時を重ね、至りて今
「────いぃや本当、堪んないなぁッ……‼︎」
試合開始より早五分。幾度とない交錯を経て彼我の実力を正しく読み取るに至ったユニが、避け得ず触れた氷の縛鎖を砕きながら独り言ちる。
元より、能力の相性では絶対的に不利な相手。ならば当然、
「いつまで余裕を、気取ってる……ッ!」
「そんなの、とっくに、ないっての!」
技術でも完全に上回った今、かの【無双】は真に【重戦車】の天敵となった。
いつかのように浮かぶ『笑み』を捉え違われ、刃と共に文句を放たれるが冗談じゃない。余裕なんてものありはせず、ここに至り一合一合が嘘偽りのない必死。
自らが望んでのこと……とはいえ、どうしようもなく経験値を与えすぎた。魂依器のみならず特殊称号の強化効果まで封殺されては正直どうしようもない。
「「ッ────」」
また一つ、交錯。奔る蒼刀を受け止めるべく短剣を構えれば、アバターが出力する超常の筋力によって直角に軌道を変えた刃が容易くガードを擦り抜ける。
そうして守りを避けたゆえに進路が限定される一太刀を躱し、返しの反撃を差し込もうとすれば────しかし、迸るは氷。
「っは、あーもうッ……!」
ユニの魂依器【星隕の双黒鋼】が持つ『重量偽装』の権能は、短剣によるアクションを起因とした事象に介入することでシステムを欺く力。
つまるところ、能動的にアクションを起こさなければ能力を発動できない。
であれば、たとえ一瞬といえど。近接戦と並行して自在に氷を操り行動を封じてくる囲炉裏が相手では、単なる短剣に成り下がってしまうのだ。
然して、一瞬の硬直にて反撃は不能。瞬間的な顕現にて脆い氷を無理矢理に砕きつつ、全力で後退し二の太刀を避ける……と、その繰り返し。
どちらが押されているかなど、明々白々といったものだ。
魂依器の権能は封殺され、それに伴い攻撃を受けさせてくれないため《小人の砲手》の砲弾生成もできやしない。対してあちらは〝冠〟を顕しつつも刀一本だ。
全くもって堪らない。喜びと悔しさが半々である。
「っとに────〝魔籠器〟って卑怯だよね。魂依器格差の最たる例だよ」
ともあれ流石に、このままタダでやられるのは勘弁願いたい。そう思い裏で思考を回しつつ打開策模索の時間稼ぎに乗り出せば、
「…………否定はしないが、お前が言うな」
と、律儀な後輩が乗ってくることはわかっていた。
「君の〝刀〟も、雛世の〝銃〟も、ズル過ぎるんだって。詠唱なしで大魔法並みの属性攻撃を連発とかダメでしょ、反則だよ反則」
「何度でも言うが、そっちの〝短剣〟も大概だろう」
それはそう。けれどもやはり『魔籠器』……魂依器の中でも特に強力な〝魔〟を秘めたモノたちが、イレギュラーめいた枠外判定を下されているのも事実だ。
他ならぬ囲炉裏が持つ【蒼刀・白霜】も、その一例。公開ステータスに偽りがなければ、僅か250程度のMIDでアレやコレを実現させてしまう異常存在。
世間では『あれ刀じゃなくて刀の形した魔法の杖だろ』なんて言われている始末。最も、感度が高過ぎて通常魔法の比ではない制御難を抱えているのが常とのことだが……なんにせよ、使いこなされた『魔籠器』がどれだけ脅威的であるか。
それは東の〝炎〟と〝氷〟が、世界に知らしめている。
で、目の前の〝氷〟の場合は殊更に────
「剣技も仮想世界で上から三番目とか欲張りすぎ。いい加減にしてよね」
という訳で、本当に堪らない。才能と努力が合わされば人はこうなるという究極の体現こと、誰が呼んだか無敵侍の出来上がりである。
……と、そんな文句を宣う裏でアレコレ考えるユニへ、
「…………で、もう時間稼ぎは十分か?」
囲炉裏は呆れたような溜息を一つ。知った上で付き合ったのだと言わんばかり、憎たらしい澄まし顔にて生意気を投げて寄越した。
斯くして、そんな後輩相手に先輩もまた笑み一つ。
思考の末に〝結論〟は出た。ならば後は、今を受け入れ足掻くのみ。
「あぁ、うん。もう十分────そしたら、第二幕と行こうか」
いつしか完全に自分を飛び越えていた後輩の、喜ばしい成長を祝福すると共に……せめて精一杯、先輩として己が矜持を示すのみだ。
ユニ君が思う仮想世界剣技トップ3
一位:アイリス 二位:剣聖 三位:囲炉裏
囲炉裏君が思う仮想世界剣技トップ3
一位:先生 二位:剣ノ女王 三位:自分 未熟者:後輩
実際のとこアーシェとお師匠様では剣技の方向性が全く別物なので比較無理です。ユニ君の『一位:アイリス』は特に身内の欲目とかではない。