Delivery
『――――ハーイお待ちかねの隙間時間っ! やってこうぜノノハルRadio‼︎』
『ねぇ、なんでまた勝手に転身体になっ――――』
『いやーもう調子はどうですか曲芸師さん! 一回戦も二回戦も暴れ散らかしてくれましたねクラウンさん‼︎ ご機嫌いかがですかハルちゃんさん‼︎ ねぇ!!!』
『なに、えっ……なん、なに、怖い、ごめん、怖い』
『んじゃまあ直近、とりあえずDブロック第二試合の感想から聞いてきましょうか! どうでしたか正しい意味での大魔法合戦を見届けての感想は‼︎』
『えぇ……いや、アレもアレで意味不明ってか無法に両脚突っ込ん――――』
『なるほどぉ!!!』
『言い切ってないよ。なにを納得したんだよ』
『結果としては〝双翼〟が流石の威信を見せ付ける形となりましたが、同陣営の序列持ち後輩としては先輩の勝利が嬉しかったりしちゃうんでしょうか!』
『…………ぶっちゃけ俺、同じ水魔法士としてのシンパシーとか先達への尊敬とか諸々込みでレコード氏を応援してたんですけれども――――』
『なるほどぉ!!!!!』
『振ったなら話聞けや。投球一辺倒かっての、会話をしてくださいますかね』
『それはさておき【銀幕】戦のアレなんですか曲芸師さん! 初出かつ効果不明の大魔法がどうたらこうたらって会場もネットも大騒ぎなんですけれども曲芸師さん‼︎ その他もツッコミ入れたいことだらけなんですけども曲芸師さん!!!』
『デシベルきっつ……』
『といったところで溢れる疑問は後のハイライトコーナーに丸投げしつつ、今回も始めてきましょうお便りコーナー!!! ぃえーいっ!!!!!』
『………………あぁ、はい。最初っから答えは求めてなかったのね』
◇◆◇◆◇
――――斯くして、現実時間の午後三時半。
「う゛む゛ん゛ぃ゛ッ…………」
辿り着いた二度目の休息時間、俺は【Arcadia】の筐体から這い出た流れでそのままベッドへと撃沈していた。
第二試合を終えた後。例によって『ノノハルRadio』とかいう徹底的に【彩色絢美】節の餌食とされる隙間時間を乗り越えても、まだお勤めは終わらず。
各ブロック二巡目の二回戦が滞りなく終わり、再びやってきたのは三次プログラムこと準決勝までのインターバル。さすれば前回に引き続いての陣営毎レクリエーションのトップバッターとして、イスティア面子が集まったのだが……。
もうね、ずっと俺が喋らされたよね。
いやまあ、仕方ない。言うて他の東勢が関与した試合は極まって理解不能の領域まで浸かっていた訳でもなく、例え疑問があれど一つ二つ解を示せば良い程度。
なればこそ、俺。
二試合目は勿論だが、一試合目も大概だったゆえの既定路線。ここはあれでそれはこうであれはそれでー……と、観客の代弁者とばかり延々ツッコミを投げまくってくる先輩方に必死で対応していたら持ち時間が終わっていた。
疲れた、死ぬほど疲れた。ただでさえファンタジー基準でも常識を粉々にする銀幕の舞台を踊り切り疲労困憊のところへ、追い打ちに次ぐ追い打ちである。
重ねて〝お勤め〟だと納得しているし割り切ってもいるゆえ、この極大の疲労感自体へ今更に文句を並べるつもりはないが……ひとつだけ。
――――否、一人だけ。
後で絶対に文句を叩き付けてやると決意している相手はいるぞ絶対に許さねえからな部屋の隅っこで我関せず試合解説を俺に丸投げした銀色あんにゃろう。
「――――――――――――――――……、っはぁあぁああぁああああ…………」
結局のところ、どうだったのやら。
我を貫き通すための〝喧嘩〟は、形だけならば俺が制した。けれども、それは所詮『試合』という場を借りてノリと流れで行き着いた結果。
人間、そう簡単に変われりゃ苦労はしない。というか、俺は別に彼あるいは彼女に『心を入れ替えろ』なんて傲慢極まる馬鹿を宣ったつもりもない。
ただ、こっち見やがれと文句を言っただけである。
遊びの誘いを蹴っ飛ばされたから、うるせぇ遊ぶぞテメェこの野郎と煽り倒して場へ引き摺り出しただけ……と、改めて我ながら大したクソガキムーブ。その上で相手に響いたか否か自信がないとくれば、本格的にピエロ呼ばわりを免れない。
後悔はしていないが、正直なところ反省はしているのだ。
全くもって俺はどうしてこう、仮想世界でテンション上がると自分で自分の感情や口を制御できなくなるのやらと。思い返せば、酷く痛々しくて嗤えてくるなと。
なので、先のことに関し文句を言うのはそれとして……。
「無礼は詫びねば男に非ず…………」
もしかすると今回のことでガチに嫌われた可能性も考慮しつつ、近い内に時間を取ってもらい目通りが叶うように立ち回らねば――――……と、
そんな風に遅すぎる一人反省会に沈んでいる俺を、誰かが呼んだ。
呼び鈴代わりの洒落乙メロディ。流石に聞き慣れた来客の音。
四谷宿舎の俺の部屋を訪ねてくる相手は僅か数人に限られ、更に片方のお隣さんは現在いまだ会場へログイン中……ならば三択。
スルーの選択肢など浮かびもせず。幻感疲労現実化の一歩手前といった身体をベッドから持ち上げ、一路よたよた向かうは玄関扉。
然して、さてどちら様かなとドアを開ければ、在ったのは亜麻色。
「……あ、ども。なにかご用で――――」
「ご用はこれでーすっ!」
一体全体、今日だけで何度、俺は言葉を遮られる運命にあるのだろうかと。
クールダウン中の鈍い思考で切なさを噛み締める俺を他所に、花が咲くような眩い笑顔と蕩けるような甘い声音を振り撒く画家兼アイドル声優兼イラストレーターArchiver(二十歳女子大生)様が何物か……――もとい、何者かを投擲し、
「……………………………………え? なに――――」
「ではではごゆっくりぃ」
出番三秒にて颯爽と去って行った三枝さんに取り残された、俺ともう一人。
「……………………………………………………え?」
結構な速度で胸に飛び込んできた華奢なフワフワ生命体。咄嗟に受け止めたそいつへ視線を下ろせば……果たして、
「――――……、…………???」
「いやお前も状況吞めてないんかい」
ニアことリリアニア・ヴルーベリ嬢より鏡写しの困惑を頂戴した瞬間。俺の口から疲労を押して元気なツッコミが飛び出したのは、まあ当然のことであろう。
差し入れでーす。
ってな訳で五章第三節、ゆるりと綴って参りましょう。