこの空気感が同類なもんだから。
別にいい、悪いことじゃない。どっちも全然まったく嫌な人じゃないし、大いに懐いて仲良しになるがいい。不埒な目も向けそうにないし安心安全だ。
……けれどもやはり、それもそれとして。
「────っ、?、な、……」
あたしのだぞと、自分たちでも呆れるほどに瓜二つな半身を抱き寄せる。困惑の声はさもありなん、戦闘中になにやってんのと言われたらその通り。
けれども見晒せ世界。ビックリ困惑しながら頑張ってダウナー無表情を維持しつつ一生懸命真面目に戦闘へ集中しようとするリィナちゃん可愛いでしょう。
んじゃついでに、可愛いだけじゃなくて凄いところも見せたげるよ。
「リィナちゃん、アレいけそう?」
「────……、…………」
自信ない。
繋がった頭に響いてきた言葉と感情があまりに予想通りで、
「えー、あたしがついてるのにぃ?」
また一つ笑みを零しながら、傍目には訳のわからないことを……然して、実は的確に相方のツボを突いた煽り文句を投げかける。
響かないはずがない、応えないはずがない。いっそ罪なまでに、どうあろうとも別たれることのない信頼と親愛を築いてしまった自分たちにとって────
「…………………………がんば、る」
「んっへへ! そうこなくっちゃねぇっ!」
一人の意思は、
「『ひとつ』」「……『ふたつ』」「『みっつ』」「『よっつ』」
「『連ねて』」
「『重ねて』」
「「────『織り成す真事』」」
二人の、意思なのだ。
斯くして、身一つ〝桜〟を携えた者と追い回す魔弾の群れ。連発する爆炎の怒涛と逸らす轟風。二局が絡まり合い混沌の様相を呈する舞台……その中央に。
「────ぁ?」
「────え?」
紛うことなき必死の渦中。それでもなお一瞬なり目を奪われ、思わず間の抜けた疑問の声を零さざるを得なかった【曲芸師】と【熱視線】を筆頭に。
遍くアルカディアプレイヤーが知る姿……不格好な石塊が、現れた。
どっちも天才。方向性が違うだけ。