憧憬だらけ
「おあー気合入ってんねぇ皆」
「一人を、除いて?」
「どうかしら。例年に比べれば、メイちゃんにも多少やる気が見えるけれど」
と、スクリーンに映し出された人外大戦争を眺めつつ、口々に女性陣が零すのは暢気極まる緩い雑談。ういさんやアーシェに火を付けられたとはいえど、やはりというかこういった部分で器や構え方なんかの違いを感じさせられる。
落ち着き過ぎだろ御三方。俺は友人二人のマジガチバトルっぷりに慄いているんだが? 他お二人については、まずなにをやってんだかわかんないとして──
「やっぱすげぇな、アイツら……」
思わず零れた独り言。意識したものではないからこその本音味が混じった呟きは、果たして耳聡い赤いのに聞きつけられ「はぁ?」と首を傾げられてしまう。
「そのアイツらと数ヶ月ぽっちで並んじゃった人が言いますぅ?」
とまあ、確かにそれはその通り。立場や純粋な戦闘能力云々では『並んでいる』と自惚れて良いのかもしれないが……しかし、そういうことではない。
「そういうアレじゃなくて、こう、滲み出るモノが違うというか」
「滲み出るもの」
「貫禄というか、説得力というか」
「なに言ってんの?」
赤と青の双方から首を傾げられてしまったように、他人には伝えづらいことなのかもしれない。あるいは、こういうのは男児特有の感性なのやも。
俺が〝それ〟を感じるのは、なにも囲炉裏やユニに限った話ではなく。先に戦り合った【糸巻】や【銀幕】もそうだし、なんなら勝ち負けを問わず、ここまでの試合全てにおいて先輩序列持ち方へ等しく抱いたものだ。
誰も彼も、格好良いんだよ。俺にはない深みがあってさ。
囲炉裏はマジ今更だけど本当なんなのアイツ。元々リアルでも『剣』を握っていたとはいえ、なにをたったの数年で無敵の大剣豪めいた腕を身に付けているのか。でもってそんな己が実力をキッチリ正しく理解把握した上で堂々と誇っているのが清々し過ぎてマジ腹立つ。完璧超人のブロンド侍がよぉ。
ユニもユニでマジ改めて本当なんなのアイツ。どうしてデビュー前は単なる料理家の好青年だった人間が、仮想世界有数の対人巧者として二位とかいう高み中の高みを序列成立以来キープしてんすかね。才能は勿論あったのだろうが、それよりなによりツッコむべきは自己研鑽の密度よ。こないだなんかのインタビュー記事を読んだけど、トレーニングメニューが最早ストイックってレベルじゃなかったぞ。
どちらも、根本的に俺とはタイプが違う。少なくとも俺は、そうとも思わず自分を苛め抜いて高みを目指すなんて真似はできない。精神性が別物だ。
隣の芝は青い、ってやつなのかもしれないが────
「あのストイック星人ども、必死に追いかける後輩の気も知らないでって感じだ」
大先輩たちの舞台を見るたびに、尊敬と憧憬を強制的に思い起こさせられて大変である。あっちは散々に俺を持ち上げるが、正しく『気も知らないで』ってやつ。
んで……。
「え、お兄さん追い掛けてる側のメンタルだったの? しゅしょー」
「当たり前だろ、俺が先輩方を舐めて掛かったことなんざ一度もないぞ」
「なにも気にせず飛んでるのかと思ってた」
「そんな無敵メンタルだったら、もっと普段から心穏やかに生きてるんだよなぁ」
「少なくとも、もう私は追い掛けられる側だと思ってなかったのだけど?」
「向かい合ってよーいドンで二割取る人がなに言ってんすか。ハッキリ言って、超絶有利状況からボコられる度に俺は深くガチ凹みしてますよ」
誰も彼もこんな感じだから、期待に応えたい立場としては割と真面目に気が気ではない。ゆえに、俺は先輩方と同じく暢気に舞台を鑑賞している暇がない。
見て、覚えて、自身に活かすための勉強を欠かせないから────と、
「ふーん。だぁからやけに真剣な顔して見てたんね、納得納得えらいえらーい」
「真面目。偉い」
「んー……そういうところを表に出していけば、もっと人気が出そうねハル君」
「それはご遠慮願いたいすね……えぇいちみっこども、お前らもなにかと変な構い方するんじゃない頭を撫でるな────いつの間に抜け出しやがったッ!?」
「ふっふーん! 大 先 輩 を甘く見るんじゃないよバーカバーカ!」
「小学生か貴様……‼︎」
重ねて誰も彼もこんな感じだから、もうマジ無理しんどいと思いつつも期待に応えたくなってしまう訳で……然らば、また一つ。
「さて……どっちが勝つかな」
大先輩方の勇姿を、この『記憶』に刻ませていただくとしよう。
憧れやすい主人公、根本的に後輩気質。
それはそうと熱を出して死んでます。頭痛と寒気がヤバくてやばいです。
数日ほど文字数抑え目の更新になるかもしれませんがご了承あれ。