東の双翼
────東陣営序列最高順位元三位&四位。一時は【総大将】ゴルドウさえ抜き去り【剣聖】の下位にもつけた少女たちは、正確には『魔法士』ではない。
魔力……つまりはMPを以って現実改変の奇跡を顕現させていることに変わりはないが、その奇跡発現のプロセスが通常魔法とはあまりにも違い過ぎるゆえに。
異常を際立たせるため、敬意を称すため、畏怖を顕すため。遍くプレイヤーに適応される『魔法士』ではなく、彼女らは『魔法使い』と呼ばれるようになった。
核となるのは他でもない、二人に芽生えた《星魔法適性》のユニークスペル。【右翼】リィナが保持する幻惑魔法《夢幻ノ天権》────そして【左翼】ミィナが保持する現出魔法《巫現ノ天権》それぞれの奇異にして単一では不完全な力。
簡単に言えば、彼女たちの無法極まる大魔法連打は『リィナが描いた〝幻影〟をミィナが〝現実〟に変換する』ことで世界へ顕している連携技だ。
勿論、息ピッタリどころではない二人三脚の奇跡行使を『素』で実現している訳ではない。そこへ絡んでくるのが、仮想世界でただ二つだろう揃いの魂依器。
第五階梯【左翼たる描現の絵筆】、同じく第五階梯【右翼たる描夢の絵筆】。
装備者二人のステータス及び所持スキル及び諸々の感覚を統合する力を以って思考を繋ぎ、正しく『二人で一人となって』天災の具現者たりえている訳だ。
つまるところ、彼女らが生み出す魔法は逐一全てが共同製作の創造物。なればこそ、完成した『双翼』の奇跡には〝枷〟など存在しない。
詠唱、或いはシステムに寄るがための既定挙動など、通常魔法には必ず存在する〝縛り〟が────何一つ、在りはしないのだ。
「────ッふぬァアぃッッッ!!!!!」
王冠を灯し、火を灯し、宙を翔け叫ぶは必死にして決死の鳴き声。
弾速及び弾数ホーミング性能及び、おそらくは威力もぶっ壊れているのだろう雷の閃に追い回されながら《水属性付与》を掛けた拳連打。
ちびっこ共の魔法には、通常スキル魔法のような『核』が存在していない。つまり一点を狙い撃つのではなく、全体を消し飛ばさなければ相殺不能。
ゆえに、ギリ人間大程度のアレくらいならばエンチャ&フリレボの鉄板魔法迎撃コンボにて対処が叶うが……物には限度ってものがあってですねぇ?
「ぁちょっとムリ助けてお姉様ぁあッ!!!」
「はいはいっ……!」
ストーキング雷を気合で全弾撃ち落とした瞬間、理性でも本能でも一瞬なり気の緩みを避け得ないタイミング。フィールドの床を突き破り……否、床自体が変形した巨竜の顎が下方より迫り────迸るは、諸共呑み込む爆炎の奔流。
【紅より赫き杓獄の種火】により前もって彼女の〝魔〟を取り込んだ俺は、視界を奪われる以外は当然の無影響。が、万能性では桁外れの差を付けられようと、純粋な『威力』のみを見れば決して劣らない【熱視線】の炎は……。
「ぶぁっはッ……死ぬかと思った……!!!」
「あれだけ動き回って無被弾は流石ね……見てるこっちの目が回りそう」
キッチリと魔法ならざる大魔法を灼き尽くし、相方を彼女の元へ生還させた。
いや、マジで、もうほんと雛さんってか雛様。ここまで早二分弱、彼女とペアだったからこそ、彼女の火力支援であったからこそ生き延びられた場面ばかり。
対双翼に関しては、ぶっちゃけ他陣営含めて誰とのタッグだったとしても、ここまで抗せていた自信がない。一見【城主】なんかも能力的にイケそうなものだが、あの眠り姫とて弱点がない訳ではないので万能相手では分が悪いだろう。
流石は元『最強火力砲台』にして、現『遠距離瞬間火力最強』の御人。数多いるプレイヤーの中でも、単独にてアイツらの弾幕を迎え撃てるのは雛さんくらいだ。
当然、手数が違い過ぎるため完全拮抗は無理。が、そこは畏れながら俺が気張って補えばいい。……といったところでチラと横目。
「温まってきました?」
「あなたが一生懸命に気を引いてくれたおかげでね」
「いやまあ、陽動に掛かったフリして遊ばれてただけな気も……」
尽きることなき奇跡の暴威。爆炎を凌ぎ、雷を凌ぎ、土くれの巨竜を凌いだ俺たちを、舞台を揺るがし顕現した轟嵐の巨人が睥睨する。
一周回ってバカじゃねえのと笑い飛ばしたくなるような異常光景を揃って見上げながら……更に特大一発だけではなく、ご丁寧に周囲へ侍る色とりどりの弾幕に果たして音も上げたくなるが────白旗を上げるには早過ぎる。
「んじゃ、一発返しに行きますか」
「えぇ、行きましょう」
ならば、銃口は掲げられて、
「《見開く双眼》」
目覚めに倍する、冗談のような破滅の線が軌跡を引く。
斯くして【熱視線】の第二射は、狙い違わずビルのような巨腕を振り下ろそうとしていた嵐の巨人の胴を穿ち────炸裂した紅煌の余波は、周囲に侍る炎も水も雷も氷も岩も、その他の全てをも散り散りに吹き飛ばし荒れ狂った。
暖機運転、十二分なようで誠に結構。然らば俺も、
「〝想起〟」
そして、《天歩》────駆け足は此処まで、全力疾走を晒していこうか。
爆炎の余波の中から、当然のように無傷の様を披露した双翼の姿。そこへ迷わず歩を踏み出した俺の手には、喚び出した〝槍〟一本。
踏み込みの瞬間、目が合った朱色と水色。相も変わらず自信に満ち溢れた瞳四つに『最強おチビさん共がこんにゃろう』と頬を釣り上げながら、
振るう刃は、水の色。
「んぁえっ!?」
「っ……?」
旋転一歩、結の太刀《晴嵐》の要領で身を捻りながらの突貫。回転に従って空を、そして瞬く間に進路を塞いだ無数の魔法をぶん殴り打ち払ったのは、
長槍の鋒……ではなく、その逆側の石突。より正確には、紅と蒼の入り混じる不可思議な輝きを湛えた石突の小石片。それを基点に現出する大鎌の刃。
【魔煌角槍・紅蓮奮】────改め【魔紅蒼槍・鯨兎】の芸が一つ。
「ちょ、なにそ────」
「秘密」
目前の驚倒を鼻で笑い、蒼刃一閃。
薙いだ鎌刃は、しかし開幕と同様に光の障壁が阻み止めるが別にヨシ。
「ッ……ミィナっ」
「わぁってるぅッ!」
瞬間、轟爆。
おそらくだが、ソレが最も反射的かつ容易に描きやすい幻影なのだろう。これまた開幕同様の爆炎が溢れ出し、肉薄した俺を強制的に撤退させる。
────が、戦果重畳。二秒弱で一割は刈り取った。
「ぅえーなにそれえぐえぐえぐっ……!」
「…………」
もう何度目とも知れぬ後退からの仕切り直し、けれど向かいの反応は焼き直しに非ず。自分らのステータスから秒でMPがゴッソリ削られた事実を確認して、騒ぐ赤いのと眉を顰める青いのを傍から眺めようやく一矢報いた心地だ。
さぁて、まだまだこっから始まったばかり。
時間と共に熱を増していく〝炎〟が届くか、魔に触れるたび貪欲を増していく〝水〟が力を奪い去るか────或いは、双翼の羽ばたきが全てを吹き消すか。
奇しくも、お祭り陣営こと東四人の舞台なんだ。
「あっは、でも負けないけどねぃっ!」
「危なかった、集中して」
「まず一矢、あと九十九かな?」
「何時間、頑張るつもりなのかしら……?」
際限なく、盛り上げてこうぜ。
ラパン×ラファン。専属魔工師殿が言ってた改良案。
石突部分以外の見た目は特に変わってない。